↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第三章 証拠の裏側
29/42

第29話 交換留学試験

 共通の許可区画で続いた話は、


 それ以上進まなかった。


 分からないことが多すぎる。


 久世たちは四組の教室へ戻った。


 一組、二組、三組の参加者たちも、


 それぞれの教室へ戻っていった。


 教室へ戻って間もなく、


 中央モニターが切り替わった。


 佐伯が顔を上げる。


 高瀬の肩が小さく揺れた。


 画面に出たのは、


 黒田の名前でも、


 三浦の名前でもなかった。


『第三試験 実施規則』


 教室の空気が固まる。


「……続けるんだ」


 佐伯が言った。


 誰も返さない。


 黒田も。


 三浦も。


 死んでいる。


 それを伝えても、


 試験は止まらない。


 新しく開かれた通路も、


 許可された区画も、


 そのままだった。


 その上で今度は、


 そこで何をさせるのかが表示されようとしている。


 画面に文字が追加された。


『各クラスには、三件の証拠教材が割り当てられています』


『自クラスに割り当てられた証拠教材を、自クラスの参加者が閲覧することはできません』


 一条が眉を寄せた。


「自分たちの証拠なのに、自分たちでは見られない?」


 続きが表示される。


『第三試験は、全三時限で実施します』


『各時限、各クラスから一名を、別クラスへ一時留学させてください』


『各時限の訪問先は、クラスごとに指定します』


『各時限、各クラスが受け入れる一時留学生は一名です』


『三時限を通じて、各クラスは他の三クラスを一度ずつ訪問します』


『一時留学生は、訪問先クラスに割り当てられた証拠教材を閲覧できます』


 さらに、


 三つの規則が続いた。


『一時留学生が一回の滞在で閲覧できる証拠教材は、一件です』


『閲覧対象となる証拠教材は、施設側が指定します』


『同一クラスに割り当てられた三件の証拠教材は、三時限を通じて一件ずつ重複なく割り当てられます』


 高瀬が画面を見たまま言う。


「じゃあ、自分たちの資料を見るには……」


「他のクラスの人間に見てもらうしかない」


 久世は答えた。


 自分たちには見られない証拠を、


 自分たちでは確認できない。


 代わりに、


 施設から割り当てられた他クラスの証拠を見るために外へ出る。


 三時限。


 四クラスから一人ずつ。


 同じ時限には、


 四クラスへ一人ずつ入る。


 一時留学は、


 全部で十二回。


 一条が椅子の背へ手を置いた。


「情報を取りに行くだけじゃないな」


 久世も同じことを考えていた。


 割り当てられた証拠を、


 どう読むか。


 どこまで持ち帰るか。


 訪問先で何を話すか。


 相手がこちらへ何を渡すか。


 見られる証拠が決まっていても、


 持ち帰る情報まで同じとは限らない。


 画面が切り替わった。


『一時留学生は、交換日誌を記録してください』


 その下に四項目が並ぶ。


『滞在場所』


『接触者』


『閲覧資料』


『指示』


 天宮が目を細めた。


「行動記録」


「みたいだね」


 佐伯が言った。


 さらに一文。


『交換日誌は試験記録であり、正式証言ではありません』


 久世はそこを見た。


 書けば証言になるわけではない。


 ただ、


 何をしていたかは残る。


 それ以上の意味を、


 今決めつける必要はなかった。


 次の表示へ移る。


『第三試験終了時、一時留学生は訪問先クラスへの正式移籍を申請できます』


 佐伯が瞬きをした。


「移籍?」


『正式移籍には、受入クラスの過半数承認が必要です』


『正式移籍が成立した場合のみ、学校ポイント十点を移動します』


 一条が画面を追う。


 次の一文が表示された。


『移籍先クラスから、元所属クラスへ十点』


 高瀬が首を傾げる。


「逆じゃない?」


「受け入れた方が払う」


 久世は言った。


「来てもらったクラスから、送り出したクラスに十点」


「じゃあ」


 佐伯が言う。


「強い人を取れば得する、だけじゃないんだ」


「ああ」


 一条が答えた。


「欲しいなら、十点払う」


 誰かを正式に受け入れること自体が、


 取引になる。


 しかも、


 三時限を終えた後には、


 クラスそのものが変わる可能性がある。


 ただ証拠を見に行くだけの試験ではない。


 画面はさらに続いた。


『死亡、設備破壊その他の事象について、告発を行う場合』


 三段階の文字が並ぶ。


『告発予告』


『証拠審査』


『正式受理』


『証拠審査で受理されなかった場合、正式告発は成立しません』


 佐伯の表情が少し変わった。


 黒田。


 三浦。


 その名前は、


 誰も口にしなかった。


 今ここで、


 誰かを犯人だと決めればいいわけではない。


 証拠が必要になる。


 久世は画面から目を離さなかった。


 最後に採点項目が表示される。


『採点はクラス単位で行います』


『正答率』


『証拠重要度』


『提出完成度』


『時間』


『違反』


 いくつかの項目が並んだ後、


 最後に補足が出る。


『正式移籍後のクラス人数差は、それ自体を直接の得点要素とはしません』


「人数を増やせば勝ち、でもない」


 天宮が言った。


 一条が頷く。


「証拠を取る。情報を持ち帰る。必要なら人も取る」


 そこで一度区切る。


「でも、全部に値段が付いてる」


 久世はモニターを見る。


 これまでも、


 他クラスから情報を得ることはあった。


 それでも、


 最後に答えをまとめる場所は自分たちのクラスだった。


 今度は違う。


 他クラスへ実際に人を送り出さなければ、


 見られない証拠がある。


 自分たちの教室へも、


 他クラスの人間が入ってくる。


 これまでクラスごとに分かれていた情報が、


 否応なく交差する。


 画面が切り替わった。


『四組 訪問先』


『第一時限 二組』


『第二時限 三組』


『第三時限 一組』


 久世は三つの行先を見る。


 三時限とも、


 四組には別のクラスから一人ずつ来る。


 送り出す側だけではなく、


 受け入れて話を聞く側も必要になる。


「俺と一条は残ろう」


 久世が言った。


 一条が久世を見る。


「三時限とも、同じ人間が話を聞いた方が比べやすい」


 一条は少し考えてから頷いた。


「その方が整理しやすいな」


 佐伯が全員を見回した。


「で、誰が行く?」


 久世は、


 天宮、佐伯、高瀬を見る。


 そのうち毎時限、


 一人が教室を出る。


「第一時限、私でいいよ」


 最初に言ったのは佐伯だった。


 高瀬が佐伯を見る。


「二組に?」


「うん」


 佐伯は頷いた。


「他のクラスの人と話すなら、たぶん私の方が楽だし」


「相手の話を聞くのも含めて?」


 一条が訊く。


「それも」


 軽い言い方だった。


 けれど、


 いつものような明るさだけではなかった。


 久世は反対しなかった。


 佐伯は、


 会話の間を作るのがうまい。


 最初の一人としては悪くない。


「じゃあ、第二時限は?」


 佐伯が言った。


 高瀬が少しだけ身を固くする。


 一度、


 自分の左手へ視線を落とした。


 指先が結婚指輪に触れる。


「……私、行こうか」


 佐伯が高瀬を見る。


「嫌なら変えるよ」


 高瀬は小さく首を振った。


「行く」


「無理しなくていい」


 久世が言う。


「ううん」


 高瀬は顔を上げた。


「ずっとここにいても、分からないことは増えるだけだから」


 言葉の最後は弱かった。


 それでも、


 撤回はしなかった。


「じゃあ」


 天宮が言った。


「三時限目は私が行く」


「一組?」


「記録を見るなら、私の方がいい」


 天宮らしい理由だった。


 第一時限。


 佐伯が二組。


 第二時限。


 高瀬が三組。


 第三時限。


 天宮が一組。


 久世と一条は、


 三時限とも教室に残る。


 四組の三時限分が決まった。


 第一時限が始まる前に、


 佐伯は二組までの移動経路を確認しておくことにした。


 久世たちも、


 新しく開かれた共通の許可区画へ出た。


 他クラスの参加者たちも、


 それぞれ行き来している。


 その途中で、


 三組の鷲尾亮介《わしおりょうすけ》が久世たちに気づいた。


「ちょっといいか」


 一条が鷲尾を見る。


「何?」


 鷲尾は足を止めた。


「三時限目」


 一度切る。


「四組に行くの、俺にしてほしいって希望を出してる」


 佐伯が目を瞬く。


「わざわざ言うくらいなんだ」


「そういうこと」


「理由は?」


 一条が訊いた。


 鷲尾は一条を見る。


 少しだけ笑った。


「今、説明する必要ある?」


 一条の表情は変わらなかった。


「希望は分かった」


 短く言う。


「でも、こっちが何を話すかは別だ」


「それでいい」


 鷲尾は答えた。


「希望を伝えたかっただけ」


 それ以上は話さなかった。


 鷲尾は三組側へ戻っていく。


 佐伯がその背中を見送った。


「何あれ」


「分からない」


 久世は答えた。


 なぜ自分から四組へ来たがるのか。


 何を見たいのか。


 今の言葉だけでは判断できない。


 ただ、


 第三時限の三組から四組への枠に、


 自分を出してほしいと望んでいる。


 今分かるのは、


 それだけだった。


 さらに進んだところで、


 二組側から水野沙羅が歩いてきた。


 久世たちの前で足を止める。


「第一時限」


 水野が言った。


「四組へ行くの、私になったから」


 佐伯が少し目を開く。


「水野さんか」


「そっちは?」


「私。二組に行く」


 水野は短く頷いた。


 それ以上、


 そこで情報を交換することはなかった。


 第一時限は、


 まだ始まっていない。


 久世たちは四組の教室へ戻った。


 水野沙羅。


 二組。


 これまで、


 まともに話した回数は多くない。


 その水野が、


 四組の証拠を見る。


 佐伯は、


 二組の証拠を見る。


 何を見て。


 何を持ち帰って。


 何を話すのか。


 もう、


 自分たちの教室だけでは完結しない。


 第一時限が近づく。


 佐伯が立ち上がる。


 高瀬がその姿を見上げた。


「気をつけて」


「試験なんだから、戻ってくるって」


 佐伯はそう言って、


 一度だけ笑った。


 その言葉に、


 誰も笑い返さなかった。


 この施設に来る前なら、


 何でもなかったはずの言葉だった。


 戻ってくる。


 今は、


 その当たり前を信じることさえ難しい。


 廊下の電子錠が、


 短く鳴った。


 佐伯が扉の前へ立つ。


 向こうから、


 誰かの足音が近づいてくる。


 第一時限が、


 始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。