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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二部 二章

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第131話

 その日、凪は沈痛な面持ちでこう言った。


「お母様が来るわ」


 当然というべきか、風音が凪の顔を見に来るという。

 そもそも街にやってきた理由を考えれば、いずれこうなるであろうことは目に見えていた。

 曰く、風音の襲来予定日は明日であるらしい。となれば、凪が取るべき行動はひとつだ。


「というわけで、時間稼ぎをするわよ」


 そうと意気込んでみせる凪。

 

「お嬢様…………もう諦めて、正面からぶつかったほうがよいのでは?」


 呆れるような声で諌めるのは花緒里(かおり)だ。

 基本的には凪の味方である彼女だが、今回ばかりは相手が悪い。


 凪ですらも、風音の決定には抗えないのだ。

 であればこそメイド長とはいえ、所詮はいちメイドの花緒里(かおり)に出来ることなど何も無い。いっそいらぬ企みなどせず、真摯に訴えかけたほうがマシなのでは、と彼女は考えていた。そして仮にそうするのなら、小細工や妨害は風音の心象を悪くしかねない。いつにもまして花緒里(かおり)が消極的なのは、そのあたりが理由であった。


 今更そんな事をしたところで意味がないことなど、もちろん凪も分かっている。

 仮にどうにか一日二日、風音の襲来を遅らせることが出来たとして、一体それがなんだというのか。いずれは結局やってくるし、例の祝賀会も中止にはならない。

 もっといえば、今回の祝賀会を中止にしても根本的な解決には至らないのだ。この問題の本質は凪の婚約者選びという点にあり、そこを解決しなければ、どんな手を打っても問題の先延ばしにしかならない。もちろん凪はそれも分かっている、分かっているが。

 

 それはそれ、これはこれ。

 ただすんなり受け入れるのは、なんだか負けたみたいで腹立たしいのだ。


「いいえ、やるわ。結果はどうあれ、抗う姿勢を見せることが大事なのよ。ねぇ織羽(おりは)?」


「ウス」


 花緒里(かおり)の進言もなんのその。徹底抗戦の構えを見せる凪。

 そして明らかにノリだけで同意する織羽(おりは)。そもそもの話、織羽(おりは)は家族間で揉めるという展開事態がよく分かっていない。否、状況自体は正しく理解しているが、感情面でのあれこれがピンと来ていない、というのが正しいか。両親の記憶は既におぼろげで、喧嘩はおろか、どんな会話を交わしていたのかもよく覚えていないのだから。


「と、まぁノリで返事しましたけど…………実際どうするんですか? 風音様が滞在されているホテルを、軽く爆破とかしてみます?」


「そうね、いくらお母様でも吹き飛ばしてしまえば――――冗談を言っている場合ではないのよ」


 凪が過激派(おりは)の提案をぴしゃりと切り捨てる。

 別に凪は、風音を亡き者にしたいわけではないのだ。ちょっとした抵抗の意思を見せておきたいだけである。


「お母様は普段、仕事で海外を飛び回っているわ。その所為なのかは分からないけれど、帰ってきた時にはとにかく街でぶらぶらしたがるの。それも一人で」


「そこを狙って誘拐、監禁するというわけですね」


「そうね、手足を拘束してそこらの廃ビルにでも――――普通に犯罪ね」


(とか言いつつ一応付き合ってくれるあたり、お嬢様って案外ノリいいよね)


 いちいち物騒なことしか言わない織羽(おりは)に若干呆れつつ、凪が話を続ける。

 

「もちろんお母様ほどの立場にもなれば、一人で出歩くなんて許されないわ。いくらお膝元の九奈白市内でも、ね」


「ははぁ」


「常に見張りを兼ねた護衛が複数名付いているわ。でも、お母様には彼らの監視を掻い潜って脱走する癖があるのよ」


 ここまでくれば、流石の織羽(おりは)にも作戦の見当がついてきた。

 一人になりたがる風音、それを許さない護衛。つまり護衛達はある意味で、凪の味方たり得るということだ。


「今日も脱走しているであろうお母様を探して、秘書に居場所をチクるわ。そうすればお母様は連れ戻され、しばらくの間外出が出来なくなる」


「九奈白家の奥方を外出禁止に、ですか?」


「お母様の秘書はとてもしっかりした人なの。脱走はやめるよう前々から母に注意をしていたみたいだし、問答無用で外出禁止にしてくれる筈」


 凪の作戦をまとめると、つまりこうなる。

 

 まず、九奈白風音はひとりでこっそり遊びに出かける癖がある。

 しかし風音の秘書は厳しく、バレた際には数日間の外出禁止令が言い渡される。

 そこで、街で遊んでいる風音を探し出し、護衛にチクることで強制送還、および外出禁止にしてもらおう。


 と、まぁそういうことらしい。


(お嬢様の母親ってことはそこそこいい歳でしょうに、どこぞのお転婆姫みたいな動きしてるなぁ……)


 護衛の目を盗んで街へ遊びに出かける。

 成程確かに、ファンタジー世界のお姫様が如何にもしそうな動きである。

 

「上手く行けば、最低でも三日程は外出禁止に出来るはずよ」


「あ、ホントに厳しいですね。秘書パワー凄すぎませんか?」


「お母様の実家から付いてきた人なのよ。いわゆるお世話係みたいな方ね。お母様は名家の出身だし、相応にお付きも厳しいの」


 織羽(おりは)のイメージが伝わったというわけでもあるまいが、しかし九奈白風音は本当にお姫様的な出自であるらしい。

 奔放な風音の手綱を握る秘書が存在するのであれば、この荒唐無稽な作戦にもある程度の成算が立つというもの。とはいえやはり、娘からのささやかな抵抗といった域は出ないが。

 

「このまま放っておけば、ゲリラ的にここへやって来かねないわ。実はもう敷地内に侵入してたりして」


「妖怪みたいな扱いになってきましたねぇ」


 あまりにもあまりな凪の言い様に、流石の織羽(おりは)も苦笑気味であった。

 さておき、九奈白風音妨害作戦の概要はこれで全てだ。あとは行動に移すだけなのだが――――ここで花緒里(かおり)から疑問が呈される。


「色々とツッコみたいところはありますが…………そもそもの話、どうやって奥様を探すおつもりで?」


 当然の疑問だ。

 風音の居場所を告げ口しようにも、肝心の居場所が分からなければ話にならない。

 しかしその点も抜かりはないらしく、凪は自信満々にこう告げた。


「もちろん既に手は打ってあるわ。織羽(おりは)の伝手で情報収集を頼んであるの。ねぇ織羽(おりは)?」


「ウス」


 当然ながら、こんな下らない家族間のじゃれ合いに、(ひそか)星輝姫(てぃあら)の手を煩わせることは出来ない。

 ここで言う伝手とは先日ゲットした期待の新人、つまりはケイとハルのことだ。


 昼はクレープ屋として噂話などの小さな情報を、そして夜はその能力を活かし、より深い情報を。

 二人は表と裏の顔を使い分けながら、この街の情報を集めてくれていた。言わずもがな、そこらの諜報員よりもよほど腕の立つ二人だ。そんな彼らが本気で動けば、風音の位置情報を得るくらいは造作もないことである。


「というわけで織羽(おりは)、行ってきなさい!」


「お任せを!」


 凪の命により、颯爽とその場を後にする織羽(おりは)

 その背中を見届けながら、花緒里(かおり)がぽつりと呟いた。


「位置情報を告げ口するだけなら、連絡を入れるだけでいい筈ですよね? 織羽(おりは)は一体何をしに外へ?」


「…………よく考えると、それもそうね」


 これまでのツン期が影響しているのか、あるいは何か、両親に対する気恥ずかしさのようなものでもあるのだろうか。

 嵐士の時もそうであったが――――両親が絡んだ時の凪は、意外とポンコツであった。

 



       * * *




 特に理由もないまま、織羽(おりは)が放たれてからおよそ一時間後。


「ただいま戻りました」


 玄関ホールから聞こえた帰還の声に、凪がひょこりと顔を出す。


「悪かったわね。途中で気付いたのだけれど、別に貴女が出る必要は――――」


 凪が謝意を伝えようとして、しかしその言葉は途中で詰まってしまう。

 玄関に立っていた織羽(おりは)が、どういうわけか()()姿()()()()を抱きかかえていたからだ。


織羽(おりは)…………()()は何かしら?」


「いえ、これは、そのぉ」

 

 そもそもの話、織羽(おりは)が出る必要は一切なかった。

 そんなことには織羽(おりは)もすぐに気づいたはずで、恐らくは適当に買い物でもしているのだろうと凪は思っていた。

 が、しかし。

 

「やっほー凪ちゃーん! 久しぶりー、元気にしてましたかぁー?」


 織羽(おりは)がお姫様抱っこスタイルで連れ帰ってきたのは、他でもない九奈白風音その人であった。

 

「なんでしょう…………スケベそうな人妻、とかですかね?」

 

「――――どうしてこうなるのよッ!!」

 

 そういえば、いつぞやも似たようなことがあったなと、凪は激しい既視感に襲われた。

思っていたよりもワイバーンお兄様へのツッコミが無い!?

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― 新着の感想 ―
ワイバーンはなんかこう、斜め上すぎてツッコミが… それはそうとお姫様抱っこなんてしたら男ってバレそうですね。
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