15.魔物の噂
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禁入町大崩の定点よりX-147Y109の地点に「魔物」の目撃情報あり
至急調査を開始せよ
僕と時田衣名は大崩の駅にやってきていた。
「いまいち要領を得ない」噂を調べるためだった。
改札口へ続く階段を上り、角を曲がる。
そこにあったのは改札…ではなかった。
「え…?」
僕達はしばらくそれが何であるかを判断できなかった。
「建物」。
一部がガラス張りになっている建物がそこにはあった。
まるで屋根を切り取ってはめ込んだように鎮座している。人は誰も通っていない。
僕達が呆気に取られていると…誰かが出てきた。
ガラス戸から人が出てきたのだ。
「あれ?え?」
「彼」は激しく動揺しているようだった。
僕達はその20代くらいの男性に話しかけた。
「いや俺、ボウリングしてて…え?なにこれ?どこ?」
見れば確かに建物にはボウリングピンの絵が描かれたポスターが貼ってあった。
「ここは大崩駅です」
「おおくずれ?マジでどこなん?」
言っているとまた、一人出てきた。
「?なにこれ?」
それは30代くらいの女性だった。
ふたりはひどく混乱し、僕達にも猜疑的な目を向けているのを肌で感じる。
僕はというと…直感だが、「これ以上こちらに人が来るのを阻止しなければならない」と思った。
また誰かが出てこようとしているのが見えた。
「駄目だ!今は出たらいけない!」
僕は「ボウリング場」の扉を押した。
「向こう側」から僕の姿は見えてはいないようで、扉が開かないのを不思議がっていた。
やはり若者であろう彼が奥へ引っ込むと、今度は高校生らしき男性が出ようとした。
彼は大柄で、また力も相当に強く、僕の力では抑えきれず結局出てきてしまった。
「なんだ?なん…ええ?」
出てきた人々はここからずっと離れた都市部のボウリング場に行っていたらここへ来てしまった、と一様に言っていた。
僕は衣名も含めた彼ら彼女らを説得し、これ以上人が外に出ないようにと頼んだ。
何か言いたくとも状況も飲み込め得ず、皆結局は納得してくれた。
5人がかりで扉を押さえ、なんとか人が出てこないようにする。
すると、扉の向こうにボウリング場のスタッフらしき人がやってきた。
「…?」
妙な違和感があった。
すると彼はてこを使って無理やりに扉を開けようとしてきた。
「おいおい…これヤバいぞ!」
「もうっ!諦めなさいよっ、この…!」
「うおぉぉッ…!」
凄まじい力に5人がかりでも押さえ切れない。
と、僕は違和感の正体に気づいた。
「この男だけは…まるで僕達が見えているような素振りだった」。
―――扉は開けられてしまった。
「どうかなさいました?」
その声に5人は振り向いた。
そこには50代くらいの男性駅員が立っていた。
名札には「嵯蛾」とあった。
「え、いや…」
見るとそこには、ボウリング場などなかった。
「急に皆さん倒れられて…心配でお声がけさせていただきました」
いや、それよりも。
僕としては「出てきた3人」がまだここにいることの方が、信じ難かった。
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「まあこんなこともある。人生は色々だ」
上司の神谷は慰めの言葉をかけてくれた。
「あのボウリング場は閉鎖されてしまっているらしい。まずは『協力者』を見つけるところからだな」
彼の声は僕の心の騒めきにかき消されてしまう。
「風住市で強盗殺人 男を逮捕」
「児童虐待死 母親を送検」
「不治大橋いじめ殺人 加害者の顔写真・実名を公開」
皆、あの日大崩駅で見た顔だった。




