第25話 スレッジハンマー、粉砕――復讐の五階決戦
五階のラウンジに、重低音のような殺気が満ちる。
スレッジハンマー――レクリシア・マレウスは、鼻で笑いながら巨大な得物を肩に担いだ。
「じゃあ始めようぜ、復讐ごっこ」
次の瞬間。
その細い身体からは想像もつかない速度で踏み込み、巨大ハンマーを振り下ろした。
轟ッ!!
空気そのものが叩き潰される。
刹那は紙一重で横へ跳び、床が陥没する。
砕けたコンクリート片が雨のように散った。
着地と同時に、日本刀が横一文字に走る。
ガキィン!!
刃が何か硬質なものへ弾かれた。
スレッジハンマーの衣装の裂け目から、一瞬だけ覗く鈍い光沢。
熱を帯びた鱗のような皮膚。
「……やっぱり」
刹那が目を細める。
「効かないか」
「そんな生ぬるい一太刀で?」
スレッジハンマーは肩をすくめた。
「舐めんなよ、こっちは改造済みだ」
その背後。
金色の影が弾けた。
「だったら、こっちは数でいくわ!」
エリュアールが双剣を抜き放つ。
《身体強化》
《高速移動》
《超回復》
三つの術式が同時展開され、彼女の身体が赤熱したように加速する。
双剣が炎をまとい、背後からスレッジハンマーの首筋へ迫る。
「見えてんだよ!!」
ブンッ!!
蛇のような尾が唸りを上げ、横薙ぎに襲う。
ガキン!!
エリュアールは双剣を交差させ、尾撃を受け止めた。
床が裂ける。
「っ……重っ!」
「ふーん」
スレッジハンマーが振り向く。
「少しはやれるみたいだな」
そのままハンマーを真上から叩き落とす。
エリュアールは横転して回避。
ドォン!!
床が爆ぜ、鉄骨がむき出しになる。
「おいおい」
スレッジハンマーは笑った。
「二対一ってどうなんだ?」
サングラスの奥で目を細める。
「全然ファンキーじゃねえぜ」
「黙れ」
刹那が低く呟く。
刀を水平に構えた。
「魔刀――宵闇」
空気が冷える。
「限定解除。第一術式、第二術式」
刀身が漆黒の炎に包まれ、そこにギョロリと巨大な一つ目が開いた。
正人が思わず後ずさる。
「うわっ……」
「相変わらず趣味が悪いな」
スレッジハンマーが吐き捨てる。
「その邪法、見てるだけで胸焼けするぜ」
刹那は答えない。
ただ、一歩踏み込んだ。
刀を振り下ろす。
すると刀身が黒い鞭のように伸び、しなりながら襲いかかった。
スレッジハンマーはハンマーの柄で受け止める。
――だが。
黒炎は刃の軌道を無視して曲がった。
蛇のように背後へ回り込み、その背中を深々と斬り裂く。
「ぐっ――!」
鮮血が噴く。
そこへエリュアールが飛び込んだ。
「今よ!!」
炎をまとった双剣が傷口へ突き立てられる。
「舐めるなァ!!」
スレッジハンマーが反射的にハンマーを振るう。
その瞬間。
刹那の瞳が妖しく光った。
《空間歪曲》
エリュアールの姿が消える。
「――は?」
次の瞬間、彼女は真横に現れていた。
「取ったァ!!」
斬撃。
爆炎。
双剣が脇腹を深く抉り、スレッジハンマーの小柄な身体が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ、血を吐く。
だが終わらない。
《空間歪曲》
今度はスレッジハンマー自身の身体が、刹那の眼前へ強制転移させられた。
「なっ――」
そこへ待っていたのは、漆黒の刃。
ズブリ、と。
炎の刀身が胸を貫いた。
「が……っ」
膝をつくスレッジハンマー。
ハンマーが手を離れ、床へ転がる。
刹那は無言でそれを蹴り飛ばした。
ゴロゴロと転がる巨槌。
刀を引き抜く。
血と黒炎が散った。
「アルケミストはどこ?」
冷え切った声だった。
スレッジハンマーは仰向けに倒れ、天井を見ながら笑う。
「……殺せよ」
「居場所なんざ、言うわけねえだろ」
その視線が、部屋の隅で固まっていた正人へ向く。
口元が吊り上がった。
「ふふ……知らない方がいいぜ」
刹那の眉が動く。
「どういう意味?」
「そいつ――」
その瞬間。
誰のものでもない、低い声が聞こえた気がした。
――余計なことは言うな。
部屋の温度が一瞬で下がる。
スレッジハンマーの身体が、内側から燃え上がった。
「がはは……っ」
黒煙と炎に包まれながら、それでも笑う。
「刹那……地獄で待ってるからな」
刹那は見下ろしたまま言い放つ。
「お前の地獄は、もう始まってる」
「真実を知ったら……ひゃはははははッ!!」
爆ぜた。
炎が天井まで噴き上がる。
シャンデリアが砕け、壁が裂け、部屋全体が火柱に包まれる。
「やばい!!」
エリュアールが叫ぶ。
「ここ吹っ飛ぶ!!」
迷わず窓へ飛び込み、ガラスごと外へ跳んだ。
刹那も舌打ちし、正人の腕を掴む。
「行くわよ!」
「え、待っ――」
抱え上げ、そのまま窓から飛び降りた。
数秒後。
ドォォォォン!!
五階が爆発した。
夜空へ火炎が噴き上がる。
地面へ着地した三人は、振り返る間もなく走り出す。
エリュアールが先頭で叫ぶ。
「ずらかるぞ!!」
燃え盛るビルを背に、復讐者たちは闇へ消えた。
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