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対決

1986年6月8日日曜日、7月に行われる子供会対抗ソフトボール大会に向けて、日曜日は早朝に練習がある。


せっかくの休日だから、ゆっくり寝ていたいのだが、学校がある平日より早く起きなければならない。俺はソフトボールの練習などめんどくさいのだが、他の児童はみな嬉々として練習に参加している。俺からすれば、何が楽しくてわざわざ早起きしなければならないのかと思うのは、やはり俺が中身はオッサンだからであろう。


この日はイケこと小池伸二の自宅での家でお泊まり会だったため、ジュンこと山口淳平、フジダイこと藤井大介も含むいつもの四人組で楽しい夜を過ごし、イケの自宅の客間で朝を迎えた。


日曜日の朝は子供会のソフトボールの練習がある。俺達は早めの朝ごはんを食べてから、用意していたユニフォームに着替えてそれぞれの練習場所に向かった。


俺とジュンは同じ新町一丁目子供会なので、二人で練習場所である新町公園グラウンドに自転車で向かった。途中で同じチームの下級生や同じグラウンドで練習する新町二丁目の連中に合流し、最後は10人くらいの自転車の隊列となってグラウンドに到着した。


グラウンドには俺達新町一丁目子供会のメンバーが勢揃いしていて、整列してから同級生の竹中修の父親である監督に挨拶をして、それから準備体操とキャッチボールをするといういつも通りのルーティーンで練習は進む。この後は監督から今日の練習メニューが発表される。


俺達はホームベースのあたりに立つ監督を取り囲むように集合した。


「今日はこれから全員で学校に移動して練習試合だ」


竹中監督の言葉に選手達がざわついた。


「どこと試合するんですか?」


5年生の丸山光則が質問をした。それは誰もが聞きたい事なので、選手達は押し黙って監督の言葉を待っている。


「高山町二丁目だ。去年は夏の大会はベスト4、秋の新人戦は準優勝だからかなり強いぞ」


監督の言葉に選手達が再びざわついた。


(イケのチームと試合か……)


俺にとっては、強豪チームというより、イケが四番でエースを務めるチームという印象である。おそらく、ジュンも同じ印象を持ったに違いない。


「イケと対戦かぁ……あいつ、速い球を投げるから打てんよなぁ」


俺の隣にいたジュンが話しかけてきた。


確かにイケは好投手と評判だった。


(イケもだけど、あそこは六年生が多いから強いだろうな)


高山町二丁目は五年生と六年生だけでスタメンを組める程人数が多い。


高山町一丁目と高山町二丁目は面積が広いため、住んでる人も多いからである。


「勝てんじゃろ……」


「1点くらいは取りたいなぁ」


「弱いとこと試合を組めばいいのに」


チームメイトは試合前から諦めムードである。そんな事では勝てる試合も勝てなくなるのだが、俺も口にこそ出さなかったが彼らと同じ気持ちだった。


とはいえ、試合をする事はただ練習するよりは楽しい。チームメイトはみな意気揚々と自転車で学校へと移動した。


学校に着くと、既に高山町二丁目の水色のユニフォームを着た選手達がグラウンドで練習していた。


俺達とは別にクルマで移動した竹中監督は既に到着しており、三塁側のベンチで俺達を待っている。


俺達が監督が待つ三塁側ベンチに集合すると、監督はさっそくスタメンを発表した。前回の練習試合と同じく俺は三番ショート、ジュンは七番レフトである。


そして、高山町二丁目と監督同士でメンバー表が交換され、竹中監督が相手チームのスタメンを発表した。


高山町二丁目はスタメンを六年生5人五年生4人と上級生で固めており、おそらくベストメンバーだと考えられる。俺と同じクラスからはイケが四番ピッチャー、西豊治が五番サードでスタメンに名を連ねている。


「竹中さん、うちはノックは終わってます。そちらはシートノックをやりますか?」


高山町二丁目の監督がやって来て竹中監督にシートノックをやるか尋ねた。


「少しやらせていただきます」


竹中監督が答えているのを聞いて俺達はグローブをはめて立ち上がった。


それぞれ、普段守っているポジションでノックを受ける。相手チームを待たせているためか、竹中監督はどんどんノックを打つ。そして、全員がノックを終えるとすぐに試合開始となった。


キャプテン同士のじゃんけんで、高山町二丁目のキャプテンである山中幸雄が新町一丁目のキャプテンである竹中に勝って先攻を選んだため、俺達は後攻である。


ホームベースを挟んで整列し、挨拶をしてから俺達は守備位置に散って行った。


マウンドに立つのは五年生の丸山光則である。光則はコントロール重視の投球スタイルで、インコース、アウトコースの際どい所に丁寧に投げ込んでいく。


しかし、今日の光則はコントロールが定まらず相手の一番、二番に連続でフォアボールを出し、そこからクリーンアップに連続タイムリーを浴びる等、立ち上がりが最悪だった。更に守備の乱れもあり、1回表にいきなり5失点という厳しい試合展開になってしまった。


1回裏、今度は俺達の攻撃である。三番を打つ俺にも打順が回って来る。


相手投手は友人のイケである。イケの投球スタイルは技巧派の光則とは正反対で、速球をストライクゾーンにどんどん投げ込んで来る。


イケの速球に俺達の一番二番打者は押されてしまい凡退、ツーアウトランナー無しで俺の打順である。


イケはボール球をあまり使わず、ストライクゾーンに投球を集めるタイプなので、俺はど真ん中に狙いを定めて打席に立った。初球からでもど真ん中に来たら打っていくつもりだった。


その初球、まさに狙っていたど真ん中にイケの豪速球がやって来る。俺はその球を力一杯にバットでひっぱたいた。バットに球が当たった瞬間、ズシッと来る重みがある衝撃が俺の手を襲ったが、衝撃に負けないように両手でバットを振り切った。


手応えのあった打球が投手のイケの横を飛んで行く、俺は全力で一塁に向かって走ったのだが、運悪く打球は相手のショートの真正面のライナーだった。


俺はイケの豪速球でも捉えられるという手応えはあったのだが、結局は三者凡退で攻撃は終わってしまった。


2回表からマウンドには光則に代わり、捕手から竹中がリリーフとして上がる事になった。光則は竹中に代わり捕手となる。竹中は速球主体の投球だが、ややコントロールが良くないのが欠点である。


竹中は相手に的を絞らせない投球を見せたいところだったが、甘く入った球を狙い撃ちされこの回3失点、序盤で大差をつけられてしまった。


2回裏に俺達が四番竹中のランニングホームランで1点返し、2回を終えて1−8で7点ビハインドである。


3回は両チーム無得点で4回に入る。この試合は5イニング制なので、これ以上の失点は許されない。


4回表、ツーアウトランナー無しから竹中のコントロールが突然乱れ、連続フォアボールからタイムリーを浴びて1失点してしまった。


4回裏は俺から攻撃が始まる。この回からイケに代わり五年生の投手が出て来ていた。イケをはじめ、六年生は全員ベンチに下がり、四年生や三年生が守備についている。


俺の打席であるが、このリリーフ投手は右打者の外角を上手に使うタイプらしく、外角一杯の球をかろうじてバットで拾ったのだが、打球は飛ばずファーストゴロでアウトになってしまった。


結局この回も俺達は無得点で試合は最終回の攻防へ。


5回表、下級生主体の相手チームの打線を竹中が三者凡退に抑え、5回裏の反撃に期待したかったが得点は入らず1−9で負けてしまった。


試合が終わり俺達は解散してそれぞれ帰宅する。


「しかし、今日は全然勝負にならなかったな」


帰宅中、自転車を走らせながらジュンに言った。


「イケの速球は打てんよ。しゃーない」


ジュンが苦笑いしながら言った。これだけコテンパンにやられたらもはや笑うしなかった。


帰り道、俺は自分なりに敗因を考えてみた。


まずは光則がいきなり5失点、その時点で勝負がついたも同然だった。


次いで、守備が乱れ失点に繋がった事。


更に、イケの速球に押されて俺達に反撃の糸口すら掴めなかった事が挙げられるだろう。


光則が立ち上がりに不安定だったのは、投球練習をしないでマウンドに上がったからである。これはしかたない。


しかし、守備の乱れや打線の力不足は深刻な問題だ。


守備に関しては、練習の時には捕れるような当たりを弾いてしまったりしていた。これは、練習ではノッカーが自分の所に打って来るとわかるので、準備して待ち構える事が出来る。しかし、試合ではいつ打球が飛んで来るかわからない。常に集中していれば問題ないのだが、集中力を持続出来ず気を抜いていた時に打球が来ると、つい慌ててしまうのである。


打線が打てない原因は明確である。一言で言えばバットがきちんと振れていない。つまり、バットの使い方がでたらめなのである。


俺達は守備の際の心構えやバットをしっかり振るという、基本中の基本が全く出来ていないように俺には思えるのである。


(まずは打球に対する集中力やまともにバットを振る練習のため、みんなで野球をして遊ぶのがいいだろう)


俺は帰りの自転車をこぎながらみんなで野球をして遊ぶのが自分達にも出来る練習であると考えた。

次回は心も体も互いに依存しあう主人公と京子のお話しです

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