第42話 妹はすべてを見抜く女(ただし勘違いする)
正人のマンション――ダイニング。
テーブルを囲む四人。
正人。
刹那。
エリュアール。
そして――
「はははははっ!!」
黒髪の女が、腹を抱えて笑っていた。
「ちょっと待って……っ、無理……っ!」
テーブルを叩きながら、涙を拭う。
「それで? 修羅場になったわけ?」
さらに笑う。
心の底から楽しそうに。
「可笑しいか……?」
正人がジト目で睨む。
「お前のせいで、えらい目にあったんだぞ」
「ごめんごめん」
軽い。
あまりにも軽い。
「兄さん」
その一言で――
空気が、少しだけ変わる。
「紹介、まだだったね」
女は立ち上がる。
背筋を伸ばし、
まるで舞台に立つように。
「成川敦子」
にこり、と笑う。
「この正人の妹。三つ下」
あっさりと言った。
沈黙。
そして。
刹那が、立ち上がる。
「篝月刹那です」
丁寧に、深く頭を下げる。
「正人さんと……お付き合いさせていただいてます」
一瞬。
敦子の表情が固まる。
「……は?」
ゆっくりと、刹那を見る。
上から下まで。
制服。
華奢な体。
整った顔立ち。
「……え?」
そして。
「うわっ、Jkなの!?」
声が裏返る。
驚愕。
だが、その次の瞬間。
表情が、変わった。
すっと。
冷静な、大人の顔に。
「……なるほどね」
顎に手を当てる。
「馬鹿な弟なら……そういうこともあると思うの」
「このくらい可愛ければ……うん……」
ちらり、と正人を見る。
「わかるよ」
ため息。
「真面目だけが取り柄だもんね」
「おい」
正人が抗議する間もなく。
敦子は、スマホを取り出した。
「……自首しよ」
「はっ!?」
正人が飛び上がる。
「母さんには、私から言うから」
静かに言い切る。
そして。
刹那の前に立つ。
その肩に、そっと手を置いた。
「辛かったよね」
優しい声。
「でも、大丈夫」
目が、まっすぐだった。
「罪は……ちゃんと償わせるから」
「違うんです」
即答する刹那。
だが、敦子は首を横に振る。
「いいのよ」
小さく、微笑む。
「もう我慢しなくていい」
少しだけ声を落とす。
「お金? それとも……見られたくない映像とか?」
「そんなことしてないって!!」
正人が叫ぶ。
「うんうん」
頷く敦子。
「そういう人、みんなそう言うらしいよ」
「聞けよ!?」
「ごめんね……」
ぽつり、と呟く。
「こんなことなら……」
視線が、少しだけ揺れる。
「私が、兄さんの劣情……受け止めればよかったのかなって」
「いやそれは違う方向にやばい!!」
「ごめんね」
「気づかなくて……」
しん、と空気が沈む。
――そのとき。
「いえ」
刹那が、一歩前に出た。
「違います」
真っ直ぐ、敦子を見る。
「私からです」
一拍。
「正人さんに……彼女にしてほしいって、お願いしました」
静かに、でもはっきりと。
言い切る。
沈黙。
そして――
「……え?」
敦子の思考が止まる。
「……え?」
もう一度。
「嘘でしょ!!?」
完全に崩壊した。
ダンッ、とテーブルに手をつく。
「ちょっと待って、情報が追いつかない!!」
「兄さんが!? 選ばれた側!?」
「世界どうなってんの!?」
「知らねえよ!!」
正人も叫ぶ。
その横で。
エリュアールが、頬杖をつきながら。
「……あーあ」
ニヤニヤと笑う。
「これ、絶対おもしろくなるやつだわ」
小さく、呟いた。
――そして。
誰も気づいていなかった。
その瞬間だけ。
敦子の目が。
一瞬だけ、鋭く細められていたことを。
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