第30話 彼女と約束した夜、家に帰ったら4L焼酎で潰れてるはずの金髪美人に全部見られていた気がする。
――三時間後。
夜の街の熱気が、少しだけ冷めた頃。
正人と刹那は、自宅マンションの前に立っていた。
「……また、行こうよ」
何気ない一言。
でもそれは――今日という時間を“続きにしたい”という願いだった。
「ええ。約束よ」
刹那は迷いなく頷く。
その声は静かで、けれど確かに――重い。
逃げ場を与えない種類の約束だった。
(……今の、軽く言ったつもりだったんだけどな)
正人は苦笑する。
けれど。
その“重さ”が、どこか心地よくもあった。
ドアを開ける。
――瞬間。
「遅いにょ〜……ぎょ飯まだ〜……」
空気が、終わっていた。
「うわっ……!」
むせ返るようなアルコール臭。
リビングのソファには――
だらしなく崩れた姿の金髪美女。
エリュアール。
その手には――
4リットルのペットボトル焼酎。
しかもラベルには、物騒すぎる名前。
『エルフ殺し』
(絶対まともなルートで買ってないだろ……)
しかも――
もう半分以上、消えている。
「……ドン引きだわ」
刹那が、はっきり言った。
「生でいってるし……何その飲み方」
「あんひゃぁ〜? なにゆってんのぉ……」
エリュアールは顔を赤くしながら、だらしなく笑う。
「でれのおきゃげでぇ……であるけたと……おもってんにょ〜?」
(多分、“誰のおかげで外出できたと思ってるの”って言ってるな……)
正人は即座に翻訳した。
「あー……いや、その……」
正人は一瞬だけ迷って――
「マンション前の喫茶店で済ませた」
さらっと言った。
一瞬。
空気が、止まる。
「……は?」
エリュアールの笑みが、ぴたりと止まる。
「にゃんで……わひゃし……よばにゃいにょ……?」
低い。
酔っているのに――妙に低い。
刹那が一歩、前に出た。
「二人の時間を大事にしたいじゃない」
にこやかに言う。
だがその目は――笑っていない。
「はい、お土産」
差し出される箱。
エリュアールは無言で受け取る。
開ける。
中にはケーキ。
「……ふん」
――手づかみで掴む。
そのまま、かぶりつく。
そして。
焼酎で流し込む。
「ちょっ……!」
「きょんにゃんでぇ……ごまきゃしゃれにゅいからにゃ……」
(こんなので誤魔化されないからな、か……)
正人は内心でため息をつく。
「おい、そんな飲み方――」
「ひゅん……これがうみゃいにゅよ……おこちゃまね……」
完全に出来上がっている。
だが。
その視線だけは――妙に鋭い。
(……見られてる)
正人は気づく。
この女。
酔ってるフリをしている可能性がある。
あるいは――
酔っていても、思考だけは死んでいない。
「……行きましょ」
刹那が、ぽつりと言う。
次の瞬間。
正人の手を取る。
――指を絡める。
恋人繋ぎ。
「え、ちょ……」
「お風呂、入るのでしょう?」
自然な顔で言う。
だがその手は――逃がさない。
「もう寝るから」
そのまま、リビングを出ていく。
正人は引かれるまま歩く。
背後から――
「おう……おう……」
ぐにゃりとした声。
「しぇいぜい……たのしめよぉ……」
エリュアールが笑う。
――下品で。
――底の見えない笑い。
その瞬間。
刹那の指に、ほんの少しだけ力がこもった。
ドアが閉まる。
静寂。
そして。
一方で――
(……正人は、渡さない)
刹那の瞳は、静かに燃えていた。
――その夜。
エリュアールは、見事に二日酔いで死ぬことになる。
それはもう、完膚なきまでに。
ただし。
昨夜の会話は、すべて覚えている状態で。
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