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依存

お待たせしました。久々の更新になります。次はいつになるかわかりませんが、いつかは更新します

1986年6月14日土曜日、授業は四時間目までで終わる半ドンの日、俺は午後から同じ町内の児童を家の近所の児童公園に集めて野球をする事にした。


先日のソフトボールの練習試合で俺達の新町一丁目子供会は大敗したのだが、投げる、打つ、捕る、走るの基本があまりにも出来ていない児童が多く、毎週日曜日のソフトボールの練習だけでなく、日頃の遊びの中でボールを扱う事に親しむ事が上達の近道だと俺が考えていたからである。


下校時に同じ町内の連中に片っ端に声を掛けてみたのだが、予定があったりしてなかなか人数が集まらない。


結局は六年生は俺とジュンこと山口淳平、五年生は誰も来なくて四年生以下が4人の計6人が集まる事になった。


1986年、つまり昭和63年といえば、まだ子供が外で遊んでいた時代である。しかし、俺が小学校に入学した1981年当時とは子供の遊びの事情が違っているように思う。


俺が小学校に入学した1981年当時は、学校から帰ると近くの児童公園に行くのが当たり前だった。そこには必ず近所の児童がいて、上級生がリーダーシップをとり下級生の面倒を見ながら遊んでいた。その頃は同じクラスや同じ学年というより、住んでいる町内それぞれに子供だけのコミュニティーがあった。


大きな変化が訪れたのは俺が小学三年生あたり、つまり1983年あたりからである。この頃からテレビゲームが急速に普及し、子供達の遊び方も大きく変化した。


それまでは公園や空き地はもちろん、路地裏では道路も子供の遊び場で、たまに来るクルマを避けながら、道路でいろんな遊び場をしていたものである。


しかし、テレビゲームの普及した時期に合わせるように、それまであった子供だけのコミュニティーは崩壊し、独りで遊んだり気の合う友達だけで遊ぶようになった。


そのため、俺が野球をしようと下級生に声をかけても反応があまり無かったのは当然である。


とはいえ数人は集まった。学年の枠を越えて集まって遊ぶ事が減りつつあった時期にしては上出来だ。


まずは児童公園に集まったメンバーを二分割してチーム分けをしなくてはならない。両チームが均等な戦力になるように、学年が上の者から順番に分かれるのがベストだ。


6人なので3対3である。本格的な野球ではなく、ゴムボールとプラスチックバットを使う遊びな野球なので、1チーム3人でも問題ない。極端な話1対1でも何とかなる。


ルールは本当の野球とは異なり、低学年の児童にも配慮されたものとなっている。


例えば、投手は本気で三振狙い投げず、打たせる前提でストライクゾーンにゆるい球を投げる。アウトの取り方は三振、フォースアウト、タッチアウトの他に塁間にいるランナーに球を投げて当ててもアウトになる。3人しかいないので、満塁の時は全員塁上にいるため打者が足りなくなるので一塁ランナーは透明ランナーとする等のローカルルールである。


これで果たして子供会のソフトボールに役に立つのかという疑問もあるが、俺としては下級生がグラウンドを走り回ってくれればよいと考えていた。


児童が放課後に公園に集まって遊ぶ習慣が廃れつつあったこの時期は、高学年の児童はテレビゲームが普及するより前の時期に外で遊ぶ習慣があったのでまだよいが、低学年の児童は外で遊ぶ習慣がほとんどなく、走り方からしてフラフラとして頼りない。まずはちゃんと走る事から始める必要があった。


俺とジュンこと山口淳平の六年生二人が、それぞれ下級生を二人ずつ率いてチームを作って試合開始である。


両チームとも、ピッチャーは下級生が交代で投げる事にした。出来るだけボールを投げる機会を増やすためである。


試合内容よりも、下級生が投げて打って走って楽しんでくれる事を優先したために、試合内容はグダグダになり、5イニングまでやって12−8でジュンのチームが勝った。


「どうだい? 楽しかっただろ?」


試合後、俺は下級生達に尋ねた。


「楽しかった」


「またやりたい」


「今度はしっかり打ちたい」


「次は勝ちたい」


下級生達の前向きな返答に俺は満足した。放課後に学年の枠を越えて、近所の子供達が集まって遊ぶという事が無くなりつつあった時期にしては良い傾向だと思った。


「じゃあ、またやろうな。ジュンも頼むぞ」


野球の後もまだ遊びたかったのだが、俺は用事があるので解散する事にした。わざわざ付き合ってくれたジュンにもちゃんとお礼を言っておいた。


「まだ3時にもなってないぞ。一緒にうちでゲームでもするか?」


「悪い、俺はこのあと用があるから帰らないといけないんだ」


ジュンの家で一緒にテレビゲームで遊ぶのも悪くないが、俺はそれより大事な用事があった。


「そうか、明日は?」


「明日は空いてるから一緒に遊ぼうぜ」


「おう、じゃあな」


「またな」


俺はジュンと明日一緒に遊ぶ約束をして別れた。


俺は自転車に乗り自宅へ向かう道を走った。そして、左へ曲がれば自宅がある交差点を曲がる事なく直進した。そして、一つ先の交差点を右に曲がり、大通りの信号を突っ切って自転車を更に走らせてとあるアパートの前に自転車を停めた。


俺は足早に階段を上がり、二階の一室のドアの前に立ち素早く呼び鈴を押した。これからやる事に少しばかりやましさがあるためか、無意識のうちにこのアパートの他の住民に姿を見られたくなかったのだろう、呼び鈴を押してからドアが開くまでの間、ずっと早く開けてくれと思っていた。


わずか数十秒の時間が何分にも感じて、少し苛立ちを覚え始めた頃にドアが開いた。


「いらっしゃい」


杉山京子がリラックスした表情で俺を迎えた。俺は素早くドアの内側へと身を滑らせた。


「同級生の家に遊びに来ただけなのに、何を慌ててるのかしら。まるで不倫相手の家に来たみたい」


京子が笑いながら言った。


「別に慌ててるわけじゃないぞ。誰かに見られたらまずいかなと思っただけだ」


俺はムッとして否定した。


「フフ、それを慌ててるというのよ。私の部屋で待ってて、コーヒー入れるから」


京子はクスクスと笑いながら言ってからコーヒーの準備を始めた。


俺は靴を脱いで台所に上がり、奥にある二つの部屋の入口の右側のドアを開けてその部屋に入った。


そこは京子の私室で、六畳ほどの洋間であり、勉強机とベッドとタンスに本棚と置いてある。


俺はいつも通りにベッドに腰掛けた。勉強机に椅子は一つあるが、二人分の椅子を置くスペースの余裕はない。俺の部屋も広さは似たようなものだが、ベッドではなく畳の上に布団を敷いて寝ているので、布団を畳めばちょっとしたスペースが出来る。


俺は京子の部屋を見回しながら、これでは友達が遊びに来ても部屋に入れる余裕がないなと思った。俺はふと死ぬ前に妻と息子と暮らしていた家を思い起こした。


俺は東京都武蔵野市のマンションに暮らしていたのだが、息子の部屋は京子の部屋と似たような部屋だった。息子はそんなに友達が多い感じではなく、友達を家に呼ぶ事も少なかった。


(息子があまり友達を家に呼ばなかったのは、部屋に友達を入れる余裕が無かったからだったんだな)


今更ながら、俺は子供部屋にベッドを置くのは得策ではないと思った。


「何をボーッとしてるのよ?」


コーヒーカップを二つ持った京子が部屋に入って来て、その一つを俺に渡した。


「いや、部屋を見ながら思い起こした事があってね」


俺はブラックコーヒーをちびちび飲みながら京子に部屋の造りと友達の関係について話した。


「なるほどね。確かに、この部屋に友達が来ると狭くなるわね」


「洋画とかで見る外国の子供部屋にもベッドはあるけど、部屋そのものが広いから友達と遊べるスペースがあるからな。日本の住宅事情だと、子供部屋はベッドが無い方がいいと思う」


俺は自分の考えを話した。京子はそれに頷いた。


「じゃあ、私達のマイホームでは子供部屋は和室に決まりね」


「いや、まだそういう事は……」


京子の言葉に俺はあたふたしてしまった。まだ、元の世界に帰る可能性もあるし、勝手にこの世界に残ると決められてしまっては困るのである。


「冗談よ、何焦ってるのかしら」


京子がコーヒーを一口飲んでから呆れたように言った。


京子が椅子から立ち上がりベッドに座る俺の隣に腰掛けた。


「まぁ、十中八九そうなるでしょうけど」


京子が右手にコーヒーカップを持ったまま、俺に体を預けて来た。


「いや、まぁ……」


俺もおそらくこのまま京子と共にこの世界で生きて行く事になるだろうて思ってはいたが、まだ決めてしまうわけにもいかない。


互いのコーヒーカップからコーヒーがこぼれないように注意しながら、体を寄せて来た京子の肩を抱いた。京子からはいい香りが漂っている。


「風呂入ったばかりなのか?」


俺としては、こんな真っ昼間に風呂に入る事など、温泉旅行にでも行かない限りありえない。


「ええ、男性と密着するのだから、体臭で不愉快な思いをさせちゃいけないでしょ?」


京子は俺の体にもたれ掛かりながら言ってから、渋い表情になり体を俺から離し元通りに座り直した。


「田村君、汗臭いわね」


京子が苦笑しながら言った。俺は自分が野球をして遊んだばかりだと思い出した。そして、改めて自分の着ているTシャツの匂いを嗅いでみた。


「確かに、汗っぽい匂いがするな」


こういうのは気になり始めたら、やたらと気になってしまうのである。部屋の中の空気が汗臭さで汚染されているような気がする。


「だけど、今更どうにもならないな」


来る前に気付いていたら、家で着替えてから来る事もできたのたが、この期に及んで気付いてもどうする事も出来ない。


「お風呂、お湯を張ってあるから入って来れば?」


「えっ?」


京子が平然と言った言葉に俺は返答に窮した。別の世界では俺達は恋人同士だったらしいのだが、この俺は京子と恋人同士だった世界にいたわけでもない、そんな女の子の部屋に行き風呂を借りる度胸はない。


「…………」


俺は返答出来ず絶句していたのだが、妙な緊張感から額から汗がにじみ出て来る。


「何、顔を赤くしてるのよ。別に一緒に入ろうってわけじゃないんだから」


京子からすれば、そんな事でいちいち緊張するなと言いたいのだろう。


「あ、あのさ……」


「何よ? さっさとお風呂に入りなさい」


俺が絞り出すように言葉を発したのだが、京子にはじれったく感じたのだろう、俺を早く風呂に入れたいようである。


京子とは違い、俺は京子と恋人同士の時間を過ごしていない、風呂を借りるという事は全裸にならなければならない、中身は大人とはいえ、見た目は小学生の女の子が一人でいる場所で裸になるのは恥ずかしい気もする。


「呆れた……恥ずかしくて脱げないの? いい歳したオッサンが童貞少年を装ってるのよ。この後、服を着たままとはいえ、互いの体を隅々まで触り合うのに、たかだか風呂くらいで尻込みしないでほしいわね」


俺がモジモジしているため、京子がイラつき始めたようである。


(怒らせちゃマズいな)


俺は覚悟を決める必要性を認めた。


「わかったわかった風呂入って来るよ」


俺は緊張していたためか、不自然な早口で一息に言った。そして、腰掛けていたベッドから立ち上がり部屋を出ようとした。


俺は台所の隅にあるバスルームやトイレに繋がるドアに向かった。


浴室はユニットバスで浴槽には程よい加減の湯が張られている。


俺は浴槽にザブンと入り肩まで湯に浸かった。京子が先程まで入っていた湯だと思うと、変に意識してしまい湯加減を楽しむ余裕などはない。他人の家でもあるし、その遠慮もあって早々に風呂から上がる事にした。


俺は浴室の扉を開けると、俺が脱いでおいた服の上にバスタオルが置かれていた。


俺はそれを手に取った。バスタオルは湿り気を帯びていた。京子が先に入浴した時に使ったのだろうが、俺は京子が体を拭いた物だと思うと彼女が自分の体を拭く場面が頭によぎってしまった。


俺はバスタオルで自分の体を拭く前に、自分の顔に当ててにおいを嗅いだ。別に何のにおいもしなかったのだが、自分が変態に思えてしまい自己嫌悪に陥りながら体を拭いた。


それから服を着て京子の部屋へと戻った。


「もう出て来たの?」


京子が呆れたように言った。


「まぁ、よその家で長風呂も良くないかなと…」


俺は誤魔化すしかなかった。


「まぁ、いいわ。さぁ、楽しみましょう」


小学生には絶対に出来ないような艶っぽい笑みを浮かべながら、京子が俺の手を引きベッドへと向かわせようとした。


「照れるなオッサン。私も中身は21歳だから」


怖じ気づく俺に妖艶に微笑みかける京子に俺は戸惑うしかなかった。


とはいえ、体は小学生ながら中身が大人である俺は京子も中身は大人だと必死に自分に言い聞かせ、俺はロリコンではないぞと念じた。そして、念じ終えてから京子に手を引かれるままベッドへと倒れ込んだ。


それから数時間、二人だけの時間を過ごしながら俺は考えた。


(この世界にいる限り、京子がどうしても必要だ)


俺自身の心と体を満足させるためという理由ではあるが、それが可能なのは京子以外はありえなかった。俺が中身が大人だと理解したうえで付き合える京子に依存を深めていく事になるだろうと考えていた。

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