表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/44

第28話 俺の枕、裏も表もYESなんだが

 食後――。


 エリュアールは、カップ麺の容器を机に置くなり、けろりと言った。


「今日は、私が先にお風呂入るわよ」


「えっ」


「だって、あんたたちの後の残り湯って、なんか負けた気がするもの」


 まったく意味がわからない理屈だった。


 正人は顔を赤くするが、エリュアールに空気を読む能力など期待してはいけない。


 相変わらずの通常運転。


 そして、通常運転だからこそ厄介だった。


 すると刹那は、まるで動じる様子もなく肩をすくめる。


「いいわよ。その後で、私たちがゆっくり入るから」


 ちらり、と正人を見る。


 ――ね?


 そんな無言の圧が飛んできた。


「い、いや今日は色々あったし、別々で――」


 言いかけた瞬間。


 刹那の声が、すっと低くなる。


「……は?」


 空気が凍った。


「まさか、この私の誘いを断るとか……」


 にこり、と笑う。

 なのに背筋が寒い。


「ないわよね?」


「……はい」


 正人は反射で頷いた。


 エリュアールはそれを見て、ずるいわねぇとでも言いたげな顔をしている。


 刹那は満足げに微笑むと、ふっと視線を遠くへ向けた。


「それに、あいつの言葉……気になるのよ」


 スレッジハンマー。

 最後に残した不穏な言葉。


 その場の三人の脳裏に、炎の中で笑う姿がよぎる。


「だから、ゆっくり整理する必要があるわ」


「お風呂で?」


「頭が冴えるのよ」


 どういう理論だ、それは。


「あと、正人」


「な、なに?」


「身だしなみ、ちゃんと整えてあげる」


「その言い方やめて!?」


「私がいないと、ほんと危なっかしいんだから」


 大きくため息をつきながらも、どこか嬉しそうだった。




 しばらくして。


 風呂上がりの正人は、魂が半分抜けた顔で脱衣所に座り込んでいた。


「つ、疲れた……」


 刹那に髪を整えられ、眉を見られ、服装のダメ出しまでされたのだ。


『もっとちゃんとしなさい』


『素材は悪くないんだから』


 そんな言葉とともに。


 精神的ダメージは大きい。


 だが同時に、


(……なんか世話焼かれてるの、ちょっと嬉しいかも)


 そんな危険思想も芽生えていた。


 正人はぶんぶん首を振った。


「違う違う違う」




 寝室に入ると、パジャマ姿の刹那がベッドに腰掛けていた。


 淡い灯りの中、その姿はやけに綺麗だった。


 さっきまで鬼教官のように髪型チェックをしていた人物と同一人物とは思えない。


「ふふっ、どうしたの?」


「い、いや……その……綺麗だなって」


 ぴたり、と刹那の動きが止まる。


 数秒後、ふんと鼻を鳴らした。


「当然よ。私が恋人なんて、あなた運を使い果たしてるわ」


「うん、使い果たしてる」


 即答だった。


 今日一日の騒動を思い返せば、否定しようがない。


 そして視線を下ろした正人は、あるものに気づく。


 ダブルベッド。

 並んだ二つの枕。


 ひとつは青。

 ひとつはピンク。


「こ、これは……!」


 枕には大きく文字が書かれていた。


【YES】裏も表も


「なんで両方YESなんだよ!?」


 刹那の顔が一気に赤くなる。


「う、うるさいわね……!」


「いや普通、片方NOとかあるでしょ!?」


「あなた、まだ選択権があると思ってるの?」


 にやり、と笑う刹那。


「ずいぶん可愛いこと言うわね」


「ええええええ!?」


 正人の絶叫が、夜の部屋に響き渡った。


 廊下の向こうから、エリュアールの声が飛んでくる。


「うるさいわよー! 寝れないんだけどー!」


 その夜もまた、平和なのか騒がしいのか分からないまま更けていった。




☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ