13.霊媒師の噂
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冠中町蜻蛉塚の定点よりX90Y-13の地点に「霊媒師」の情報あり
至急調査を開始せよ
僕が「お祓い」を行った山奥のある寺を除いては、僕は霊媒師という存在をあまり信じてはいない。
「本物は少ない」。その傾向は他の職よりずっと強いだろう。
「なんか…人と会う方が怖いかも、ね?」
4日前も交差点のど真ん中で気絶した時田衣名はさらりと、耳を疑うようなことを言う。
僕は聞かなかったことにして、「霊障・キツネ 予約不要 初鳩ヤヱ子霊媒事務所」の看板を掲げた小さな事務所へと入っていった。
「いらっしゃい…あら、若い人とは珍しい」
そこには5、60代くらいの女性が折りたたみ机とパイプ椅子で何やら書き物をしており、その後ろには40代くらいの太った大柄な男性が手を後ろにして立っていた。
僕達は促されるまま、ふたつ用意された手前の椅子に座る。
「ここに来るってことは何か怖いことがあったのよね。何でも相談して頂戴」
「実は僕…たぶん、昔付き合っていた人に呪われているんです」
僕は出まかせを言った。
これを彼女が悟ることが出来れば、もしかすれば霊能力があると言えるのかもしれない。
ここに予約は入れていない、彼女たちが事前に僕を調べることはできないだろう。
「そうなの…恋愛のもつれは厄介なのよね」
「ええ…それで」
「嘘だ」
後ろに立っていた男性が大声を上げた。
「オマエ、今嘘を言ったな。母さんを騙そうとした!」
「し、シゲル、今は仕事中で…」
「オマエらは嘘つきだ!母さんを疑ってペテン師呼ばわりする気だ!」
男性は後ろの手から出刃包丁を構えた。いつ襲いかかられてもおかしくないほどの激高だった。
女性はショックを受けてその場に固まってしまった。
僕は席を立って衣名を背後にやった。
もうごまかしは無意味だと判断した。彼の方は「本物」だったのだ。
「まだ少し疑っているだけです。この疑念は信用できる人とだけ共有して、決して人には口外しません。約束します」
「…オマエが『暴かれた』らどうする!だいたい、嘘つきなオマエの言葉なんて信じ―――」
シゲル、と呼ばれた彼は急に声を失った。
眼は見開いているが…僕達の方を見てはいない。
「あ…ああ、ドアの向こう…」
そう呟いたかと思うと、彼は包丁をドアに投げつけた。
「うああーーーあああーーっ!!あああーーーーーーーーーーーっ!!!」
絶叫の後、彼は事務所の裏の勝手口から外へ飛び出していった。
女性…初鳩ヤヱ子氏は病院に搬送された息子のベッドの横で涙ながらに語った。
昔から自分は各地を転々としながら霊媒師として活動していたが、その度心無い言葉を投げつけられてきたという。
横でそれを見ていた息子の「志気流」氏はいつも「自分も霊媒師になって、母さんが嘘つきじゃないと証明する」と言っていたという。
「霊媒師の修業ができる『学校』があるって…あの子そこに行って、帰ってきたら…ああ、私が止めるべきだったの…嫌な予感がしたのに、あの頃の私は自分の力を疑っていた…」
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「…なんか、酷いことしちゃったね…私達」
僕達は病院を後にした。
「…不用意ではあったな」
僕はそう言いつつ、頭の隅では先ほどの出来事を反芻するように思い出していた。
「『暴かれた』らどうする」?
僕が誰かに勘繰られることを危惧しているのか?
だが「暴かれる」という言い方からして、「無理やり秘密を暴露させる」というようにも取れる。
「…『学校』で教えているのか?『やり方』を」
僕の小さな独り言は、おそらくは誰の耳にも響くことはなかっただろう。




