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卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第三章 証拠の裏側
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第35話 四組に賭ける

 四組。


 久世は、


 向かいにいる鷲尾を見た。


 三組から来た一時留学生。


 少し前にも、


 その理由は訊いた。


 けれど、


 久世が納得できる答えまでは返ってこなかった。


 鷲尾が口を開く。


「前の二人、何を残してった?」


 久世は少しだけ間を置いた。


「最初に来た水野は、三浦が移動した時間帯の資料を見た」


 館内通知の履歴。


 その近い時間帯に残った、


 局所的な扉と経路の操作履歴。


 水野は、


 確認できた事実を四組へ話した。


 誰が操作したのか。


 何のためだったのか。


 それが三浦の移動にどう関わったのか。


 そこまでは、


 分からないとも言った。


 鷲尾が頷く。


「二人目は?」


「藤崎」


 一条が答えた。


「水野とは別の教材を見た」


「中身は?」


 一条が短く言う。


「話さなかった」


 佐伯が続けた。


「何についての資料かも聞いたけど、それも」


 一条が言う。


「理由も聞いたが、そこも言わなかった」


 鷲尾の目が、


 わずかに細くなる。


「そうか」


 それ以上は、


 訊かなかった。


 藤崎が何を見たのか。


 なぜ話さなかったのか。


 四組には、


 分からない。


 鷲尾が自分の端末へ視線を落とす。


 第三時限。


 施設から、


 鷲尾へ割り当てられた教材が表示されている。


 鷲尾がそれを開いた。


 表示された番号を確認する。


 四―B。


 続いて、


 資料名。


『神谷悠斗関係証拠・発見場所記録(修正前後)』


 鷲尾の指が止まる。


「神谷の件か」


 久世は、


 黙って鷲尾を見る。


 四組の人間には、


 その画面は読めない。


 この教材を直接確認できるのは、


 今ここでは鷲尾だけだ。


 鷲尾が画面を追う。


 少しして、


 口を開いた。


「二つある」


「何が?」


 一条が訊く。


「同じ証拠が見つかったときの記録。修正前と修正後」


 鷲尾が読み上げる。


「修正前」


 一度、


 画面へ目を戻す。


「発見場所。神谷悠斗の荷物保管場所付近」


 久世の眉が、


 わずかに動いた。


 鷲尾が続ける。


「修正後」


 短い間。


「発見場所。神谷悠斗の荷物保管場所内」


 誰も、


 すぐには口を開かなかった。


 高瀬が最初に反応した。


「……そこが変わってるの?」


「今、確認できる差はそこだ」


 鷲尾が答える。


「同じ証拠発見についての記録で、後の版が修正後」


「いつ変わった?」


 久世が訊く。


「そこまでは書いてない」


「修正した理由は?」


「それもない」


 一条が腕を組んだ。


「付近が、内になっただけか」


 鷲尾が顔を上げる。


「だけじゃない」


「何が違う?」


「意味だよ」


 鷲尾は少し考えてから言った。


「付近なら、少なくとも荷物保管場所の内側から見つかったとまでは言えない」


 一条は黙る。


「でも、内なら」


 鷲尾が続ける。


「神谷の荷物保管場所の内側から見つかったように読める」


 佐伯が息を止める。


 高瀬が、


 小さく呟いた。


「神谷のところから出てきたって印象が、強くなる……?」


「そういうこと」


 鷲尾が言う。


 そして、


 一度だけ笑った。


「これ、点になる」


 久世は、


 その言葉を聞き逃さなかった。


「何が?」


「証拠として使いやすい」


 鷲尾は即答した。


「誰かの証言じゃない。修正前と修正後が並んでる。同じ発見について、場所の書き方が変わってるっていう事実そのものは確認できる」


 一条が言う。


「でも、前の方が正しいとは限らない」


「ああ」


「後の方が嘘とも限らない」


「その通り」


 鷲尾は、


 あっさり認めた。


「だから、そこまで言わなきゃいい」


 画面を見ながら、


 言葉を区切る。


「確認できるのは、発見場所の記録が後から変わってること」


「後の記録の方が、神谷本人の管理下から証拠が見つかったように見える書き方になってる」


 鷲尾は言った。


「そこまでなら使える」


 久世の中で、


 七年前の記憶が少しだけ揺れた。


 神谷の件。


 当時、


 証拠が見つかったという話を聞いた。


 そして。


 神谷の荷物保管場所の内側から見つかった。


 そういう説明を、


 当然の前提として受け入れていた。


 久世は訊く。


「じゃあ少なくとも俺は、変わったあとの情報だけを前提にしてたってことか」


「お前が当時知ってたのがそれだけならな」


 鷲尾が答える。


「変更前の記録があった。それが後で変わった。その事実を知らないままなら、後の情報だけで判断してたことになる」


 一条が口を開く。


「黒田は?」


 久世がそちらを見る。


 一条は、


 いつもと変わらない顔をしていた。


「黒田は、神谷の所持品に触れたって認めてる」


 第二試験。


 全員の前で出た、


 黒田本人の回答。


 鷲尾は少しも迷わなかった。


「別だろ」


 一条が眉を寄せる。


「別?」


「黒田が神谷の所持品に接触したこと」


 鷲尾が指を一本立てる。


「発見場所の記録が後から変わったこと」


 もう一本。


「今あるのは、その二つ」


「でも」


「繋がった証拠はない」


 鷲尾が遮る。


「黒田が置いたとも言えない。記録を変えたとも言えない」


 久世は、


 黙って聞く。


「神谷が無実だったとも、まだ言えない」


 鷲尾は続けた。


「だから答えに入れるなら、確認できるところだけだ」


 一条が鷲尾を見る。


「答えに?」


「ああ」


 鷲尾は、


 当然のように言った。


「せっかく使える材料があるんだろ」


 そして、


 四組側へ言葉を返す。


「答えに入れるなら、今言った線までだ」


 記録が変わったこと。


 変更後の方が、


 神谷の管理下から見つかったように読めること。


「誰が変えたか。なんで変えたか。どっちが正しいか。そこは切る」


 高瀬が、


 ゆっくり頷いた。


「事実と、そこから読めることは分けて考えるってことだよね」


「そう」


「黒田の話とも、まだ繋げない」


「ああ」


 鷲尾は、


 四組の人間と一緒になって、


 答えを整理している。


 どう使うか。


 どこまでなら言えるか。


 どこから先は、


 証拠が足りないか。


 久世は、


 その様子を見ていた。


 水野は。


 自分が見たものを、


 必要な範囲で四組へ渡した。


 藤崎は。


 四組から重ねて尋ねられても、


 自分が見た教材については何も渡さなかった。


 二人の対応は、


 まるで違う。


 それでも。


 二人とも、


 四組の答えそのものを作るところまでは踏み込まなかった。


 鷲尾は違う。


 三組の人間なのに。


 四組へ割り当てられた証拠を読み。


 内容を自分から渡し。


 使える事実と、


 使えない推測を分け。


 四組の答えが、


 より強くなる形まで整理している。


 一条が、


 鷲尾を見た。


「お前」


 鷲尾が顔を上げる。


「何だよ」


 一条は少し黙った。


 だが、


 その先は言わなかった。


 鷲尾も、


 何も聞き返さない。


 ただ再び、


 端末へ視線を戻す。


 三組から来た男が。


 なぜ。


 四組の答えを作っているのか。


 久世には、


 まだ分からなかった。

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