第40話 知っていた
「あの時、どこにいたの?」
教室が静かになった。
相馬は岡崎を見る。
すぐには答えない。
短い間を置いて、相馬が口を開いた。
「あの夜か」
岡崎は頷く。
「うん」
相馬は少しだけ視線を落とし、それから答えた。
「寮にはいなかった」
いくつもの視線が相馬へ向く。
水野が先に口を開く。
「いなかったって」
「外に出てたってこと?」
「ああ」
相馬は短く答えた。
「出てたよ」
桐島が少しだけ息を呑む。
「神谷が死んだ夜に?」
「ああ」
水野が訊く。
「じゃあ、なんで外に出てたの?」
相馬は少しだけ間を置く。
「ちょっと、外に出たかったんだ」
さらに続けた。
「でも、神谷が死んだこととは関係ないよ」
静かな声だった。
相馬はそれ以上説明しなかった。
教室の空気が重くなる。
瀬戸が口を開いた。
「一つ分けた方がいい」
皆の視線が瀬戸へ向く。
「相馬がそう言ってるから、って話じゃない」
瀬戸は相馬へ視線を向ける。
「今確認できたのは、相馬があの夜、寮の外にいたって認めたことだ」
少し間を置く。
「それだけで、神谷の死に関わったとは言えない」
瀬戸はそのまま岡崎を見る。
岡崎だけが大きく反応していなかった。
瀬戸が少し眉を寄せる。
「岡崎」
「何?」
「驚かないんだな」
岡崎は一瞬だけ黙る。
「それは知ってる」
教室がまた静かになった。
水野が聞き返す。
「何を知ってるの?」
岡崎は相馬を見る。
「相馬が」
「寮を出てたこと」
さっきまで相馬へ向いていた視線が、今度は岡崎へ移る。
瀬戸が訊く。
「いつから?」
岡崎は答えた。
「七年前から」
桐島が訊く。
「じゃあ、どこに行ったかも?」
「それは知らない」
岡崎はすぐに答えた。
「外に出てたことは知ってた」
少しだけ間を置く。
「でも、その先は聞かなかった」
水野が岡崎を見る。
「じゃあ」
水野は少しだけ言葉を選ぶ。
「その時、言わなかったの?」
岡崎は黙り、それから答えた。
「うん」
「言わなかった」
「どうして?」
岡崎はすぐには答えなかった。
岡崎は七年前の記憶を、一つずつ言葉にしようとした。
「言ったら」
岡崎は相馬を見る。
「相馬が予備校から処分されると思ったから」
誰もすぐには口を開かなかった。
岡崎は続ける。
「それは、避けたかった」
岡崎はそこで言葉を止めた。
その先をどこから話せばいいのか、まだ決められなかった。
「たしかにそれが予備校にバレたら何かしらの処分はあったかもしれないけど……」
水野は困惑した様子で岡崎を見る。
その時、瀬戸が声を上げる。
「岡崎」
「何?」
瀬戸は少し間を置いて訊いた。
「お前、どうして知ってたんだ?」




