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第39話 選んだ代償、それでも君を抱きしめる。

 ガチャリ――


 静かに、寝室のドアを開けた。


 薄暗い部屋。


 カーテンの隙間から、わずかな街灯の光。


 ベッドの端に、刹那が座っていた。


 俯いたまま、動かない。


 正人は、何も言わず――


 そっと、その隣に腰を下ろす。


 沈黙。


「……ごめん」


 小さな声。


「今日は、もう寝るね」


 そう言って、布団に入ろうとする。


「待って」


 思わず、その手を掴む。


 刹那の動きが止まる。


 正人は、自分の右目を指さした。


「この眼は――俺の意志だよ」


「俺が選んだ」


「君のせいじゃない」


「……でも」


 かすれる声。


「私がいなければ――」


 首を振る。


「あいつら、言ってた」


「俺が“推し”なんだって」


「理由はよくわからないけどさ」


 少しだけ苦笑する。


「弟とか従兄弟とか……誰を推すかで揉めてるらしい」


 刹那の目が、わずかに見開かれる。


「つまりさ」


「君がいなくても、たぶん俺は巻き込まれてた」


 ゆっくりと言い切る。


「だから――」


「気にしなくていい」


 刹那は、目を閉じる。


「……それでも」


 震える声。


 それを、遮るように。


「いいんだよ」


 正人は、はっきりと言った。


「俺は――」


 一瞬の間。


「君さえいてくれたら、それでいい」


「君は、俺の全てなんだ」


 その言葉に。


 刹那の肩が、震えた。


「……ばか」


 次の瞬間。


 強く、抱きつかれる。


「ほんとに……ばか」


 顔を埋めながら。


「そんなこと言われたら……」


 小さく笑う。


 でも、その声は震えていた。


 ふわりと近づく距離。


 触れ合う息。


 そっと、唇が重なる。


 ――その瞬間。


 流れ込んでくる感情。


(好き)


 あまりにも真っ直ぐで。


(大好き)


 壊れてしまいそうなほど、強くて。


 胸が締め付けられる。


「……覚悟してよね」


 刹那が、囁く。


「もう、離さないから」


 顔を上げる。


 その瞳は、まっすぐで。


 どこか、危うくて。


「逃げられるなんて、思わないで」


 でも――


 それすらも、愛おしいと思ってしまう。


 ゆっくりと、ベッドへと倒れ込む。


 互いの体温が、重なる。


 言葉はいらない。


 ただ――


 確かめるように。


 寄り添う。


 それだけでよかった。


 この瞬間だけは。


 世界に、二人だけでいいと。


 そう思えた。



☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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