↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第二章 全会一致の代償
18/44

第18話 表示されなかった二文字

 第三問を終えても、三浦の頭には、さっきまで画面に並んでいた言葉が残っていた。


 確認できた事実。


 未確認の情報。


 判断を確定する。


 判断を保留する。


 第三問そのものは、もう終わっている。


 けれど、その分け方だけが妙に引っかかった。


 確認できていることと、できていないこと。


 どこまでを材料にして、どこから先を自分で決めたのか。


 三浦は無意識に指先を組んだ。


 今さら考え直すような話でもない。


 そう思ったのに、一つだけ、頭から離れなかった。


 通常退学。


*


 通常退学になれば、死ぬらしい。


 三浦は、そういう話を外へ出した。


 死亡することを確認していたわけではない。


 久世に聞かれた時も、そう答えた。


 真壁の、


 ――退学者は、生きてここを出られない。


 その言葉から、死ぬ可能性はかなり高いと考えた。


 人に話す時には、それを一番伝わりやすい形にした。


 死ぬらしい。


 けれど、その言葉は自分の手を離れた。


 別の人間へ渡り、さらに別の人間へ渡るうちに、


 そうらしい。


 だったはずのものが、


 そうなんだ。


 に変わっていった。


 誰か一人がそう変えたわけじゃない。


 自分がそう言わせたわけでもない。


 あの認識調査では、三つのクラスで過半数が「通常退学者は死亡する」と考えていた。


 その時、三浦は思った。


 ――ほんと、言葉って勝手に育つな。


 今も、その考えは変わらない。


 だからこそ、自分がどこまで確認していて、どこから先を意味として足したのかは、分けておく必要がある。


*


 三浦は、篠原の処分を思い返した。


 処分台。


 固定された篠原。


 遮光シャッターの隙間から漏れた青白い光。


 空気を叩くような音。


 乱れた波形が、平らになった。


『生体反応 検出なし』


 シャッターが上がった時、篠原はいなかった。


 処分台も消えていた。


 成海が、


「確認させてください」


 と言ったが、返答はなかった。


 最後に表示されたのは、


『通常退学処分 完了』


 あの場で篠原が死んだと思ったこと自体は、不自然ではない。


 光も、音も、波形も見た。


 生体反応は検出されず、篠原は目の前から消えた。


 三浦自身も、そこから死亡したと判断した。


 ただ。


 記憶の中のモニターを順に追うと、一つだけ違って見える。


 自分たちが、篠原は死亡したと判断したこと。


 施設が『死亡』と表示したこと。


 この二つは、同じじゃない。


 だからといって、篠原が生きているとも、処分が偽物だったとも言えない。


 死んだ可能性が低くなったわけでもない。


 ただ、自分たちは見たものから意味をつないだ。


 光。


 音。


 波形。


 生体反応。


 消えた篠原。


 通常退学処分の完了。


 そこから、


 死亡。


 まで進んだ。


 だが。


 死亡。


 その二文字は――


 出ていない。


 三浦はしばらく動かなかった。


 最初に久世へ話した時と同じだ。


 確認できたことと、自分がそこから判断したこと。


 その境目を、いつの間にか同じものとして扱っていた。


*


 三浦は成海へ視線を向けた。


「成海」


 呼ばれて、成海がこちらを向いた。


「何だ」


 三浦は声を落とす。


「あの時さ」


「何の話だ」


「篠原の処分の時」


 成海の表情がわずかに固くなる。


 三浦は続けた。


「最後に出たの、『通常退学処分 完了』だったよな」


 成海は少しだけ間を置いた。


「そうだ」


「『死亡』って出たか?」


 今度の間は、さっきより長かった。


 成海の視線が止まる。


 それから、


「……出てない」


 と答えた。


 三浦は一度だけ頷いた。


 それ以上、成海には聞かなかった。


 確認したかったのは、そこだけだった。


 三浦は前方へ視線を移す。


 教室の施設側モニター。


 その方向にあるカメラ。


 返事がある保証なんてない。


 これまでだって、参加者からの問いに施設側が答えなかったことはある。


 それでも三浦は、そちらを見たまま口を開いた。


「管理者。通常退学処分の表示について確認したい」


 待つ。


 返答はない。


 モニターにも、何も出ない。


 三浦はそのまま前方を見ていた。


 何も返ってこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。