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第24話 殺意とシルクハット

 五階――。


 血と硝煙の匂いをまとったエレベーターが、ゆっくりと停止する。


 電子音が鳴り、扉が左右に開いた。


 その瞬間だった。


 ダダダダダダダッ!!


 待ち構えていた銃口が、一斉に火を吹く。


 無数の弾丸がエレベーター内部へ叩き込まれ、壁を穿ち、火花を散らし、金属を悲鳴のように軋ませる。


 数秒後。


 銃声が止んだ。


 煙の向こうで、男の一人が吐き捨てる。


「……殺ったか!!」


 沈黙。


 エレベーターの中には――誰もいなかった。


「は?」


 間抜けな声が漏れた、その刹那。


 天井近くの死角から、金色の影が飛び出した。


「残念でしたァ!!」


 エリュアールだった。


 宙を舞いながら双剣を抜き放つ。


 一閃。


 二閃。


 銀光が交差し、待機していた男たちの喉と手首を正確に裂く。


 血飛沫が壁に咲いた。


「ぎゃ――」


 悲鳴が最後まで続くことはなかった。


 着地したエリュアールは、軽く髪を払う。


「だから待ち伏せは、頭使ってやりなさいっての」


 周囲を素早く見回し、壁、柱、通気口へ護符を貼っていく。


 指先の動きは流れるように速い。


「よし。制圧完了」


 そしてエレベーターへ向かって声をかけた。


「出てきていいわよー」


 天井の救出口が開く。


 そこから、まず黒髪の少女が降りてきた。


 セーラー服の裾を払う刹那。


 続いて、顔面蒼白の正人がへっぴり腰で降りてくる。


「あ、あのさ……普通、こういうとこ乗るだけじゃないの?」


「あなた、まだ常識に期待してたの?」


 刹那は鼻で笑った。


「あんたがいて助かったわ」


 エリュアールはチャイナドレスの裾を翻し、胸を張る。


「もっと感謝していいのよ?」


「調子に乗るな」


 三人の視線が、廊下の奥へ向く。


 そこには重厚な両開きの扉。


 異様な圧が、その向こうから滲み出ていた。


 刹那が無言で前へ出る。


 そして――


 ドゴォン!!


 蹴り一発で扉を吹き飛ばした。


 木片が舞い、蝶番が千切れ、奥の部屋が姿を現す。


 そこは豪奢なラウンジだった。


 赤い絨毯。


 巨大スピーカー。


 酒瓶の並ぶカウンター。


 そして中央のソファに、ひとりの少女が座っていた。


 身長は百五十センチにも満たない。


 年齢も十代後半にしか見えない。


 だが、その存在感は怪物だった。


 真紅のシルクハットには星型の飾り。


 星型ミラーサングラス。


 サイケデリックな赤い衣装。


 脚を組み、背には自分の身長ほどもある巨大ハンマー。


 さらに、ソファの後ろでゆらゆら揺れる蛇のような尾。


 エリュアールが口笛を吹く。


「へ〜……ブーチィー・コリンズかよ」


 刹那は真顔のまま言った。


「気をつけなさい。見た目はふざけてるけど、本気で強いわ」


 少女の眉が跳ね上がる。


「おいおいおい、ファンクを舐めんなよ」


 立ち上がる。


 ハンマーを肩に担ぐ。


「これはな――俺の誇りだ」


 床が軋む。


「ここに来るなら、ジェームズ・ブラウンくらい聴いてから来い!!」


 正人だけが小声で呟く。


「誰……?」


 少女はそこで刹那を見た。


 サングラスの奥の目が見開かれる。


「あれ……?」


 数秒、沈黙。


「お前……刹那じゃねえか」


 尾がぴたりと止まる。


「どうやって戻った?」


 刹那の瞳は氷のように冷えていた。


「あんたを殺すためよ」


 少女は鼻で笑った。


「お前がか?」


 巨大ハンマーを軽々と持ち上げる。


「無理だ。やめとけ」


 ドンッ!!


 尾が床を叩きつけるだけで、絨毯の下のコンクリートに亀裂が走る。


「で、そっちは……」


 エリュアールを見る。


「エルフか。ああ、知ってるぞ」


 にやりと口角が吊り上がる。


「ポンコツ賞金稼ぎ」


「誰がポンコツよ!!」


 双剣を構えながら怒鳴るエリュアール。


「エリュアール・シャイアよ!! 覚えときなさい!」


「はいはい」


 少女の視線が、最後に正人へ向いた。


 その瞬間。


 空気が変わった。


「……そっちは」


 凝視する。


「お、お前……!」


 何かに気づいたように、言葉を失う。


 だが、その続きを許さなかった。


 刹那が床を蹴る。


 黒い閃光のように斬りかかる。


「死ね!!」


 しかし次の瞬間。


 スレッジハンマーが座っていたソファを片手で持ち上げ、投げつけた。


「雑だなァ!!」


 轟音。


 巨大ソファが弾丸のように飛ぶ。


 刹那は舌打ちし、斬り裂きながら跳び退く。


 少女はゆっくりと立ち上がった。


 ハンマーを両手で握る。


 その姿は、舞台に上がる狂王そのものだった。


「いいぜ」


 口元が吊り上がる。


「相手してやる」


 真紅の帽子を指で押し上げる。


「俺の名は――レクリシア・マレウス」


 ハンマーの先端を床へ叩きつけた。


 轟音。


「スレッジハンマーだ!!」


 五階の空気が、戦争の温度へ変わった。



☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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