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卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第二章 全会一致の代償
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第26話 同じ処分、違う場所

 保護面談についての説明はないまま、


 通常退学処分の通知が出た。


 保護面談で、


 何が行われたのか。


 久世たちには分からない。


 中央モニターと端末に、


 見覚えのある表示が出た。


『通常退学処分を実施します』


『全参加者は、指定経路を通り中央廊下・立会区画へ移動してください』


『本通知をもって、立会区画までの移動を正式許可します』


『指定経路外への立入は、引き続き禁止します』


 佐伯が画面を見た。


 保護面談への疑問は、


 何一つ解消されていない。


 それでも、


 通常退学処分は始まる。


 久世は立ち上がった。


 自分の一票も、


 黒田岳の五票の中にある。


 その事実だけは、


 消えなかった。


*


 立会区画には、


 各クラスの参加者が集まっていた。


 久世は奥を見る。


 床から天井まで届く、


 金属格子のゲート。


 その向こう。


 床面に組み込まれた処分台。


 背もたれ。


 固定帯。


 上の壁面モニター。


 篠原の時に見た設備だった。


 佐伯も気づいたらしい。


 何も言わず、


 格子の向こうを見る。


 高瀬は少しだけ顔を強張らせた。


 天宮も、


 画面だけではなく、


 ゲートの中を見ていた。


 一条は黙っている。


 その視線の先に、


 黒田がいた。


 黒田の肩が、


 普段よりわずかに上がっている。


 両手を下ろしているのに、


 指先だけが落ち着かない。


 それでも、


 黒田は周囲を見回した。


「……またこれかよ」


 声は低かった。


 強がっているようにも聞こえた。


 久世には、


 それ以上は分からない。


 モニターが切り替わる。


『通常退学対象者』


『黒田岳』


『対象者のみ、処分区画へ入場してください』


 格子ゲート横の認証部が、


 白く点灯した。


 黒田は動かなかった。


 一秒。


 それから、


 一条を見る。


 一条も黒田を見る。


 どちらも何も言わない。


 黒田が先に視線を外した。


「……分かったよ」


 腕輪を認証部へ近づける。


 短い音。


 格子ゲートの一部が開いた。


 黒田が中へ入る。


 背後で、


 ゲートが閉じた。


 金属同士が噛み合う音。


『着座してください』


 黒田が処分台を見る。


 すぐには座らなかった。


 一度、


 大きく息を吐く。


 それから、


 腰を下ろした。


 固定帯が動く。


 腰。


 両手首。


 機械音とともに、


 黒田の身体が処分台へ固定されていく。


 黒田の腕に力が入った。


 帯を振りほどこうとはしない。


 ただ、


 手の甲に筋が浮いていた。


 佐伯が目を伏せる。


 自分たちが選んだ。


 その結果が、


 目の前で形になっている。


 高瀬も、


 黒田から目を逸らしかけて、


 やめた。


 久世も目を逸らさなかった。


 自分も、


 黒田に一票を投じた。


 だからこそ、


 見届けなければならないと思った。


『固定を確認』


 壁面モニターに、


 波形が現れる。


 篠原の時と同じように、


 立会区画に真壁の声が流れた。


 処分の瞬間そのものは直接見せない。


 遮光中の経過は映像で確認させる。


『諸君らへの、せめてもの配慮だ』


 あの時と、


 同じ説明だった。


『通常退学処分を開始します』


 黒い遮光シャッターが、


 処分台の前へ下り始めた。


 足元。


 腰。


 胸。


 最後に、


 黒田の顔が隠れる。


 完全に閉じた。


 壁面モニターと、


 全員の端末が同じ画面へ切り替わった。


 映っているのは、


 処分台へ固定された黒田。


 内部の映像の脇には、


 波形が表示されている。


 ここまでは、


 篠原の時と同じに見えた。


 次の瞬間。


 シャッターの縁から、


 青白い光が漏れた。


 強い光。


 続いて、


 空気を叩くような大きな音。


 佐伯の肩が跳ねる。


 高瀬が息を呑む。


 もう一度、


 青白い光。


 乾いた破裂音。


 壁面モニターと全員の端末で、


 内部映像の脇に表示されていた波形が、


 大きく乱れた。


 線が上下する。


 やがて、


 平らになった。


『生体反応 検出なし』


 その文字が、


 壁面モニターと全員の端末の内部映像に重なる。


 久世は文字を見る。


 篠原の時にも、


 この表示が出た。


 死亡。


 その言葉は、


 今回もどこにもない。


 一条は画面を見たまま、


 動かなかった。


 天宮も黙っている。


 佐伯は、


 黒田が隠れたシャッターから目を離せない。


 高瀬の手は、


 膝の上で固く重なっていた。


 数秒後。


 壁面モニターと全員の端末から、


 処分区画内部の映像が消えた。


 遮光シャッターが上がり始める。


 床が見える。


 黒田の足はない。


 さらに上がる。


 処分台も、


 見えない。


 シャッターが完全に開いた。


 格子の向こうは、


 空だった。


 床面に、


 四角い継ぎ目だけが残っている。


『通常退学処分 完了』


 表示される。


 それだけだった。


 久世は、


 誰もいなくなった処分区画を見た。


 格子。


 処分台。


 固定帯。


 遮光シャッター。


 光も、


 音も、


 映像も、


 表示も。


 ここまでは、


 篠原の時と変わらないように見えた。


 黒田も、


 同じように目の前から消えた。


 佐伯が小さく息を吐く。


 高瀬はまだ動かない。


 一条は、


 格子の向こうを見ていた。


 久世も、


 空になった床から目を離せない。


 その時。


 低い音がした。


 久世の意識が、


 一気に足元へ向く。


 処分区画の床の下。


 重いものが、


 ゆっくり動いているような音。


 前にも聞いた。


 篠原の時だ。


 久世は顔を上げる。


 廊下の先。


 固定案内板。


『旧講師棟 →』


 あの時。


 篠原が消えたあと。


 床下から聞こえた音は、


 その矢印が示す側へ遠ざかっていった。


 久世は、


 音だけを追う。


 今回は。


 違う。


 低い音は、


 旧講師棟側へ向かっていない。


 その反対側へ、


 少しずつ離れていく。


 久世は動けなかった。


 音はさらに遠ざかる。


 やがて、


 聞こえなくなった。


 篠原の時とは違う。


 あの時、


 音は旧講師棟側へ遠ざかった。


 今は、


 その反対だ。

第二章はここで終了です。

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