第21話 証言のずれ
『三浦拓海』
『参加中・通信不良』
表示は、まだ変わっていなかった。
成海は前方の施設側モニターを見たまま、何も言わなかった。
御影も、白川も、藤崎も同じだった。
三浦は死んでいる。
成海が自分の手で確認した。
それなのに、画面の中では参加中のままだ。
理由は分からない。
さっきまでなら、誰かが何かを言ったかもしれない。
けれど今は、言葉にしたところで答えが出ないことを四人とも分かっていた。
その時。
前方に施設側から新しい表示が出た。
次の設問ではなかった。
『参加者情報の照合のため、状況確認を行います』
御影が画面を見る。
白川が眉を寄せた。
藤崎は何も言わない。
成海も黙ったまま、続く表示を待った。
「……これ、三浦のこと?」
藤崎が言った。
白川が画面を見る。
「タイミング的には、そう見えるけどな」
成海は答えなかった。
三浦の件と関係があるのか。
それとも、まったく別の確認なのか。
今の表示だけでは分からなかった。
*
同じ表示は、四組にも出ていた。
久世は画面を見上げる。
一条も、佐伯も、高瀬も、黒田も、天宮も黙っていた。
「状況確認?」
佐伯が首を傾げる。
黒田が画面を見た。
「何の確認だよ、急に」
久世にも心当たりはなかった。
『状況確認中の回答は、全教室へ共有されます』
回答者の声が、順番に四つの教室へ流れていた。
『本日、施設の指示に従って移動した際に、ほかの参加者を見かけた場合、その人物を答えてください』
短い確認だった。
何人かの回答が続いた。
いくつか名前が挙がる。
誰かを見た。
すれ違った。
姿を確認した。
どれも短い。
久世も、最初は特に意識して聞いていなかった。
状況を整理するための確認なのだろう。
そう思っていた。
その流れの中で、田所の声が入った。
「相馬なら、廊下で見た」
相馬公平。
二組の相馬。
久世は名前だけを頭に残した。
それ以上は考えなかった。
また別の回答が続く。
やがて、確認内容が少し変わった。
『その参加者について、見かけただけですか。それとも、施設の指示に従って移動した際に一緒にいた時間がありますか』
先ほど名前を挙げた者たちへ、続けて確認しているらしい。
短い回答がいくつか続いた。
そして、田所の番になった。
少しだけ間があった。
「……見ただけじゃない。一緒にいた」
久世は顔を上げた。
田所の表情は、ここからでは見えない。
声だけだった。
さっきは、
廊下で見た。
今は、
一緒にいた。
久世は二つの言葉を頭の中で並べた。
同じではない。
見た、なら。
一瞬でも姿を確認すれば成立する。
一緒にいた、なら。
少なくとも田所自身も、相馬と同じ時間と場所を共有していた、という意味まで含む。
後の方が、言っている範囲は広い。
だからといって、それだけで何かが決まるわけではない。
最初は簡単に答えただけかもしれない。
あとから思い出したのかもしれない。
ただの言葉の選び方かもしれない。
理由は分からない。
久世は画面を見た。
状況確認は、そのまま続いている。
田所だけを問い詰める流れにはならなかった。
ほかの回答も続き、やがて確認は終わった。
久世は何も言わなかった。
ただ、一つだけ覚えておく。
廊下で見た。
一緒にいた。
言い方が変わった。
それだけだった。
*
一組の第2試験画面が切り替わった。
御影が顔を上げる。
『第2試験を続行します』
続いて、参加者の認証状態が表示される。
そこで四人の視線が止まった。
『三浦拓海』
『投票認証不能』
藤崎が小さく息を呑んだ。
「……投票、できないってこと?」
白川が前方を見る。
さっきまで見ていた施設側の表示では、
『参加中・通信不良』
だった。
そして今、第2試験側では、
『投票認証不能』
になっている。
同じ三浦拓海に、二つの違う状態が出ている。
成海は画面を見たまま言った。
「少なくとも、試験ではそう扱うらしい」
「参加中なのに?」
藤崎が聞く。
「でも……参加中って出てるなら、まだ生きてる可能性はないの?」
白川が成海を見る。
「お前が間違えたってことは……」
成海は一度だけ目を伏せた。
「……そうならいい」
少し間を置く。
「でも、違う。何度も確認した」
藤崎は何も言えなかった。
画面は、四人の疑問を待たなかった。
表示が切り替わる。
『第四問』
『判断するとき、あらかじめ共通の基準を定めるか、状況に応じて基準を調整するか』
『A あらかじめ共通の基準を定める』
『B 状況に応じて基準を調整する』
有効投票者は四人。
御影。
成海。
白川。
藤崎。
三浦の名前は、有効投票者には入っていない。
白川が画面を見る。
「……これ、やるのか」
誰もすぐには答えなかった。
三浦が死んでから、まだほとんど時間は経っていない。
理由も分からない。
画面の矛盾も解けていない。
それでも、第四問は目の前に出ている。
八分の討議が始まった。
話は長くならなかった。
今の四人に、抽象的な問いを延々と議論する余裕はなかった。
それでも試験は、決められた時間どおりに進んでいく。
八分が終わる。
匿名仮投票へ移り、票数が表示された。
四人はその表示を見て、もう一度話し始める。
五分の再討議。
御影が口を開いた。
「私はAでいいと思う」
白川が息を吐く。
「俺もAでいい」
成海も画面を見る。
「俺もA」
藤崎は少し迷ったあと、頷いた。
「……Aでいい」
再討議が終わる。
記名最終投票へ移った。
御影。
成海。
白川。
藤崎。
四人が、それぞれAを選び、回答を確定した。
少しして、画面が切り替わる。
『一組 全会一致成立』
それだけだった。
三浦は死んでいる。
施設側では、参加中。
第2試験では、投票認証不能。
そのどれについても、説明はない。
それでも、試験だけは続いていく。
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