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第53話 昼下がりの公園で、ヤンデレとジャンキーが笑いながら殺し合う話

 夕方。


 マンション前の空気は妙に静かだった。


 西日がアスファルトを赤く染める。


 遠くで子供が笑っている。


 スーパー帰りの主婦が横切っていく。


 そんな、どこにでもある住宅街。


 ――その一角だけ。


 空気が、刃物みたいに張り詰めていた。


 淀川ハルシャ。


 篝月刹那。


 互いに無言で視線をぶつけ合う。


 その横で。


 定男は怯えた小動物みたいに肩を縮め。


 正人は、状況が飲み込めず困惑していた。


 先に口を開いたのは、ハルシャだった。


「正人」


 低い声。


「あたし、刹那と話がある」


 顎で公園を指す。


「そこの公園で待ってる」


「え……?」


 正人が不安そうに眉を寄せる。


 ハルシャはちらりと定男を見た。


(……ほんとは手伝わせたい)


(でも無理だな)


 心の中で舌打ちする。


(こいつには、刹那は殺せねえ)


「定男」


「ひゃ、ひゃいっ」


「正人といろ。すぐ終わる」


 そのまま踵を返す。


 黒スーツの背中が公園へ消えていった。


 刹那も小さく肩をすくめる。


「女同士の話よ」


 柔らかな笑み。


 だが、目だけが笑っていない。


「すぐ済むわ」


 刹那は正人の頬を軽く撫でる。


「定男さんと待ってて」


 そして、公園へ歩いていく。


 残された男二人。


「…………」


「…………」


 沈黙。


 気まずい。


 めちゃくちゃ気まずい。


「……あの」


 定男がおずおずと口を開く。


「女の人って……長いよね……」


「……ですね」


 正人は乾いた笑みを浮かべた。


     ◇


 夕暮れの公園。


 ブランコが風で揺れている。


 滑り台。


 砂場。


 誰もいない。


 その中央で。


 二人の女が向かい合う。


 一人は長身。


 褐色肌。


 長い黒髪。


 スーツ姿。


 首筋に覗く刺青。


 淀川ハルシャ。


 もう一人は。


 黒髪。


 白い肌。


 日本人形みたいな少女。


 篝月刹那。


 沈黙。


 先に笑ったのは刹那だった。


「驚いたわ」


「……あんたでも結婚できるのね」


 ハルシャの眉がぴくりと動く。


「その言葉、そっくり返すぜ」


 殺気。


 だが、まだ薄い。


 互いに探っている。


 呼吸。


 重心。


 癖。


 どちらも、一歩で殺せる距離。


 だから動かない。


 ハルシャが鼻で笑った。


「なあ」


「どうでもいいことなんだが」


 帽子の鍔を指で上げる。


「お前、フィギュアで売られてたんだろ?」


「……」


「いくらだった?」


 刹那は微笑む。


「二十八万円よ」


 もちろん嘘だ。


 ショーケースの隅で、特価で佇んでいた。


 だが、それを言う女ではない。


「盛ったな」


 ハルシャが吹き出す。


「セーラー服のオリキャラだぞ」


「そんな値段するかよ」


 刹那のこめかみに青筋が浮いた。


「あんたこそ」


「その服しか持ってないわけ?」


 黒スーツ。


 中折れ帽。


 色付き眼鏡。


 完全に堅気ではない。


 ハルシャは肩を揺らして笑った。


「死ぬ前に教えてやるよ」


「旦那の前だけなら、フリル付きも着るぜ」


「……」


「燃えるんだよ、その夜は」


 刹那の頬が引きつる。


「想像したくないわ……」


「制服プレイ常習犯に言われたくねえな」


 空気が冷える。


 笑っている。


 なのに。


 互いに、相手の殺し方を考えている。


 少しの沈黙。


 ハルシャが急に真顔になった。


「私は、お前の傀儡化には関わってねえ」


 刹那の笑みが止まる。


「……そう」


 しかし。


 目だけは濁っていた。


 不信。


 疑念。


「アルケミストはどこ?」


「知らん」


 即答。


 空気が止まる。


 ハルシャは懐から鼻用スプレーを取り出した。


 躊躇なく吸引する。


 シューッ――。


 次の瞬間。


 目が赤く充血した。


 首を回す。


 肩を鳴らす。


 ゴキゴキ、と骨が軋む。


 恍惚。


 万能感。


「……最高だぜ」


 口角が吊り上がる。


 刹那が嫌悪を隠さず吐き捨てた。


「このジャンキーが……」


 ハルシャは笑ったまま、人差し指を立てる。


「お前は殺す」


「でも、正人は殺さない」


「あいつ、ダチだからな」


 刹那の目が細くなる。


「ああ、それとな」


 ハルシャが続ける。


「音楽の趣味、定男より正人の方が合うわ」


「飲んでて楽しい」


 その瞬間。


 刹那の額に血管が浮いた。


 空気が凍る。


「あんたを殺す」


 低い声。


「でも、定男さんには手を出さない」


「……交渉成立だな」


 二人が笑う。


 同時に。


「「じゃあ――殺ろうか」」


 世界が弾けた。


 ハルシャの両手に黒い拳銃が現れる。


 二丁拳銃。


 刹那は虚空から刀を引き抜く。


 黒炎が刀身に絡みつく。


 先に動いたのはハルシャ。


 銃声。


 連射。


 火花。


 刹那の瞳が赤く光る。


 世界が遅くなる。


 飛来する弾丸。


 刀で薙ぐ。


 火花。


 だが。


 消えたはずの弾丸が。


 刹那の背後から現れた。


「っ――!」


 躱す。


 髪が散る。


 振り向きざまに斬る。


 さらに銃撃。


 弾丸が消える。


 次の瞬間。


 真横から出現。


 空間そのものが歪んでいる。


 刹那が地面を蹴る。


 一瞬でハルシャの懐へ。


 刀が走る。


 だが。


 ハルシャは右の拳銃で受け止め。


 左の銃口を刹那の胸へ向けた。


(取った)


 引き金。


 しかし。


 刹那は読んでいた。


 半歩ずらす。


 弾丸が制服を裂く。


 同時に。


 ハルシャの右銃口が刹那の眉間を捉える。


 刹那の刀が振り下ろされる。


 相打ち。


 ――その瞬間。


 黒炎が消えた。


 ハルシャの銃が軋む。


 空気が、怯えたみたいに震える。


 音が消える。


 呼吸が止まる。


 鼻につく。


 古いタバコの臭い。


 アルコール。


 ヤニ。


 そして。


 二人の喉元に、手刀。


 銀色の髪。


 白い肌。


 冷たい目。


 いつの間にか。


 そこに女が立っていた。


 見えなかった。


 本当に。


 何も。


 見えなかった。


 汗が一滴。


 ぽたり、と落ちる。


 戮子は面倒くさそうにため息を吐いた。


「もうやめな」


 静かな声。


 なのに。


 その一言だけで、公園の空気が沈む。


「まだ続けるなら――殺す」


 冷たい目が。


 刹那とハルシャを同時に射抜いていた。



☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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ママンきちゃあーw
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