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第4話 買ったフィギュアが夜中にベッドへ入ってきた件

自宅


 部屋へ戻り、買ってきたフィギュアを棚へ飾る。


 よく出来ている。


 精巧すぎるくらいに。


 黒髪の流れ。


 制服のしわ。


 刀の細工。


 そして、どこか寂しげな表情。


「……どうしたんだろうな」


 正人はベッドへ腰を下ろす。


「からかわれてる……だけ、なのか?」


 自分みたいな男に、あんな美少女が本気で迫る理由なんてない。


 そう思うのに。


 心のどこかで、また会いたいと思ってしまっている。


 風呂に入り、歯を磨き、電気を消す。


 ベッドへ潜り込む。


 暗闇。



 静寂。


 ……そして、深夜。


 気配がした。


 人の気配。


 誰かが、部屋にいる。


 眠気が一気に吹き飛ぶ。


 だが体が動かない。


 足音。


 衣服の擦れる音。


 ゆっくりと近づいてくる。


 ベッドの端が沈む。


「……ありがとう」


 耳元で、澄んだ声がした。


 正人が目を見開く。


 月明かりの中。


 そこにいたのは――刹那だった。


 一糸まとわぬ姿のまま、黒髪を揺らし、こちらを見下ろしている。


「せ、つな……!?」


「静かに」


 白い指が唇へ触れる。


 次の瞬間。


 彼女の唇が、重なった。


 甘く、熱く、逃がさない口づけ。


 一筋の糸が、月光にきらめく。


 頭が真っ白になる。


 刹那は息のかかる距離で囁いた。


「もう離さない」


「あなたは私のもの」


「私だけのもの……」


 ぞくり、と背筋が震える。


 怖い。


 なのに、目が離せない。


「いい?」


 刹那の瞳が妖しく揺れる。


「私はね……嫉妬深いの」


 彼女の手が、正人の胸元へ滑る。


「私のすべてをあげる」


「だから――」


 顔を寄せ、甘く微笑んだ。


「全部もらう」


「あなたの全部」


 その瞬間。


 部屋の四隅に貼られていた見覚えのない護符が、ぼうっと赤く光った。


 闇が揺らめく。


 世界が閉じる。


 二人を包むように、夜が深く沈んでいった。








 時は、穏やかな食卓の風景へと戻る。


 湯気の立つ味噌汁。


 空になりかけた茶碗。


 テレビもつけていない静かな部屋に、箸の触れ合う小さな音だけが響く。


 そんな中、刹那がふいに口を開いた。


「ねえ、ご飯食べ終わったら……」


「食べ終わったら……?」


 思わず同じ言葉を返してしまう。



 一拍。


 刹那はにこりと笑った。


「一緒にお風呂に入りましょ」


「ぶっ!!」


 正人は思わず味噌汁をむせ返らせた。


 刹那がじとっとした目を向ける。


「……そんな驚くこと?」


「い、いや……ずいぶん積極的だなって……」


 正人は視線を逸らしながら小さくなる。


 刹那は楽しそうに肩をすくめた。


「知りたいの」


「あなたのこと、全部」


 その声音は冗談めいているのに、瞳だけは真剣だった。


「う、うん……いや、その……いいけど」


「私と一緒は嫌?」


「い、いえ! お願いします!」


 即答だった。


 刹那は満足げに胸を張る。


「正直でよろしい」


 どこか得意げなその表情に、正人はますます顔を赤くするのだった。




  


 浴室


 白い湯気が立ちこめる浴室。


 正人は落ち着かない気持ちで湯船につかっていた。


 隣には刹那。


 近い。


 とにかく近い。


 心臓の音が自分でもうるさいほどだった。


 刹那はそんな正人の様子を気にすることもなく、静かに隣へ腰を下ろす。


 そして、そっと正人の肩へ腕を回した。


「せ、刹那……?」


「じっとして」


 やわらかな声。


 彼女は正人の横顔を見つめ、それから少しずつ視線を移していく。


 まるで何かを探すように。


 やがて、後ろへ手を伸ばした。


「……ねえ、あなた」


「後頭部に傷があるのね」


 浴室に静かな声が響く。


 正人は少し驚いたように瞬きをした。


「ああ……うん。昔の怪我らしいんだ」


「らしい?」


「よく覚えてないんだ。そこらへんの記憶、抜けててさ」


 困ったように笑い、肩をすくめる。


 刹那は黙ったまま、その傷跡へそっと指先を触れた。


 とても優しく。


「……そう」


 それだけ呟く。


 けれど、その瞳には別の感情が宿っていた。


 驚き。


 確信。


 そして、焦り。






 深夜


 部屋の明かりは消え、静かな寝息だけが響いていた。


 正人はすっかり眠っている。


 その横顔を、刹那はじっと見つめていた。


 穏やかな寝顔。


 無防備で、何も知らない男。


 けれど彼女の胸の内は、静かに揺れていた。


 なぜ。


 どうして。


 この男の前でだけ、自分は元の姿に戻れるのか。


 なぜ、この男が“鍵”なのか。


 そして、あの傷。


 あれが偶然のはずがない。


 あの傷に、自分を縛る呪いを解く何かがある。


 復讐へ至る糸口。


 奪われた時間を取り戻すための、唯一の手がかり。


 刹那は眠る正人の髪に、そっと触れた。


「……必ず見つける」


 小さく、しかし強い声。


「謎も……奴らの居場所も」


 闇の中、刹那の瞳だけが鋭く光る。


 優しい同居人の顔ではない。


 それは、すべてを奪われた復讐者の目だった。



ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


読んでいて リアクション、感想等、気軽にお教えいただけるとうれしいです。


 

今後もよろしくお願いします!


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