第13話 金髪エルフ、尾行の末に接触する。
机の上に、写真が何枚も散らばっていた。
駅前。
スーパー。
コンビニ。
会社帰りの夜道。
マンションの出入口。
どれも同じ男が写っている。
成川正人。
そしてスマホには、盗撮した動画データが何本も保存されていた。
だが――
「……いない」
エリュアールは舌打ちした。
再生。停止。拡大。巻き戻し。
何度確認しても、刹那らしき女は一度も映っていない。
そもそも、同居人らしい人物の出入りすらない。
買い物袋を提げて一人で帰宅し、翌朝一人で出勤するだけの、味気ない会社員生活。
「おかしいでしょ……」
長い脚を組み替え、金髪をかき上げる。
ここ数日、ずっと尾行していた。
勤務先。
帰宅ルート。
寄り道先。
生活リズム。
ほぼ把握した。
だが、刹那の気配が一切ない。
(……人違いか?)
あの防犯カメラに映っていた男には限りなく近い。
だが確信がない。
(接触する?)
(でも、下手に動けば刹那に察知されるかも……)
エリュアールは眉を寄せた。
刹那と真正面からやり合うのは避けたい。
できれば奇襲。
先制。
一撃で仕留める。
それが理想だ。
(あの男を攫うって手もあるけど……)
(人違いだったら面倒くさい)
(人質として使える保証もない)
考えれば考えるほど、苛立ちが募る。
大きくため息をついた。
「……まずは接触するか」
正人の帰宅ルートと時間帯は、すでに把握済みだった。
その日の夜。
人通りの少ない住宅街の道路。
街灯の下で、金髪美女がわざとらしく困っていた。
「うーん……困ったなぁ〜」
「誰か助けてくれないかしら〜」
「困った、困った〜」
ちらちらと周囲を確認しながら、完璧な“か弱い外国人女性”を演じる。
そこへ。
スーツ姿の男が歩いてくる。
成川正人。
エリュアールは内心ほくそ笑んだ。
(よし。ここで自然に――)
だが。
正人は彼女を一瞥したあと、
スタスタスタスタ。
そのまま通り過ぎた。
(……は?)
思わず振り返るエリュアール。
正人は足早に去っていく。
(なんで!?)
慌てて追いかける。
ズタタタタタッ!!
ヒールの音を響かせながら全力疾走。
そして肩を掴んだ。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「ひゃっ!?」
飛び上がる正人。
「メ、メイ・アイ・ヘルプ・ユー……?」
カタコトのジャパニーズイングリッシュだった。
「さっきからずっと日本語で喋ってたでしょ!!」
「あ、ああ……日本語ペラペラなんだ……」
「人が困ってるのに見捨てるつもり!?」
「道徳心とかないの!?」
正人は素で感心した顔になった。
「すごい……“道徳心”って単語知ってるんだ……」
「はぁ!?」
こめかみに青筋が浮く。
「もういいわ!」
「で、何に困ってるの?」
「…………」
エリュアールは固まった。
(しまった。そこまで考えてなかった)
数秒の沈黙。
「……道に迷ったのよ」
「へぇ。五十メートル先に交番あるよ」
「そこで聞けば?」
再び沈黙。
(この男、地味に面倒くさい……!)
咳払いして、急に片言モードへ移行する。
「ワタシ……ニホンゴ……ヨクワカラナイ」
「オマエ……アンナイシロ」
正人が露骨に引いた顔をした。
(うわっ、めちゃくちゃ胡散臭い……)
「スマホで地図出せばいいんじゃ――」
「いいから案内しろって言ってるでしょ!!」
「うわっ、無茶苦茶だ……」
ぼそりと呟く。
「無駄に美人だし……」
「無駄に美人ってどういう意味よ!!」
「日本語ペラペラじゃないか!!」
思わずツッコむ正人。
エリュアールは一瞬むっとしたあと、腕を組んだ。
「じゃあ、どこに案内したらいいのさ」
「…………」
当然、決めていない。
数秒悩んでから、スマホを取り出し、地図画面を見せた。
「ココ、イキタイ」
表示されていたのは――
正人のマンションだった。
「……へぇ?」
正人が目を丸くする。
「偶然だね。俺もそっちなんだ」
(偶然じゃないわよ)
エリュアールは心の中で吐き捨てた。
こうして。
胡散臭さ満点の金髪美女と、警戒心があるのかないのかわからない会社員は、並んで夜道を歩き出した。
その先に待つのが、修羅場とも知らずに。
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