表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道化と冠  作者: 青螢
68/69

導入の終わりはサクッとね

お久しぶりです……。

 さて、もうしびれはだいぶ収まった。でもちょっとふらっとするから、ハクに手を貸してもらって立ち上がる。普通に動くにはもう少し必要かな? 

「黒鷺」

 眉間にしわを寄せた桔梗さんが、声をかけてくる。

「あ、桔梗さん、ごめんねぇ、迷惑かけちゃったみたいで」

 口の端を釣り上げて、ちょっと首をかしげる。精神不安定、なら、何も考えないようにするべきね。

 桔梗さんはそれが好きじゃないみたいだけど、今また錯乱するわけにはいかないの。わかるでしょ?

 ごめんね桔梗さん。怖い顔しないでね。ちょっとくらい許してちょうだい。

「さ、逃げないと。攻略したら、ダンジョン崩れるって割と王道。ドアが開かないのもね」

 そっと扉の方を指さすけど、そこには人だかり。いろんな人が扉を壊そうと、攻撃したり、たたいたりしてる。

 まぁ、それで開いたら苦労はしないでしょ。てか、この部屋の扉が開いても、下への階段も閉じられてるから、どうせすぐには逃げられない。崩れ切るのと、逃げ切るの、どっちが早いかなぁ?

「クロ」

「なした、ハク?」

 ……ごめんね。ハク、とても心配かけたかな? でも、ごめん。ちょっと、私、今余裕ないの。

「だい、じょうぶ?」

「うん、大丈夫だぜ。ささ、逃げる算段整えましょうか?」

 冗談みたいににやっと笑って、ハクに手を振る。あぁ、ハクに膝枕してもらってたんだ。後でお礼言わないと。

 とりあえず出るのが先ですね。

 どうかな? 倒壊に巻き込まれたらどうなるんだろう? 今の復活地点はこの部屋の前だけど、女神像が一緒に壊れたら? うぅん、そういうことは今までなかったと思うんだけど、ダンジョン跡にも女神像は残ってた。でももし、壊れたら……近くの神殿に変更とかになるのかな? 二度と復活できなかったり……ってのもないとは言えない。

 じゃあ、逃げることに集中したほうがよさそうだね? 死ぬのは、その時に考えても遅くないし。

 しかも、あれか、みんな死にたくないから焦ってるんだもんね。もし復活できるってわかっても、あのピエロのことだからって、思ってるのかな?

 実際信用ならない。……そう、なら、考えよう。脱出するために必要なことは?

 ピエロは言ってた。こんな攻略予想外、せっかくだからいっぱい使おうと思ってた。下の階で使った呪文は、使い道があったってことね。

 いっぱい、だから、二回ってことはないでしょう。多分、脱出にも使うのかな? といっても三回か。それもいっぱいではない気もするけど、どうかな? 二回よりはましだから、あっていると思うのだけど。

 じゃ、太陽と月の呪文を使う方向で。だって、それ以外に使い道もなさそうだ。ちがくても、試す価値はあるでしょう。

 なら、今度はその内容に注目。

 “太陽に輝けるは 永久に続く栄光 緑育てる恵みの光 頂点に輝ける 無欠の王”

 “月に力あり その光 隠す力あり されど奢ることなかれ すべてを隠す力は無し”

 “漏れ出でる光を見よ 光に照らされる導を見つけよ それが反逆者たちに力を与えるだろう”

 最初の太陽だけの呪文は、蔦攻略のことでしょう。次に月と一緒の部分、それから最後の文章、これが怪しいと思うけど、全文必要なのかしら? うぅん、魔法のスキルって意味なら短文詠唱でもいいんだろうけど、これはちょっと疑問ね。

 疑問は詳しい人に聞きましょう。高レベルの考古学者、とか?

 くるっと周りを見回すと、思ったより近くに帽子屋メンバーとハクと桔梗さん、それからリリア嬢とシエル。おやおや、意外と人がいる。桔梗さんは指揮とらなくちゃダメなんじゃないの?

 まあ、それは置いといて。

「帽子屋」

「……ご指名かい?」

 怒ったような、あきれたような、心配みたいな、不思議な声。あぁ、そういえば、何か言われてたっけ? なんだっけ?

 ……。

「あのね、聞きたいことがあるの。太陽の呪文は、全文必要? 短文詠唱ってできるのかな?」

「いや……三段に分かれているから、段ごとなら短文詠唱可能だよ、というより、段ごとで効果が違うかな。別物と考えてくれて構わない」

「そっかぁ……」

 あれは魔法の連続使用に近かったのね。じゃあ、月と太陽の段からでいいのかな。

「日食を起こして、光をある程度遮りたいの」

「なら月の呪文と、最後の太陽の呪文だけで足りるね」

「私でも唱えれる?」

「君はやめなさい。絶対にやってはいけないよ」

 そういって、帽子屋はそっと俺に杖を渡してくる。

 あれ、オウル……あぁ、ごめん、投げちゃってたんだ。ごめんね。

 いつの間にか、手から離れてしまったオウル。ないことにも気が付いていなかった。だいじな、あいぼうなのに……。

「狼クン、君もね」

「あ」

 帽子屋がハクにも杖を手渡した。

 ハクもフィジィおいてきちゃったの? ふふ、私らだめだねぇ。……。

「ふむ、アリスでもいいかな? 月の呪文唱えてくれるかい?」

「え、いいけど、僕?」

「誰でもいいんだけれど、魔力に余裕あるだろう?」

「あぁ、そうだね。僕やるー!」

「じゃあ、私応援してますねっ」

「ふふっ、頼んだよ」

 帽子屋メンバーの空気が和む。無理はしてるみたいだけど、いつもどおりはいいことだよ、ね。

 地響きは続いている。扉の前からは悲鳴が聞こえる。一部床が抜け落ちた。ここは何時まで持つだろう。

「“月に力あり その光 隠す力あり されど奢ることなかれ すべてを隠す力は無し”」

 アリス嬢が呪文を読み上げる。帽子屋はすぐには続かない。

 天井の光が陰って、扉の前のざわつきがさらに大きくなった。日食が完全になったころ、帽子屋の声が聞こえてきた。

「“漏れ出でる光を見よ 光に照らされる導を見つけよ それが反逆者たちに力を与えるだろう”」

 太陽の周りをふわふわ漂っていた光のうち、三か所から強い光が伸びる。

 一つは蔦のあっただろう場所、一つは部屋の中央くらい、もう一つは壁。

 俺は蔦の方に歩き出す。なんとなく、近かったから。

「クロ」

「うん、一緒に行こうか」

 後ろについてきたハクの手を摑まえて、横に並ばせる。

 ハクの手、冷たいな。でもなんか、あったかいな。

「あ、桔梗さん、真ん中らへんヨロ~」

「へーへー」

 嫌そうな声が聞こえた。振り返りはしなかったけど、人使い荒いなって顔してるのはわかる。はい、すみませーん。

 帽子屋たちは壁の方に向かった模様。

 さて、光の当たっている場所。部屋の一番奥のところ。緑の蔦の残骸がちらほらと残っている。

 モンスターは倒したら消えるはずなんだけどな? こういうフレーバーかな?

 まぁでも、この辺指してるから……何かあるかな?

「クロ……」

「ん?」

 ハクがどこかを指さす。緑の何かに埋もれて、何かがきらりと反射した。

 しゃがみこんで、よく見てみると……金属っぽい? ちょっと気持ちが悪いけど、手を突っ込んで引き抜く。

 緑の何かはねとねとべたべたしてて、とても気持ちが悪い! 緑は鮮やかで、ちょっとスライムっぽいけど、蔦の繊維っぽいのも感じる。何? なんか汚い……。

 嫌悪感を我慢して、引き抜いたそれを観察。うん、鍵ですね。アンティーク調の、可愛らしい鍵。

「クロ」

「ん」

 立ち上がって、できるだけ手を伸ばして、鍵と距離をとる。ハクがそっと水を出して、緑の粘液を流してくれた。これでバッチくないね。

「ありがとう」

「……」

 ハクは黙ってうなずいた。

「黒鷺ー!!」

 桔梗さんからお呼びがかかる。

「行こっか」

 完全にしびれが抜けた。小走りで桔梗さんのところに向かう。

 桔梗さんが、リリア嬢とシエルファと何かを囲んでいた。……鍵穴?

 床のタイルにひびが入っている。光が当たっている部分のタイルは取り除かれていて、その下に鍵穴が見えた。

 ふむ、なるほど。

 ためらいなくさっきのカギを差し込んだ。

「鍵?」

「さっきそこで」

 抵抗なく鍵が回る。かちりと音がしたけど、ここにあるのは鍵穴だけ。ノブもドアも見当たらない。

 まぁ、想像はつきますが。

「おぉー! ドアが出ましたよ!」

「なるほどビンゴ、というわけだね」

「これが、出口……!?」

 壁際の帽子屋メンバーが騒ぎ出す。

 そちらを見ると、光に輝くドアが出現していた。あらあら不思議。

「でもちょっと思うわけですよ」

 私のボソッとしたつぶやきに、桔梗さんが不思議な目を向けてきた。

「あんだよ?」

「そっちの壁って、外じゃない?」

「……いや、外目指してんだろ?」

「いやいや、ここが何階だと思って……」

 壁だから外、とは限らないけど、どうかな? そのドアを出たら下まで行く階段があるかもしれないけど、そのまま外だったら、どうしよう? それなりの高さはあったと思うんだけど、そこから落ちた場合の落下ダメージはいかほど?

 えー、ちゃんと出口ならいいんだけど、あのピエロは信用ならないからね。どうなのかしら?

「ひらけぇー、ごまっ!!」

 あ。

 兎嬢がためらいなくドアノブをひねった。

「きゃー!!!!!!」

 ドアの外に見えたのは、青空。あーはい、やっぱそうですね?

 兎嬢は進もうとして開けたから、床がなくて落ちかけた。外開きだったのが災い。帽子屋とアリス嬢が慌てて引き上げる。

 急いで俺たちも三人のもとに駆け寄る。

 うぅん、やっぱそれなりの高さ……体感十階建て? さすがにそこまではないと思うけど。外から見た時何階建てだったっけぇ?

「し、し、し……死ぬかと思ったぁ……」

 兎嬢が座り込んで放心している。

「これ、降りられませんよね……?」

 シエルファがドアから下を覗き込んでいった。

「た、高いよぅー!!」

「でも出るにはここから……だろうね?」

「兎の二段ジャンプでも無理そうだよね」

「無理ですよ!? あれは跳ねるのが主目的です!!」

「ちっ、どうすんだよ……」

 わちゃわちゃっと話し合ってるけど、まぁ、何とかなりそうな。

「ハク、どうかな?」

 一歩後ろにいたハクに目を向けると、ドアを覗くように身を乗り出す。少し考えるようにした後、静かに一つ、頷いた。

「ん」

「MPは?」

「問題ない」

「精神的に?」

「大丈夫」

「なら、お願い」

「ん」

 自信に満ちた、静かな表情。……すこし、気持ちが緩んだかな? なんだろう?

 あぁ、うん、わかんないけど、ハクが大丈夫なら、大丈夫。

 チートなハク様。頼りきりで御免なさい。でも、ね、あなたがいてくれるから、私はとても安心だ。

「“その姿は流れる水のように けれど動かずただ静か その形は川のよう けれどささやきは聞こえず”」

「あ? 白狼?」

 突然の詠唱に、桔梗さんが驚いて名前を呼ぶけれど、詠唱は止めちゃいけないでしょ。

 ここから地上まで、結構あるね。結構魔力食っちゃいそう。だから詠唱は長め。途中でやめたら面倒だ。

「みんな呼んできてよ、桔梗さん。数人気づいてパニくりそうだけど」

 ちらっと扉の方を向くと、こっちに走ってきてるやつらが見える。みんなが気付いて殺到するのは時間の問題っぽくね?

 桔梗さんは舌打ちをして、でもそれ以上は何も聞かずにそっちにかけていく。リリア嬢もそれに続いた。

「お前は?」

 シエルファは残って、なぜか俺をにらみつけている。

「見張り。今のあんたは信用ならない」

「あら、そ」

 何かしただろうか。全く記憶にないけれど。嫌われてたかな? それなら、少し悲しいな。

 ぐっと腕を伸ばして、横に倒す。背中の横を伸ばして、逆側も。すとれーっち。その後何回か跳ねて、体の調子を取り戻す。

 だるい、重い、けど、大丈夫かな。

「“天から垂れる氷川(アイスミルキーウェイ)”」

 ハクの魔法が完成した。開かれたドアから幅の広い氷の道ができていく。川のように曲がりくねり、時に段差をつけて、その道は地上へと続いた。乳白色のみちは、太陽の光を受けてキラキラと虹色に輝いた。

「これを降りればいいんです?」

「強度大丈夫なの……?」

「……」

 兎嬢とアリスがこんこんと氷をたたいた。

 強度は問題ないと思う。何回か遊んだことがあるから。でも問題は。

「氷なんだよね。だから、普通には下りられない」

 まあ、遊びでやったことがあるからいけると思って作ったものだから。遊んだときは、滑り台として。つるっつるの氷の道。そりゃあ楽しかったですよ。

 でもさ、その時はもちろんこんな高さじゃねえわけで。今はこの体感十階建てくらいから滑り降りなきゃいけないわけで。

 ……さすがにちょっと怖そうね!!

「絶叫マシンはお得意?」

 バックからスケボーにでも使えそうな板を取り出して、ウインクする俺に、二人は顔を蒼くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ