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卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第三章 証拠の裏側
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第37話 元・三組

 鷲尾は四組へ移った。


 それでも。


 教室の空気は、


 まだ落ち着かなかった。


 第三試験は終わっている。


 けれど、


 結果はまだ出ていない。


 壁面モニターには、


 集計中の表示が残っていた。


 久世はその画面を見る。


 四組から三組へ、


 十点。


 さっき確かに動いた数字。


 それが、


 最終的にどこまで響くのか。


 まだ分からない。


 隣で高瀬も何度も画面を見ていた。


「……これで最下位になったら、本当に鷲尾に入れるからね」


 鷲尾が見る。


「まだ言うのかよ」


「確認」


「好きにしろ」


 あっさりした返事だった。


 一条が言う。


「結果出てからにしろ」


 その直後。


 壁面モニターの表示が変わった。


 全員の端末にも同時に通知が出る。


『第三試験 採点終了』


 久世は画面へ目を向けた。


 第三試験。


 第一位。


 四組。


 学校ポイント、


 プラス三十。


 高瀬がわずかに目を見開いた。


「一位」


 誰も、


 大きな声は上げなかった。


 続いて。


 第二位。


 一組。


 プラス十五。


 第三位。


 二組。


 増減なし。


 そして。


 第四位。


 三組。


 マイナス二十。


 久世の視線が、


 その文字で止まった。


 三組。


 ついさっきまで、


 鷲尾が所属していたクラス。


 鷲尾は何も言わない。


 結果表示はそのまま次へ進んだ。


 第三試験までの結果と、


 正式移籍による学校ポイント移動を反映した累計。


 四組。


 百三十点。


 一組。


 百二十五点。


 二組。


 百十五点。


 三組。


 百五点。


 一位。


 四組。


 そして。


 累計最下位。


 三組。


 高瀬が息を吐いた。


「最下位じゃない」


 声は小さかった。


 安堵が、


 そのまま言葉になったようだった。


 佐伯も画面を見ながら頷く。


「よかった……」


 四組が失った十点。


 それでも、


 四組は百三十点。


 累計首位だった。


 さっきまで心配していた最悪の形には、


 ならなかった。


 久世はそこで鷲尾を見る。


 鷲尾はモニターを見ていた。


 表情は変わらない。


 高瀬がもう一度結果を見る。


「……じゃあ、今回は鷲尾に投票しなくていいんだ」


 鷲尾が見る。


「そうなるな」


 高瀬が小さく息を吐く。


「よかった」


「本人の前で言うか?」


「自分が『俺を選べ』って言ったんでしょ」


 鷲尾が少しだけ笑った。


「それもそうか」


 軽い調子。


 それだけだった。


 三組が最下位になったことを、


 喜んでいるようには見えない。


 驚いているようにも。


 落ち込んでいるようにも見えなかった。


 一条が鷲尾を見る。


「元いたクラスだぞ」


「ああ」


「最下位だ」


「見れば分かる」


「何とも思わないのか」


「何を言えば満足する?」


 一条は少し黙る。


「別に」


 それ以上は、


 聞かなかった。


 久世は再び結果を見る。


 三組。


 百五点。


 累計最下位。


 その結果が意味することは、


 全員が知っている。


 試験終了時点の累計最下位クラス。


 所属者一名を、通常投票で退学させる。


 三組は。


 一人を選ばなければならない。


 その事実が、


 さっきまでの安堵をすぐに薄くした。


 天宮が呟く。


「三組……投票になるんだ」


 佐伯は何も言わなかった。


 久世も画面から目を離せない。


 誰が選ばれるのか。


 どういう投票になるのか。


 まだ何も始まっていない。


 ただ。


 三組が最下位になった。


 そこまでが今確定した。


 そのとき、


 鷲尾が自分の端末へ視線を落とした。


 指を動かす。


 一度。


 少し間を置いて、


 もう一度。


 久世が見る。


「何してる?」


「ちょっとな」


 鷲尾は端末から目を上げない。


 数秒。


 それだけだった。


 やがて。


 久世の端末が鳴った。


 一条。


 佐伯。


 高瀬。


 天宮。


 四組の端末にも、


 続けて同じ通知が出る。


 久世は表示を見る。


『個人合格条件 達成』


 その下。


『鷲尾亮介』


 そして。


『通常退学対象外』


 一瞬。


 誰も声を出さなかった。


 高瀬が最初に顔を上げる。


「……え?」


 鷲尾を見る。


「達成したの?」


「ああ」


「今?」


「今」


 一条が、


 端末と鷲尾を交互に見る。


「お前」


 鷲尾が見る。


「何だよ」


「さっき申請したの、それか」


「ああ」


 あまりにも普通に答える。


 久世は画面を見たまま考える。


 鷲尾が四組へ移った。


 第三試験の結果が出た。


 四組が一位。


 そして。


 元いた三組が、


 累計最下位になった。


 その直後。


 鷲尾は申請した。


 個人合格条件。


 達成。


 久世は顔を上げる。


「鷲尾」


「何?」


「何が条件だった?」


 鷲尾は少しだけ口元を上げた。


「言うと思う?」


「思ってない」


「じゃあ聞くなよ」


「でも」


 久世は続ける。


「今だった」


 鷲尾の表情は変わらない。


「何が」


「達成したタイミング」


 一条も黙って鷲尾を見ている。


 高瀬が言った。


「結果が出てから申請したんだよね」


「ああ」


「それまでは申請できなかった?」


 鷲尾は少し間を置いた。


「結果が出てから申請した」


 同じことしか答えない。


 高瀬が眉を寄せる。


「答えてない」


「答える必要あるか?」


「気にはなる」


「なら気にしとけ」


 鷲尾はいつもの調子だった。


 天宮が端末を見る。


「これで鷲尾は、通常退学の対象外」


「ああ」


 一条が答える。


 高瀬が小さく息を吐いた。


「さっきまで、最下位なら自分を選べって言ってたのに」


 鷲尾が見る。


「その時は、まだ達成してなかっただろ」


「……今は違う」


「通知に書いてある」


 それ以上でも。


 それ以下でもない言い方だった。


 久世は妙な引っかかりを覚える。


 四組へ入る前。


 鷲尾は言った。


 今回、


 四組が最下位になるなら、


 自分を選べばいい。


 最下位でなければ。


 その先は、


 選ばれないだけの価値を見せる。


 そう言っていた。


 結果。


 四組は最下位ではなかった。


 それどころか。


 累計首位。


 そして、


 三組が最下位になった。


 そのあとで。


 鷲尾は、


 個人合格条件を達成した。


 偶然。


 そう考えることはできる。


 条件の内容が分からない以上。


 今の並びだけで、


 何かを決めつけることはできない。


 けれど。


 久世はどうしても切り離せなかった。


 鷲尾が、


 あそこまで四組の答え作りに踏み込んだこと。


 四組へ移ったこと。


 十点が三組へ入ることを知っていても、


 移籍したこと。


 そして。


 三組が最下位になった直後に、


 条件達成を申請したこと。


「なあ」


 久世が言う。


 鷲尾が見る。


「お前」


 少し迷う。


「四組に来たかった理由と」


 鷲尾は黙っている。


「今の達成」


 久世は続ける。


「関係あるのか」


 短い沈黙。


 鷲尾は少しだけ笑った。


「どうだろうな」


「否定しないんだな」


「肯定もしてない」


 また。


 核心には触れない。


 久世はそれ以上聞かなかった。


 答えは、


 まだ作れない。


 ただ。


 分からなかったものが、


 一つ増えた。


 なぜ。


 三組を出たのか。


 なぜ。


 四組を選んだのか。


 そして。


 なぜ。


 元いた三組が最下位になった直後に。


 鷲尾亮介の個人合格条件は、


 達成したのか。


 壁面モニターには、


 まだ結果が残っている。


 四組。


 百三十点。


 一位。


 三組。


 百五点。


 最下位。


 四組では。


 一人も選ばなくていい。


 けれど。


 三組は違う。


 累計最下位になった三組は。


 これから。


 一人を選ばなければならない。

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