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卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第三章 証拠の裏側
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第28話 二人目の運営

 誰も、すぐには言葉を返さなかった。


 黒田が死んでいる。


 そこまでは、もう疑えなかった。


 だが、


 いつ死んだのか。


 何が原因だったのか。


 そこまでは分からない。


「身体は」


 成海が黒田を見る。


「必要以上に動かさない方がいい」


 久世は頷いた。


 旧個別面談室の入口には、一組の他の参加者たちもいる。


 誰も中へ踏み込もうとはしなかった。


 佐伯が黒田を見たまま言う。


「これ……真壁に言わないと」


「ああ」


 一条が答えた。


 ここで考え続けても、できることは少ない。


 黒田の身体は動かさない。


 まず真壁へ知らせる。


 久世たちは旧個別面談室を出た。


*


 四組の教室へ戻る。


 誰も席には座らなかった。


 久世は教室後方へ向かった。


 壁にある赤いボタン。


 最初の日にも押した。


 施設管理者を呼び出すための緊急呼出ボタン。


 透明なカバーを上げる。


 久世はボタンを押した。


 短い電子音。


 続いて、


 聞き覚えのある合成音声が流れた。


『施設管理者が対応中です。そのままお待ちください』


 久世はボタンから手を離した。


 同じだ。


 最初の日と、


 何も変わらない。


 久世は前方へ移動した。


 モニター。


 その方向にあるカメラ。


「真壁先生」


 待つ。


「黒田が……死んでいます」


 続ける。


「旧個別面談室で発見しました。成海が死亡を確認しています」


 モニターは変わらない。


 スピーカーも沈黙している。


 佐伯が中央モニターへ向かって言った。


「人が死んでるんだよ」


 それでも、


 試験を止めるような表示は出ない。


 黒田を確認するという指示もない。


 佐伯が顔をしかめる。


「このまま続けるの?」


 高瀬が画面を見たまま言った。


「なんで……何も変わらないの?」


 久世も同じことを考えていた。


 真壁は、


 この施設で起きていることを把握しているはずだ。


 少なくとも、


 久世たちはそう考えてきた。


 それなのに、


 人が死んだと伝えても、


 その内容に応じた返答が来ない。


 試験も止まったようには見えなかった。


 天宮が言う。


「反応は無いということですね」


 久世が見る。


「真壁先生はこの状況も容認しているということでしょうか」


 一条も中央モニターを見る。


「だからって、反応が無い以上は真壁先生が何を考えてるかまでは分かりません」


 久世は黙った。


 最初の日も、


 同じ声だった。


『施設管理者が対応中です。そのままお待ちください』


 あの時と今とで、


 返ってくるものは変わらなかった。


*


 久世たちは再び、新しく通れるようになった区画へ出た。


 旧個別面談室から戻ってきた一組側もいる。


 新しく開いた経路を確認していた二組、三組の参加者とも、そこで行き合った。


「何かあった?」


 相馬が訊いた。


「どうしたの?」


 宮原も久世たちを見る。


 周囲の二組、三組の参加者も足を止めている。


 久世は答えた。


「黒田が見つかった」


「……黒田が?」


 宮原が聞き返す。


「旧個別面談室にいた」


 久世は続けた。


「……死んでた」


 空気が止まった。


「成海が確認した」


 視線が成海へ集まる。


 成海は短く頷いた。


「死んでた。俺が確認した」


 宮原が小さく息を呑む。


 何かを思い出したように、


 久世を見る。


「じゃあ……」


 少し迷ってから言う。


「三浦が言ってたこと、本当だったの?」


「退学したら死ぬって」


 久世はすぐに答えた。


「まだ、そこまではわからない」


 宮原が久世を見る。


「黒田が死んでるのは事実だ」


 久世は言う。


「でも、昨日の通常退学でそのまま死んだとは限らない」


 久世は、


 篠原とは違う搬送方向や、


 旧個別面談室まで続いていた痕、


 黒田の身体に残っていた、処分時とは噛み合わない痕について簡単に説明した。


「昨日の処分だけじゃ、説明しにくいものが残ってる」


 宮原は黙る。


 その時、


 成海が口を開いた。


「……三浦も死んでる」


 宮原の動きが止まった。


「……三浦が?」


 普段の明るい表情が消える。


 一瞬、


 言葉が続かなかった。


「いつ?」


「第二試験の途中」


 成海が答える。


「第三非常階段の下で見つけた」


「成海が?」


「ああ」


 呼びかけても反応はなかった。


 呼吸を確認した。


 脈も確認した。


「何度も確認した」


 成海は言う。


「三浦は死んでた」


 宮原は視線を落とした。


 短い沈黙。


「……そう」


 声が少し硬かった。


 それから顔を上げる。


「何があったの?」


「分からない」


 成海は答えた。


「階段から落ちたのか、誰かに何かされたのか。そこまでは分からない」


 天宮が訊く。


「その時、画面は?」


「三浦が死んだあとも」


 成海が言う。


「『参加中・通信不良』だった」


「……参加中?」


 高瀬が言った。


「死んでるのに?」


「ああ」


 成海の返事は短かった。


 宮原は再び言葉を失った。


 相馬が口を開く。


「黒田のことは、真壁に伝えたのか?」


「ああ」


 久世が答える。


「緊急呼出を使った。黒田が死んでることも、場所も、成海が確認したことも伝えた」


「返事は?」


「最初の日と同じ合成音声だけ」


 佐伯が言った。


「試験も止まってない」


 相馬は少し考える。


「黒田のことへの返答はなかったってことか」


「ああ」


「……それは変だな」


 声は落ち着いていた。


 宮原が周囲を見る。


「ここにいない人にも伝えないと」


「二組もそうする」


 相馬が答えた。


 久世は少し考えてから言った。


「三浦も試験中に死んでた」


「でも画面では『参加中・通信不良』だった」


 今度は黒田。


 通常退学処分を受けたあと、


 別の場所で死んでいた。


 しかも、


 その死を真壁へ伝えても、


 黒田についての返答はなく、


 試験も止まったようには見えない。


 天宮が言う。


「二つの事件が同じだとは限らないですよね」


「ああ」


 久世は頷く。


「でも、どっちも」


 少し言葉を選ぶ。


「実際に起きてることと、画面に出るものや、真壁から返ってくるものが噛み合ってない」


 高瀬が中央の通路を見回す。


「じゃあ……」


 声が小さくなる。


「真壁は、人が死ぬこと自体は、おかしいと思ってないってこと?」


 久世が高瀬を見る。


「だって」


 高瀬は続ける。


「黒田が死んでも試験は止まらない。三浦が死んでても『参加中』なんでしょ?」


 少し間を置く。


「だったら、篠原も……」


 言葉が止まった。


 誰も続きを言わない。


 高瀬の目には、


 怯えが浮かんでいた。


「まだ、そこまで決めるな」


 久世が言った。


 高瀬が見る。


「黒田は、通常退学そのもので死んだとは決まってない」


 昨日の処分のあとに、


 別のことが起きた可能性がある。


「三浦は通常退学になってない。それでも死んでる」


 成海が黙って聞いている。


「篠原は」


 久世は一度言葉を切った。


「俺たちは、死んだところを確認してない」


 生きているとも言えない。


 死んでいるとも、


 今ある材料だけでは決められない。


「全部を同じものとして扱うのは早い」


 高瀬は何も言わなかった。


 佐伯が言う。


「でも、人が死んでるのに試験が続いてるのは変わらないよ」


「ああ」


 久世も考えていた。


 真壁が二十四人を集めた。


 真壁が試験を始めた。


 真壁がルールを説明した。


 だから、


 この場所で起きることを、


 全部真壁につなげて考えていた。


 退学。


 処分。


 試験。


 そして、


 人の死。


 全部が同じものだと。


 けれど、


 本当にそうなのか。


「もしかして」


 久世は言った。


「一回、分けて考えた方がいいのかもしれない」


 一条が久世を見る。


「何を?」


「試験を動かしてるものと」


 久世は言う。


「実際に人を殺してるものを」


 一条がすぐに返す。


「それだけで、別人がいるとは決まらない」


「分かってる」


 久世は頷く。


 相馬が言った。


「真壁が、意図的にそう見せてる可能性も残ってる」


 久世が相馬を見る。


「死んだ人間を死亡扱いしないことも、黒田の件に答えないことも」


 相馬の声は穏やかだった。


「真壁の意図だって可能性は高いんじゃないか?」


「そうだな」


 久世は否定しなかった。


 真壁が無関係だとは言えない。


 久世たちの知る限り、


 真壁はこの施設で起きていることを把握しているはずだ。


 だからこそ、


 分からない。


 現実には人が死んでいる。


 なのに、


 真壁が動かしているはずの試験も、


 画面に出る情報も、


 その現実と噛み合っていない。


「でも」


 久世は言った。


「同じだと決めつける必要もない」


 昨日。


 黒田への通常退学処分は、


 試験の手順として終わった。


 それなのに、


 その後に別の出来事が起きている可能性が高い。


 三浦も、


 現実の死と画面の表示が一致していなかった。


 黒田の死を伝えても、


 真壁から内容に応じた反応は返らず、


 試験は動き続けている。


 ただ。


「もし」


 久世は言った。


「真壁とは別に、この施設へ手を入れてる誰かがいるなら」


 佐伯が久世を見る。


「別の誰か……?」


「そう考えれば」


 久世は言った。


「今まで噛み合わなかったものが、つながる部分がある」


 誰も、


 すぐには何も言わなかった。


 答えではない。


 まだ、


 ただの仮説だ。


 真壁一人で全部をやっている可能性も残っている。


 本当に別の誰かがいるのかも、


 証明できていない。


 それでも。


 その可能性を無視して、


 すべてを真壁一人へつなげ続ける方が、


 久世には危険に思えた。


 真壁が動かしていると思っていた試験。


 その中へ、


 別の誰かが手を入れているとしたら。


 久世の頭に、


 一つの言葉が浮かんだ。


 二人目の運営者。


 誰なのかは分からない。


 本当に存在するのかも、


 まだ証明できない。


 けれど、


 その可能性を、


 もう無視することはできなかった。

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