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第12話 追跡者は金髪エルフ――血の鍵を狙う女

 薄暗い部屋だった。


 壁一面に並ぶモニターだけが、青白い光を放っている。


 その中央の画面には、ある瞬間が何度も繰り返し再生されていた。


 ――駐車場。


 停車中の車。


 次の瞬間、何もない空間から突然、車のルーフが大きくへこむ。


 金属が悲鳴を上げ、屋根が陥没する。


 だが――そこには何も映っていない。


 人影も。


 飛来物も。


 原因となる何者も。


 ただ、車の傍らで呆然と立ち尽くす男だけが映っていた。


 二十代後半。


 パーカー姿。


 どこにでもいそうな冴えない男。


 成川正人。


 モニターの前で、ひとつの影が脚を組んだ。


「まあ……写ってるわけないわね」


 女だった。


 黒のパンツスーツ。


 長い金髪。


 整いすぎた顔立ち。


 ハーフのような美貌。


 そして何より、人間離れした特徴があった。


 耳が長い。


 鋭く、しなやかに伸びたそれは、まるで物語の住人。


 エルフ。


 女は画面に映る正人を指先でなぞるように見つめ、唇を歪めた。


「ということは――こいつが協力者か」



 別モニターには、現場写真が映っていた。


 血痕。


 壊れた車。


 そして、微量の魔力反応。


 女の瞳が細まる。


「ビンゴ」


「刹那だわ」


「生きてた……!」


 嬉しそうに、心底嬉しそうに笑う。


「少しだけど、魔力の残滓がある」


「なら間違いない」


 ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばす。


「その男を見つければ、そこに刹那がいる」


「今度こそ――殺る」


 舌で唇を湿らせる。


「そして私が手に入れる」


「血の鍵を」





 数年前


 夜の路地裏。


 制服姿の少女が、一人で歩いていた。


 黒髪ロング。


 白い肌。


 静かな眼差し。


 凛とした和の美貌。


 篝月刹那。


 その歩幅は乱れない。


 だが、彼女の耳は背後の気配を拾っていた。


 足音。


 一定の距離を保ち、ついてくる。


 刹那はわずかに速度を落とした。


 背後の足音も止まる。


「……へえ」


 小さく呟く。


 今度は歩調を速める。


 足音も速くなる。


(ここまでわかりやすいと……本命は別地点で待ち伏せか)


 刹那は一瞬で判断した。


 次の瞬間、駆け出す。


 角を鋭く曲がり、人気のない細路地へ飛び込む。


 追ってくる足音。


 だが、その先で待っていたのは――


 刹那だった。


 路地の中央。


 日本刀を抜き、静かに構えている。


「で、なんの用かしら」


 追ってきた影が止まる。


 現れたのは、金髪の美女。


 長い耳。


 挑発的な笑み。


 瞳には獣のような光。


「いいね」


 女は両手を掲げた。


 炎が掌から噴き上がる。


 その炎が形を成し、二本の剣となる。


 燃え盛る双剣。


「アンタを殺して」


「血の鍵をいただく」



 刹那は鼻で笑った。


「素人風情が」


 火花のように女が踏み込む。


 双剣が閃く。


 刹那は紙一重でかわす。


 一閃。


 日本刀が喉元を狙う。


 だが相手もまた避ける。


「……路地だと、それ使いにくいでしょ」


 女が静かに告げる。


 刹那の眉が動く。


「そうね」


「じゃあ、少し遊んであげる」


 刹那の日本刀が霧のように消えた。


 代わりに現れたのは、黒いククリナイフ。


 だが、それは異様だった。


 刃に口がついている。


 歯が並び、舌のような影がうごめく。


「グオオオオオオオ……!!」


 獣の咆哮のような声を上げるナイフ。


 金髪の女が初めて冷や汗を流した。


「……蠢く刃か。面白いもん持ってるじゃん」


「この子に刺されたら絶命するわ」


 刹那は淡々と告げる。


「魂ごと吸われてね」


 女の笑みが引きつる。


「後悔するわよ」


 次の瞬間。


 二人の姿が路地から消えたかのような速度で交錯した。




 そして現在


 駅構内。


 夕方の人波が流れていく。


 その雑踏の中で、金髪の女は柱にもたれながら、一人の男を見ていた。


 スーツ姿。


 無防備な背中。


 疲れた会社員の足取り。


 成川正人。


 女――エリュアールの口角が、蛇のように吊り上がる。


「こいつが……」


 獲物を見つけた捕食者の目。


「ようやく見つけた」


 人混みに紛れながら、一歩踏み出す。


「待ってな、刹那」


「今度は、お前ごと全部奪ってやる」


☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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