第15話 彼女からの着信、命のカウントダウン
喫茶店に入った俺と金髪女――エリュアールは、窓際の二人席に座った。
レトロな木目のテーブル。
落ち着いたジャズ。
コーヒーの香り。
普通なら、ちょっとした出会いの場面だろう。
だが現実は違う。
俺の脳内には、家で待つ黒髪セーラー服の女――篝月刹那の顔しか浮かんでいなかった。
帰宅予定時刻、すでにオーバー。
死亡フラグが立っている。
メニューを広げたエリュアールが、ふんぞり返るように言う。
「どうせ、もう夕飯よね……せっかくだから何か食べましょ」
「……いや、俺は帰ってご飯だから」
「あんた何にする?」
「コーヒーだけでいいよ」
すると彼女は眉をひそめた。
「それだと私が食べにくいでしょ。なんか頼みなさいよ」
「なんでだよ」
「いいから」
圧が強い。
「え~~……じゃあサンドイッチで」
「私はオムライス。サラダとコーヒー付き」
店員に堂々と告げるエリュアール。
なんなんだこの女。初対面でペースを握りすぎだろ。
「あんたさ~」
水を一口飲んで、彼女がじっと俺を見る。
「帰ったらご飯って、誰か作ってくれる人がいるの?」
「う、うん……まあ……」
「彼女なの?」
「あ、うん……」
「へぇ~。どんな娘なの?」
「う、うーん……」
言えるわけがない。
黒髪セーラー服の美少女で、元フィギュアで、嫉妬深くて、たまに人を殺しそうな彼女です。
そんな紹介したら、こっちが通報される。
「だいぶ年上の彼女……だね。料理上手だよ」
苦し紛れにそう言うと、エリュアールは目を細めた。
「へぇ~……そうなんだ」
なんだその目。
探るな。俺の家庭事情を探るな。
ほどなくして、オムライスとサンドイッチが届く。
エリュアールは嬉しそうにスプーンを持ち、俺は生きた心地のしないままパンをかじった。
その時だった。
――ブブブブブ。
スマホが震えた。
画面を見る。
刹那
「っ!?」
全身が跳ねた。
「どうしたの? 出ないの?」
「い、いや……今はいいかなって……」
震える指で伏せる。
コールが止む。
助かった。
そう思った次の瞬間。
ピコン。
メッセージアプリ起動。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
嫌な汗が背中を伝う。
恐る恐る開く。
今、どこ?
なんで出ないの?
ホントならもう帰ってる時間だけど
すぐに返信しなさい
位置情報では、近くの喫茶店にいるわね
今なら怒らないから
「……」
「返信したら?」
エリュアールが他人事みたいに言う。
「もう帰る! ここからそう遠くないし、自分で行けるよね!?」
席を立とうとした瞬間。
「待ちなさいよ」
手首を掴まれた。
「なんで止めるの!?」
「まだ話があるのよ」
「俺には命の危機があるんだよ!!」
再び鬼電。
覚悟を決めて通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『いま、喫茶店にいるわね』
優しい声だった。
だからこそ怖い。
「う、うん! すぐ帰るから! ダッシュで帰るから!」
『一人なの?』
最悪の質問が飛んできた。
「うーん……どうだろう?」
『誰かと一緒なの?』
「う、うん……まあ、道に迷った外人さんがいてね。道案内してたら、お腹減ったって言い出して……」
『男よね』
「あっ、いや、男って言えばそうかな~、どうだろう」
『写メ撮って送りなさい』
無理ゲー来た。
俺はスマホのマイクを手で塞ぎ、エリュアールへ懇願する。
「あのさ! 彼女が君の写真送れって! 一枚だけ! 命がかかってる!」
「だめに決まってんでしょ。プライバシーの侵害よ」
理不尽すぎる。
「……なんか、だめだって。ほら、プライバシーってあるじゃない」
震え声で言い訳すると、数秒の沈黙。
そして、刹那が静かに告げた。
『ホントのこと言いなさい』
『いまホントのこと言えば、帰ったら優しく怒る』
『嘘だったら、あんたの両足切り落として、家から出れなくするから』
「……」
『女よね』
「はい」
即答だった。
『若い女よね』
「はい」
『その女に電話に出るように言いなさい』
俺は泣きそうな顔でスマホをエリュアールに差し出した。
「頼む……出て……じゃないと俺、帰ったら殺される」
「大げさねえ」
呆れつつ受け取るエリュアール。
「もしもし――」
その瞬間、彼女の表情が凍った。
『……聞いたことのある声ね』
『知ってるやつに似てる』
エリュアールの喉が、ごくりと鳴る。
ー刹那だ
ー間違いない!!
『人の男に手を出したら殺すから』
ガチャリ。
通話終了。
数秒の静寂。
俺はエリュアールの手からスマホをひったくり、財布から一万円札をテーブルに叩きつけた。
「釣りはいらない!!」
「えっ、ちょっ――」
そのまま全力疾走。
喫茶店のドアを蹴る勢いで飛び出し、家へ向かって駆けた。
背後で、呆然としたエリュアールが俺を見送っていた。
「……なによ、あいつ……」
ぽつりと呟く金髪エルフ。
その顔には、敵意よりも先に――
ヤバい女に目をつけられた恐怖が浮かんでいた。
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