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第69話 ノーカウント・キラー ――死神は、“誰のために戦うのか”を問いかける――

 刹那と正人は、屋敷の中を進んでいた。


 長い廊下。


 赤い絨毯。


 壁に並ぶ高級絵画。


 だが――。


 そこかしこに銃痕。


 砕けた花瓶。


 倒れた護衛。


 血。


 硝煙。


 そして遠くから響く銃声。


 断続的な発砲音が、屋敷全体を震わせている。


「ジャック……まだ暴れてるわね」


 刹那が呟く。


 ショットガンの重い発砲音。


 あれは間違いなくジャックだ。


 誰かと派手に殺り合っている。


「でも……バンカーが見つからない」


 正人が周囲を見回す。


 部屋が多すぎる。


 まるで迷路だ。


「片っ端から潰すしかないわね」


 刹那は立ち止まる。


 目の前の重厚な扉。


 ――ここ。


 直感。


 次の瞬間。


 ドゴォッ!!


 刹那の蹴りが扉を吹き飛ばした。


 そのまま壁へ滑り込み、

 即座に身を隠す。


 正人も反射的にしゃがみ込む。


 数秒。


 銃声なし。


 刹那がそっと中を覗いた。


「……っ」


 目が細くなる。


 部屋の中は、

 血の海だった。


 高級執務室。


 革張りのソファ。


 酒棚。


 散乱した書類。


 床に倒れる武装した男たち。


 その中心。


 大きな椅子に、

 一人の男が座っていた。


 黒シャツ。


 黒ズボン。


 中肉中背。


 死人みたいに青白い顔。


 腰には、

 サプレッサー付きショットガン。


 カレイドスコープ。


 無表情。


「……ふん」


 静かな声。


「やっと来たか」


 そして。


 口元だけが、

 ゆっくり歪む。


「入ってこいよ」


 一拍。


「撃たねえから」


「信じらんないわね」


 刹那は壁へ背を預けたまま吐き捨てる。


「俺の性格、知ってるだろ」


「そうね」


「じゃあ来いよ」


 刹那は正人へ目配せする。


 ――どう思う?


 正人は静かに頷いた。


 ――今は撃つ気がない。


「行くわよ」


 二人はゆっくり室内へ入る。


 血溜まりを踏む音。


 ぴちゃり。


 ぴちゃり。


 その中に。


 高級スーツ姿の死体。


 銀縁眼鏡。


 頭部が吹き飛んでいる。


 刹那が視線を向けた。


「あんたがやったの?」


 カレイドスコープは、

 死体を見ようともしない。


「死ぬ運命だった」


「それだけだ」


 正人の背筋に寒気が走る。


 この男。


 本気でそう思っている。


 善悪じゃない。


 怒りでも快楽でもない。


 ただ。


 “そういう結果だった”


 としか認識していない。


「アルケミストの居場所」


 刹那が刀の柄へ手をかける。


「知ってるわね」


 沈黙。


 カレイドスコープは、

 じっと刹那を見る。


 瞬き一つしない。


 そして。


「お前」


 静かな声。


「明日、どこにいる」


 刹那は少しだけ笑った。


「あんたを殺して」


 一拍。


「自分の家にいるわ」


 そう言って。


 正人を見る。


 柔らかな目。


「この人と一緒にね」


 沈黙。


 カレイドスコープの目が、

 ほんの少しだけ開かれた。


 無表情。


 だが。


「……ふふ」


 喉の奥で笑う。


「いい答えだ」


 一拍。



 口元が歪む。


「気に入った」


「やめてよ」


 刹那が露骨に嫌そうな顔をする。


「気持ち悪い」


 そして刀を抜く。


「もう人妻なの」


 ニヤリと笑う刹那。


 静寂。


「……そうか」


 無表情。


「じゃあ殺ろうか」


 瞬間。


 カレイドスコープがショットガンを構える。


 刹那も同時に発砲。


 轟音。


 互いに横へ飛ぶ。


 弾丸が交差。


 ブランデーの瓶が砕け散る。


 カーテンが激しく揺れた。


 刹那は即座に銃を捨てる。


 黒い裂け目。


 そこから刀を抜き放つ。


 対するカレイドスコープも、

 手斧を取り出した。


 ギィン!!


 火花。


 刀と斧が激突する。


(くそっ……!!)


 重い。


 速い。


 そして。


 異常に冷静。


(こいつ……強い!!)


 刹那の背中を冷たい汗が流れる。


 カレイドスコープ。


 無表情。


 だが。


 頬が少しだけ、

 笑った気がした。


 その瞬間。


 背後に殺気。


 刹那が振り向く。


 そこに。


 カレイドスコープ。


 斧を振り下ろしていた。


「っ!?」


 回避。


 床が砕ける。


 だが。


 前方にも。


 もう一人。


 カレイドスコープ。


 違う。


 幻覚じゃない。


 息遣い。


 気配。


 殺気。


 全部、本物。


 二人のカレイドスコープが、

 同時に首を傾げる。


 ニコリ。


 無表情のまま。


 ゾッとする。


 さらに。


 右。


 背後。


 殺気。


 三人。


 四人。


 増殖。


「女相手に集団リンチ?」


 刹那が刀を構える。


 黒炎が噴き上がる。


「恥ずかしくないの?」


 四人のカレイドスコープが、

 同時に考える仕草をする。


 そして。


「「「「全員、俺だ」」」」


 一拍。


「「「「問題ない」」」」


「……上等!!」


 黒炎が爆ぜる。


 だが。


 四方向から同時攻撃。


 斧。


 斧。


 斧。


 斧。


(まずい!!)


 躱すだけで精一杯。


「幻覚じゃない……!」


 刹那が息を呑む。


「認識をズラして分体してる……!」


 ふっ。


 カレイドスコープが、

 笑った気がした。


 だが無表情。


(こいつ……!!)


(私に大技を使わせないつもり!?)


 その瞬間。


 上。


 さらに殺気。


「くそっ!!」


 振り向いた瞬間。


 斧が肩へ食い込む。


「がっ……!!」


 血飛沫。


 刹那が床へ転がる。


「刹那!!」


 正人が前へ出る。


 恐怖で足が震えていた。


 それでも。


 止まれなかった。


 刹那を一人にしたくなかった。


 魔法陣を展開。


 空間が震える。


 ――止まる。


 音。


 空気。


 時間。


 全て。


 静止。


 すると。


 五人いたカレイドスコープが、

 一人へ戻る。


 刹那が床に伏せたまま、

 睨みつける。


「あんた……」


 肩で息をする。


「もう少し早く使いなさいよ……」


「ご、ごめん……」


 その瞬間。


 カレイドスコープが、

 刹那を蹴り飛ばした。


 正人の顔色が変わる。


「……おい」


 空気が冷える。


 カレイドスコープは、

 そんな正人を見る。


「少し冷めた」


 静かな声。


「お前、誰だ」


「……」


「お前は誰かと聞いてる」


「成川正人だ」


「違う」


 即答。


「俺が聞きたいのは、そういうことじゃない」


 指を一本立てる。


「もう一度聞く」


 無表情。


「お前は、誰だ」


 沈黙。


 正人は、

 刹那を見る。


 血を流している。


 それでも。


 自分を見ていた。


 信じるように。


 だから。


 正人は前へ出る。


 震える足で。


 真っ直ぐ、

 カレイドスコープを見る。


「彼女の連れ合いで」


 一拍。


「彼女の代わりに戦う者だ」


 静寂。


 無表情。


 そして。


 ほんの少しだけ。


 笑った。


 たぶん。


 正解。


 だが。


 その先にあるのは、

 確実な死。


「……そうか」


 カレイドスコープは、

 初めて興味を持ったように、

 正人を見る。


「じゃあ交代だ」


 一歩。


 斧を握る。


「お前を殺す」




☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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