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第5話 俺だけの前で戻る美少女は、フィギュアも許さない。

 次の日。


 仕事を終え、くたくたになって帰宅した正人は、いつものように玄関のドアを開けた。


 ガチャリ。


「おかえりなさい、正人」


 そこには、当然のように刹那がいた。


 緑のエプロン姿に、黒髪を揺らしながら微笑む絶世の美少女。


 この光景にも、少しずつ慣れてきた自分が怖い。


「た、ただいま……」


 そう返しながら部屋へ入った瞬間、正人は違和感に気づいた。


 ――広い。


 いつもより、部屋が妙に広く感じる。


 視線を巡らせる。


 ロボット。


 パワードスーツ。


 怪獣。


 スーパーヒーロー。


 男系コレクションは健在。



 だが。


「……あれ?」


 アニメヒロイン。


 女性キャラクター。


 美少女系。


 アメコミヒロイン。


 そのあたりだけが、綺麗さっぱり消えていた。


 正人の目が見開かれる。


「あ、あのさ……朝まであったフィギュアがないんだけど……」


 聞きながら、理由はなんとなく分かっている。


 だが、あえて確認した。


 すると刹那は、悪びれもせず部屋の隅を指差した。


「ええ。そこの段ボールに入れてあるわ」


「捨てようかと思ったのだけれど、意外と値がつくのね」


 にっこり笑ったあと、口元がぴくりと引きつる。


「私は千円だったのに」


 歯ぎしりが聞こえた気がした。


「明日、売ってきて」


 当然のように告げる。


「いやいやいや! これ苦労して集めたんだって!」


 正人が慌てて段ボールへ駆け寄る。


 刹那は肩をすくめた。


「でも、もう私がいるでしょう?」


「必要ないと思うのだけれど」


「いや、そういう問題じゃなくて……これはコレクションなんだよ」


「ふーん」


 一拍。


 大きなため息。


「私がいるのに、他の女の子を見るなんて」


「浮気ね」


「フィギュアだよ!?」


 正人の全力ツッコミが部屋に響く。


 刹那は真顔だった。


「私だって、元はフィギュアみたいなものよ」


「つまり同類」


「この子たちはライバルね」


「理屈がおかしい!」


 正人が頭を抱える。


「そんな目で見てないって。かわいいなーとか、出来いいなーとか、その程度で……」


「ふーん」


 刹那の黒い瞳が細くなる。


「正人」


「私を買った時、一番最初に何を見たか覚えてる?」


「……え?」


「じっくり観察していたわよね」


「うっ」


 記憶が蘇る。


 確かに、造形の細かさに感心して見ていた。


「責めてるんじゃないの」


「ただ――」


 ずいっと顔を寄せる。


「私以外を見る必要、ある?」


「あるよ! 普通にあるよ!」


「ないわ」


 即答だった。


 護符がぴり、と揺れる。


 空気が張り詰める。


「正人は、私だけ見ていればいいの」


「私は正人だけ見ているんだから」


「言ったでしょう? 私、嫉妬深いって」


 正人は思い出した。


 確かに言われた。


 かなり序盤で。


「……じゃあ、どうすればいいの?」


 観念して尋ねる。


 刹那は腕を組み、しばらく考え込んだ。


 そして、また大きくため息をつく。


「いいわ」


「今回は特別に、保留にしてあげる」


「ほ、本当か!?」


「ただし」


 指を一本立てる。


「私との時間を増やすこと」


「え?」


「毎日ちゃんと話す。帰ったらすぐ顔を見る。休日は一緒に過ごす」


「それ、条件増えてない?」


「当然でしょう」


 刹那は鼻を鳴らす。


「あなた、放っておくとすぐ棚の子たちを見るもの」


「いや、それ俺の部屋なんだけど……」


「私の部屋でもあるわ」


 さらっと言い切られた。


 さらに刹那はスマホを取り出し、にやりと笑う。


「そういえば、端末の整理もしておいたわ」


「……整理?」


「趣味のデータ、少し減らしておいたの」


「えっ!?」


 正人の顔色が変わる。


「全部じゃないわ。さすがに可哀想だもの」


「でも、黒髪セーラー服系だけは残しておいたわ」


「なぜそこだけ!?」


「私に近いから」


 ドヤ顔だった。


 正人はその場で膝から崩れ落ちる。


「俺のデータが……」


 刹那はそんな彼を見下ろし、満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、ご飯にしましょう」


 鼻歌まじりにキッチンへ向かう。


 その背中越しに、低く甘い声が届く。


「あなたはね――私だけ見ていればいいの」


 正人は床に手をついたまま、天井を仰いだ。


 この同居生活。


 幸せなのか、支配されているのか。


 まだ、自分でも分からなかった。


ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


読んでいて リアクション、感想等、気軽にお教えいただけるとうれしいです。


 

今後もよろしくお願いします!


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