第39話 聞かなかったこと
四日目。
二組の教室には、六人が揃っていた。
相馬公平。
岡崎千尋。
田所陸。
桐島茜。
水野沙羅。
瀬戸大地。
第三試験は、もう終わっている。
一時留学も終わった。
昨日まで別の教室へ出ていた者も、今は二組へ戻っている。
相馬も、自分の席に戻っていた。
岡崎は、その姿を見る。
戻ったら、聞く。
そう決めていた。
田所には、もう確認した。
説明は、筋が通っていた。
だからこそ、次は本人に聞く。
田所にだけ聞いて、本人には聞かない。
それだけは、したくなかった。
岡崎は席についたまま、少しだけ迷う。
相馬は、いつも通りだった。
机の上に手を置いて、静かに座っている。
聞くなら、今でいい。
岡崎は、立ち上がった。
相馬が気づく。
「どうした?」
「ちょっと聞きたいことがある」
「俺に?」
「うん」
相馬は、特に構える様子もなく答えた。
「いいよ」
田所が、少しだけこちらを見る。
桐島も、水野も、瀬戸も、会話が始まることには気づいたようだった。
岡崎は相馬の前まで行かず、自分の席の近くに立ったまま話し始める。
「三浦さんが死んだあと」
相馬が、岡崎を見る。
「状況を確認した時のことなんだけど」
「ああ」
「田所に、相馬のことを聞いた」
田所の視線が、二人へ向く。
「最初は、廊下で見たって言ってた」
相馬は、黙って聞いている。
「あとから」
岡崎は言った。
「見ただけじゃない。一緒にいたって」
短い間があった。
「それで」
岡崎が言う。
「相馬にも聞いておこうと思って」
「何を?」
岡崎は、一度だけ息を吸った。
責めたいわけではない。
ただ、聞かないままにはしたくない。
「田所と一緒にいたの?」
相馬は、すぐに答えた。
「ああ」
あまりにも普通の返事だった。
「一緒にいた時間はあったよ」
岡崎は、相馬を見る。
その点は、田所の言葉と同じだった。
だから、もう一つだけ聞く。
「ずっと?」
相馬は、少しだけ首を振った。
「ずっとじゃない」
田所が口を開く。
「俺も」
岡崎が見る。
「ずっと一緒だったとは言ってない」
田所はそれだけ言った。
岡崎は頷く。
「うん」
昨日、田所から聞いた説明と、今の相馬の答え。
少なくとも、そこはぶつからない。
瀬戸が口を開いた。
「少なくとも」
全員が見る。
「田所が言った、一緒にいた時間があるって部分は」
相馬へ視線を向ける。
「相馬本人の話とも一致したってことだな」
岡崎が頷く。
「そうだと思う」
瀬戸も、それ以上は言わなかった。
田所の話は、崩れていない。
ただ、それで相馬のことが全部分かったわけでもない。
ずっと一緒だったわけではない。
分かったのは、
そこまでだった。
いつ。
どこで。
どれくらい。
何も分かっていない。
だから、それ以上は決められない。
「ありがとう」
岡崎が言う。
相馬が、少しだけ首を傾げる。
「それだけ?」
「今のところは」
「そう」
相馬は、それ以上聞かなかった。
ただ、普通に質問へ答えただけだった。
岡崎はその場を離れようとして、やめた。
今のことは、相馬本人に直接聞けた。
そして、相馬は普通に答えた。
その瞬間、岡崎は七年前を思い出した。
あの時。
自分は、
聞かなかった。
七年前。
神谷が死んだ夜。
岡崎には、相馬がどこにいたのか、本人へ聞く機会があった。
それでも。
聞かなかった。
信じていたからなのか。
答えを聞くことを、避けたかったからなのか。
今となっては、一つには決められない。
ただ、聞かなかったことだけは変わらない。
そのまま七年が経った。
今、目の前に相馬がいる。
少なくとも、今日の相馬は、聞けば答えた。
岡崎は、自分の席へ戻らなかった。
相馬が、こちらを見る。
「まだ何かある?」
岡崎は、すぐには答えない。
ある。
もう一つ。
今日の話じゃない。
三浦の話でもない。
田所の話でもない。
もっと前。
七年前。
ずっと。
聞かなかったこと。
今回は、聞かなかったままにしない。
岡崎は、指先を軽く握った。
一度、息を吸う。
そして、相馬を見る。
「相馬」
「ん?」
相馬が見る。
岡崎は、今度は目を逸らさなかった。
「七年前」
短い間。
「神谷が死んだ夜」
相馬は、岡崎を見る。
岡崎は、そのまま聞いた。
「あの時、どこにいたの?」




