13 尻尾と耳は幻覚です
お久しぶりです。気付けば1年以上経っていました…。
「ほらー、言ったじゃんか。あれ小春さんだって」
「本気だったのかよ…………。聞いてないぞ、呼んだなんて」
あっけらかんと笑う小林君に、苦い顔をしながら呻く蓮君。見事に対照的なのはまあよしとして、何故君達は試合が終わると同時にこちらに来るのか。
普通、チームでの反省会みたいなミーティングがあるんじゃないの?こう、今回はここが悪かったとか、今度はこうしてみようみたいな。チームメイト達がこちらを凝視しているのは、多分私の気のせいじゃない。
「ねえ……こっちに直行するのはどうかと思うんだけど」
「ん。それより小春さん、言うことない?」
「いや別に。早く行きなさい、みんな待ってるから」
「だーかーらー!言うことない!?」
小林君、地団太踏むのは構わないけど、全然可愛くないぞ。
ボカロのあの子なら超可愛いのに、何故だ。やはり二次元と三次元の壁か。二次元万歳。
「……一応差し入れ持ってきたんだけどなあ。どうしよっかな、いらないみたいだから持って帰——」
「ミーティング行ってきまっす!!!!」
横に置いておいたトートを持ち上げる振りをすると、見事なまでの速さで小林君がダッシュしていった。引きずられる形の蓮君の不機嫌そうなことったらないけれど、彼は気づいているんだろうか。多分気づいてないと思うけれど。
「差し入れ!差し入れ!!」と尻尾をぶんぶか振りまくる犬が見えた気がした。あかん、まるっきりバカ犬や……。小林君、バカ犬やないの……。
思わずエセ関西弁になってしまった生ぬるい視線の先には、案の定チームメイトから頭をはたかれている小林君。蓮君が同じようにはたかれないのは、彼の人徳か普段の行いか。個人的に人徳と思うのは微妙に癪なので、普段はそうそうお馬鹿なことはしないんだということにしておこう。
トートに入れておいたガルボ(実は自分のおやつだったりする)を食べつつ、なんだか微笑ましい光景を眺める。ああ、冷えたガルボうめぇ。いもけんぴうめぇ……おっとこれは違うか。
月火水木金土日、3時のおやつがいもけんぴなら、そりゃあ金髪双子のお姉ちゃんも怒るだろう。
とりあえず、ろくに物が入っていないトートの中身をどうやってごまかすか、ミーティングをぼんやりと眺めながら策を練っておいた。
解散した瞬間にすっ飛んでくる小林君。途中で追いついた蓮君に首根っこをつかまれて、大きくのけぞっている。ぐぇっとか聞こえた。苦しそうだが、ひとまず気にしない方向で。
「……差し入れは?」
「その前にその屍っぽくなってる小林君を楽にしてあげようね」
「ああ、これ?いつものことだし」
ふんと鼻を鳴らす蓮君は、心なしかいつもよりも子供っぽい。いや、事実子供なんだけれど、いつものような見透かすような雰囲気がなかった。
こんな顔もするのかと意外に思いながら、蓮君の手を離させる。漫画のようにぎゅうと鳴いた小林君が騒ぎ出しかけたけれど、蓮君の一睨みで「ナンデモナイヨー」と半笑いになっていた。
「それじゃ、差し入れ。アクエリどうぞー」
「…………手抜きだね」
「手ぶらじゃないだけマシでしょ?文句言わない」
スポーツの時にはポカリよりもアクエリがいいって聞いて、普段ポカリ派の私が買ってきたんだ、少しは感謝してくれてもいいと思う。……まあ、しょぼいのは否定しないけれど。
こういうときの差し入れなんて、はちみつレモンしか思いつかなかったのだ。そんな青春真っ盛りのような差し入れなんてできない。羞恥で死ねる。
蓋の部分をつかんで差し出した手をスルーして、蓮君の手は何故かクーラーボックスの中へ。
「あ!私の!!」
「おいしいよね、これ」
ひょいとガルボをつまみ上げた細い指を止めようとしても、もちろん止まるはずもない。最後の1つを食べてしまった蓮君に、思わず恨みがましい目を向けてしまう。
コンビニ菓子の割高さなめんな!普段もなかなかふんぎりつかないんだぞ!ちくしょうファミリーパック出してよメーカー!
なんてちょっと意識を飛ばしていたから、やらかしてしまった。
「それじゃ小春さん、俺に黙って見に来たお詫びに、今度デートしてくれるよね?」
「あーうんうん、今度ねー。……うん?」
軽く言われて適当に流そうとして、返事をしてからふと気づく。……今なんて言った?
慌てて顔を上げてももう遅い。蓮君はにやっと笑うし、小林君もにやにやしていた。にやにやしたまま蓮君の肩に腕を回して、視線もくれずにはたき落とされていたけど。
「ちょっと待った、今のは」
「うなずいたよね?」
「俺聞いたー。うんって言ってたぞ。まーさか、大人が約束破ったりしないよなー?」
ぐぬぬ、こしゃくな。ぐぬぬ!こういうときだけ仲良くしないの!
いや、いつも仲はいいのかもしれないけど、こういうときは意気投合しなくていいの!小林君、さっきぎゅうって鳴いたの忘れたの!?
「じゃあ、2週間後ね。来週はちょっと用事があるから、待たせるけどごめん」
「いやいやいや、忙しいならわざわざ時間をとってもらわなくても!」
「別にそこまでじゃないし。約束は守らないと、ねぇ?」
「不意打ちは約束のうちに入るの!?」
「約束は約束。ねえ?」
にっこりと綺麗に微笑む蓮君の背後が黒くて、うなずくしかなくなった我が身の弱さが恨めしい。約束ブッチとか駄目ですか、そうですか……。