第26話 燃える夜のあとで
爆炎を背に、三人は走った。
路地を抜け、信号を渡り、人気のない住宅街まで来てようやく足を止める。
たどり着いたのは、古びた小さな公園だった。
夜風に揺れるブランコ。誰もいない砂場。街灯だけが白く地面を照らしている。
その片隅で――
三人そろって体育座りしていた。
「……やばかったな」
エリュアールがぽつりと呟く。
さっきまで銃弾の雨をくぐり、怪物と戦い、ビルを爆発させてきた女の第一声とは思えない、妙に素朴な感想だった。
「…………」
「…………」
正人と刹那は無言。
誰も笑わない。
それぞれ別のことを考えていた。
(誰が、スレッジハンマーを始末した?)
刹那は膝に顎を乗せ、静かに目を細める。
あの怪物は死に際に何かを知っていた。
アルケミストのことでも、自分の復讐のことでもない。
もっと別の――何か。
(何を言おうとしたの)
視線が、隣の正人へ向く。
(……正人は何者なの?)
(あれ、何だったんだ……)
正人もまた、膝を抱えながら青ざめていた。
スレッジハンマーは確かに自分を見た。
驚いた顔で。
まるで、知っている相手を見るように。
(俺と……どんな関係があるんだよ)
胸の奥がざわつく。
自分でも知らない自分が、どこかにいるようで。
気味が悪かった。
重い沈黙が続く。
やがて刹那は、大きく息を吐いた。
「……はぁ」
考えても答えが出ないことに、時間を使う趣味はない。
自分でどうにもできないことは、今は棚上げ。
必要なら、その時に斬ればいい。
それが刹那の生き方だった。
ぱん、と膝を叩いて顔を上げる。
「助かったわ」
突然の言葉に、エリュアールが目を丸くする。
「……は?」
「あんたよ。今回は」
少しだけ視線を逸らしながら言う。
「潜入も、護符も、戦闘も……役に立った」
珍しい。
刹那が素直に礼を言うなど、雪でも降るレベルだ。
エリュアールは一瞬ぽかんとしたあと、にやりと口角を上げた。
「ふん。やっとわかった?」
胸を張る。
「私が有能だってこと」
「「うん」」
正人と刹那の声が、完璧に重なった。
「なんでそこでハモるのよ!?」
即座に立ち上がって抗議するエリュアール。
刹那は肩をすくめ、何気なく言った。
「そういえば、あんたってシャイアって言うのね」
「そうだけど?」
「てっきりベッピンニャーかと思ってたわ」
「おい!!」
エリュアールが勢いよく手を突き出した。
「その黒歴史を蒸し返すな!」
「ドエリャー・ベッピンニャー、だったかしら」
「やめろ!! 記憶力いいな、お前!!」
珍しく、正人が吹き出した。
「いや、あれは忘れられないって……」
「笑うな!」
その時だった。
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
ウゥゥゥゥゥ――
救急車。
パトカー。
消防車。
何台もの赤い光が、夜の街を切り裂くように走っていく。
向かう先は、もちろんさっきの雑居ビルだ。
三人は同時にそちらを見た。
「……やりすぎたかしら」
刹那がぼそり。
「いや、だいぶやりすぎよ」
エリュアールが真顔で返す。
「俺、明日のニュース見るの怖いんだけど」
正人は本気で青ざめていた。
やがて三人は立ち上がる。
野次馬たちが騒ぐ繁華街のほうへ、自然と足が向く。
ネオンの光が夜空を染め、喧騒が遠くから流れてくる。
その中を、
ヤンデレな復讐者と、
残念美人なポンコツエルフと、
巻き込まれ系一般人(仮)が歩いていく。
奇妙な三人組だった。
だが今夜だけは、少しだけ。
仲間に見えた。
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