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卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第四章 証言の境界
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第41話 いたことにした

「お前、どうして知ってたんだ?」


 瀬戸の問いに、岡崎はすぐには答えなかった。


「見たから」


 瀬戸が眉を寄せる。


「見た?」


「うん」


 岡崎は相馬を見る。


「相馬が、寮を出ていくところを」


 水野が訊く。


「そのあと、どこに行ったかは?」


「知らない」


 岡崎はすぐに答えた。


「そこまでは見てない」


 桐島が岡崎を見る。


「見てたのに、止めなかったんだ」


「うん」


「止めなかった」


 瀬戸は少し考えるように視線を落とし、続けた。


「待て」


 岡崎が瀬戸を見る。


「相馬が外に出てたなら」


 瀬戸は言う。


「その日の点呼は?」


 水野が岡崎を見る。


「二組の点呼、まとめてたのは千尋だったよね」


「うん」


 岡崎は答えた。


「私」


 瀬戸が岡崎を見る。


「じゃあ」


 瀬戸は少し間を置いた。


「相馬の点呼はどうした?」


 岡崎の視線が、わずかに落ちる。


 教室の空気が、止まった。


「相馬は」


 短い沈黙があった。


「いたことにした」


 誰も、すぐには言葉を返さなかった。


 岡崎は続ける。


「点呼では、寮にいることにした」


 田所が口を開いた。


「でも、黙って寮を出たって分かったら、何かしらの罰則はあったかもしれないだろ」


 岡崎が頷く。


「私も、そう思った」


 岡崎は少し言葉を選んだ。


「何もないとは思えなかった。寮を出されるかもしれないし」


 岡崎は一度、言葉を切った。


「最悪、予備校にもいられなくなるかもしれないって思った」


 瀬戸が岡崎を見る。


「でも、本当にそうなるって決まってたわけじゃないんだろ」


「……うん」


 岡崎は答えた。


「分からなかった」


 瀬戸は続ける。


「相馬がどこに行ったかも、外で何してたかも知らなかったんだよな」


「知らなかった」


「それでも、いたことにしたのか」


 岡崎は、少しだけ目を伏せた。


「守るつもりだった」


「相馬が予備校にいられなくなるかもしれない」


「それは避けたかった」


 水野が岡崎を見る。


「でも、それが分かったら」


 水野は少し迷ってから続けた。


「千尋だって、何か言われたかもしれないよね」


 岡崎は水野を見る。


「うん」


「それでも?」


 岡崎は答えなかった。


 桐島がその横顔を見る。


「そこまでして相馬を守ったってことは」


 桐島は少しだけ言葉を止めた。


「もしかして、相馬のこと……」


「違う」


 岡崎はすぐに答えた。


「そういうことじゃない」


 桐島はそれ以上続けない。


 岡崎は少しだけ考える。


「でも」


 岡崎は自分の言葉を探すように続けた。


「相馬を守りたかったのは、本当」


 水野が何も言わず、岡崎を見る。


 岡崎は続けた。


「私は、二組が好きだった」


 今度は、迷わなかった。


「相馬だけじゃない」


 岡崎は少し間を置いた。


「みんなが」


 その言葉に、瀬戸の視線が一瞬だけ止まった。


 眉間の皺が、わずかに深くなる。


 田所の表情も、わずかに動く。


 岡崎は、自分の手元へ視線を落とした。


「駄目なことだとは、分かってた」


「でも」


 岡崎は言う。


「私が言ったせいで」


 言葉が少しだけ遅くなる。


「誰かが二組からいなくなるかもしれないって思ったら」


 岡崎はそこで一度、言葉を切った。


「それが、できなかった」


 田所が岡崎を見る。


「俺は」


 田所は短く言った。


「そうした理由は分かる」


 瀬戸が田所へ視線を向けた。


「理由が分かるのと、記録を変えるのは別だろ」


 田所はそれ以上言わない。


 岡崎も何も返さなかった。


 瀬戸が一度だけ息を吐く。


 それから、瀬戸はふと岡崎を見た。


「その点呼」


 岡崎が顔を上げる。


「神谷が死んだあとも」


 瀬戸は少し間を置いた。


「そのままだったのか?」


 岡崎は、すぐには答えなかった。


 やがて岡崎が口を開いた。


「……うん」


 岡崎は短く頷いた。


 神谷が死んだあとも。


 相馬は、寮にいたことになっていた。


 瀬戸は、何も言わない。


 眉間の皺だけが、さっきより深くなっていた。

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