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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二部 二章

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第137話

 風音が白凪館より出荷されて数日。

 九奈白風音主催、祝賀会という名の婿漁りパーティーのいよいよ当日。


「…………結局どうにもならなかったわ」


「いやぁ、あっという間でしたねぇ」


 悔しそうに臍を噛む凪と、呑気な織羽(おりは)

 この数日、凪も状況を座視していたわけではない。成算の有無を問わず、自分に出来る限りのあがきはやってみせた。

 しかし今回の首魁は母・風音だ。九奈白家の裏ボスが相手とあっては、凪に出来ることなどたかが知れている。結局凪の打ち出した対抗策はどれもが空振り、あるいは効果を発揮しなかった。以前話していた欠席云々に意味がないことくらい、凪も理解している。事此処に至り、最早凪は万策尽きていた。

 

「でもまぁやれるだけの事はやったわけですし、あとは野となれ山となれってことで」


「…………他人事だと思って、簡単に言ってくれるわね」


 ムスっと――――というより、凪は珍しく苛立ちを表に出していた。

 自身の策が成らなかったことももちろんそうだが、なにより織羽(おりは)の態度が気に食わなかった。


(確かにこれは私の問題で、このコには関係のない話かもしれないけれど…………もう少し親身になってくれたっていいじゃない)


 今回の問題はいわずもがな凪、ひいては九奈白家内だけの問題だ。

 加えて命の危険があるわけでもなく、言ってしまえば、ただ将来の婿候補を探そうというだけのもの。仮に風音が婿候補を選んだとして、直ちに婚約が交わされるわけではない。謂わば青田買いの類でしかないのだ。故に織羽(おりは)の呑気な態度も、あながち間違っているわけではない。


 それでも、もう少し真面目に考えてくれてもよいではないか、というのが凪の本心であった。

 凡そ半年間というこれまでの月日と、そして織羽(おりは)の失踪事件を経たことで、少しくらいは深い仲になったと対人弱者ながらに思っていたのだ。どこにでもいる事務的な主従よりは、余程良い距離感で付き合いが出来ていると思っていたのだ。少なくとも、相談に乗るくらいのことはしてくれるものだと。


 しかし蓋を開けてみればどうだ。

 この失礼なメイドは相談に乗るどころか、この数日間、事あるごとに外出を決め込んでいる。

 風音の滞在時もそうだったし、その後も頻繁に『お暇を頂きたく』などと言ってどこかへふらふらと出かけていた。

 

 これは九奈白家の問題であると認識していたからこそ、凪はいちいち織羽(おりは)の行動を咎めたりはしなかった。

 一体外で何をしているのかと問い質すようなこともしなかったし、休暇の希望を却下することもなかった。近頃は他人を頼る事を覚えた凪だが、しかしこれでは『頼る』というより、ただの『甘え』だと思ったからだ。本心では相談に乗って欲しかったが、そこで素直になれる程簡単な性格でもなかった。


(自分の主が困っているのだから、普通はもっと心配したりするものじゃないかしら? 普段の仕事はいちいち完璧なくせに、こういうところは気が利かないんだから)


 自分のことを棚に上げ、徐々に機嫌を悪くしてゆく凪。

 ここ数日のやりとりを思い返せば思い返すほど、織羽(おりは)に対して苛立ちが募ってゆくのだ。

 内輪揉めに付き合わせるわけにはないかない、という思い。少しくらい助けてくれてもいいじゃない、という思い。この相反するふたつの感情をどうすればいいのか、対人雑魚の凪には分からないのだ。それ故のムッスリ顔である。


 そんな、まるでいつぞやのツンドラ期に戻ったかのような凪であったが――――。


「それにしてもお似合いですね」


「…………何が」


「もちろんドレスが、ですよ」


 運転中の織羽(おりは)と、バックミラー越し――スマートミラーではない――に目が合う。

 館での着替え直後は何も言わなかった癖に、だ。不意打ち気味で告げられた感想に、凪が驚きで目を丸くする。


「…………そ」


 そうして素っ気なく、窓の外を眺めながら小さく呟いた。

 それは、誰がどう見てもただの照れ隠しでしかなかった。

 

 織羽(おりは)には妹が居た。殆ど呪いか、あるいは自縄自縛の鎖と化している最愛()()()妹。

 故に織羽(おりは)は経験――酷く偏りがあるが――から知っていた。妹がそうであったように、女性というものはなんでもいいからとにかく褒めておくべし、と。織羽(おりは)のようなノンデリメイドから褒め言葉が飛び出した、その理由がこれである。

 

 しかし忘れてはならない。

 凪と同様に、織羽(おりは)もまた対人弱者だということを。

 これといった捻りもないベタな褒め言葉で、褒めるタイミングとしても些か微妙。一見すれば気の利いた一言のようにも思えるが、よくよく考えれば突拍子もない一言。どうということはない。織羽(おりは)にとって『女性を褒める』という事は、ほとんど天気デッキ(とりあえず)と同じようなものなのだ。任務遂行に不可欠なスキルを、上っ面だけ習得してきた結果である。


 そんな『今日はいい天気ですね』程度の褒め言葉でまんまと機嫌を治すのだから、受け手側(なぎ)も始末に終えない。

 雑魚と雑魚の戦いなど所詮はこんなもの、手札の全放出(オールイン)以外の選択肢がお互いに存在しないのだ。周りから見ればなんとも稚拙で、駆け引きもへったくれもない微笑ましいやりとりであった。星輝姫(てぃあら)あたりがこの光景を見ていれば、腹を抱えてその場で転げ回っていたことだろう。


 そうして車内を再び沈黙が包み込む。

 しかし苛立ちから来るような嫌な空気ではなく、不思議と居心地が悪くない沈黙だった。

 疑似天気デッキ(似合ってますね)の一本槍で成したとはとても思えない、そんな穏やかなムードである。


「あ、橋が見えてきましたね」


 車の前方、遠くの方に小さな光見えた。

 今回のパーティー会場は総会と同じく、九奈白コンベンションセンター――通称『イベント島』で開催される。形式上は総会成功のお祝いパーティーなので、会場も同様にということらしい。倒壊した展望棟は既に修繕が完了しており、会場として使う分には全く問題がない。これだけの早さで修繕出来たのは、偏に『そっち系』技能(スキル)持ちが投入されたからである。もちろん雇用報酬はなかなかの金額となるが、九奈白家がそんなことを気にするはずもなく――――札束ビンタの強さに於いて、九奈白を超える組織などそうはいないのだから。


 凪の機嫌は幾分マシになったものの、しかし進めば進むほど、彼女にとっての処刑場は着実に近づいてくるのだ。

 まるで出荷される家畜のようなどんよりとした眼差しで、凪が橋の方へと視線を送る。そこでは島に出入りする車への検問が行われていた。


「ただの祝賀パーティーに、随分と大掛かりなことね」


「まぁ、あんなことがあったばかりですしね。喉元過ぎれば、なんて言いますし、慎重なのは良いことかと」


「それはそうだけれど…………はぁ、あそこを越えたらもう逃げられないのね」

 

 高価なドレスも豪華な料理も、彼女の憂鬱を晴らす要因たり得ない。

 この後数時間にも及ぶであろう、見知らぬ者たちからの挨拶とつまらない話を想像し、げんなりとした様子でシートに背中を預ける凪。

 

「大丈夫ですよお嬢様、私がついております! お嬢様に群がる悪い虫は、この私が全て排除して見せましょう!」

 

 パーティー会場へ向かっているとはとても思えない、そんな萎みきった凪を元気づけようと、鼻息荒く意気込んでみせる織羽(おりは)

 だが、しかし――――。


「…………一応言っておくけれど、メイドは会場内には入れないわよ?」


「そんなー」


 会場で饗されるであろう、贅の限りを尽くした料理の数々。

 それらを楽しみにしていた織羽(おりは)は、衝撃の事実に打ちひしがれることしか出来なかった。

 

そんなー(´・ω・`)

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― 新着の感想 ―
メイドは出禁よー
酷い言い様ですね!w
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