心乱れて
お久しぶりです! たまに生き返ります!
それから何とか滑り台を降りた。ハクもさすがにこんな高さは無理だったみたいで、俺が何とかして一緒におりました。方法はご想像にお任せします。
全員おり切るまでには何悶着もあったと思うけど、桔梗さんに丸投げね。途中塔が崩れて、滑り台もやばかったけど、ドラマチックに全員生還。
やぁ、地上に集結した時の大歓声たるや……ふふっ、すごかったね。すごかったよ。
でもなんか、とても疲れちゃった。もうなんかハイみたいになっちゃって、記憶がなんだかあやふやなのよ。ふふっ、やった、やりきったってね。
あーぁ、すごかった。よくわかんないけど、すごかった。難関だったわ。えぇ、だから、やり切った。私たちは頑張った。すごいすごーい。
……。
うん、でも、ちょっと、疲れちゃったね。
「黒鷺さん」
「なあに?」
あぁ、もう家だ。すごいふわふわしてる。うんうん、頑張ったもの、仕方ないね。
いつ帰ってきたかな? どうやって帰ってきたかな? 自分の家だもん、何も考えずに帰れるって、素晴らしい!
「黒鷺さん?」
「ふふっ、あぁ、ごめん。ちょっと、うん、なんか楽しくなっちゃって。でも疲れたね。私、なんか、すごくふわふわしてるよ」
うーん? あぁ、もう日が暮れてる。いつ暮れたっけ? もうすぐ夜だ。なんだか暗いね。
「よぅし、今日は頑張ったからね。ご褒美にちょっといいご飯でも作ろうかな?」
「黒鷺さん」
「なぁに? 何かリクエストでもある? 私今なら何でも作れそうだよ? 攻略ハーイ、なんちゃって」
「黒鷺さん!!」
急にグイっと引っ張られた。強引に振り向かされて、兎嬢に顔をひっつかまれる。強制的に目が合った兎嬢は、目に涙がにじんでいた。
えーっと、なんで泣きそうな顔してるわけ?
「え、兎嬢?」
「黒鷺さん! あなたはとても疲れています!!」
「え、はい? はい。え?」
そりゃまぁ、疲れてるでしょうよ?
「なんですか、ボスモンスターを倒してから、あなた変ですよ!!」
「あー、うん、そうだねぇ。ごめんね、迷惑おかけしました。でも、ほら、もう大丈夫だから……」
やっぱりそうですよね。嫌な記憶が残ってる。どんだけ暴れたかまではわからないけど、今までの経験から考えると……引かれますよな。そりゃ。
あーあぁ、どんだけ暴れたんだか。本当に。今の生活それなりに気にいってたんだけど……。
あぁ、うん、たのしい、かったから、嫌われたくも引かれたくもないなぁ…………
「大丈夫じゃないです!! あなた、自分の一人称は!?」
「え、そりゃ……」
わた……。
「あ」
言ってた? 言ってたね? 俺は俺です。私じゃないの。
「ゲームがリアルになって、いろんな人がキャラ作んなくなったのに、あなたはそうじゃなかったでしょう? それなのに今は素が出てる!! それを大丈夫と言いますか!?」
「あー……」
「口調もですよ、柔らかいんですよ! 声も少し高いんです! 黒鷺さんじゃないんです!!」
……。完全にしくった。
「ごめん、ごめん。ちゃんとやるから……」
兎嬢の手を顔から外させる。そしたら平手が飛んできた。
「え……?」
ちょっと状況についてけないけど、衝撃を感じた頬に手を当てる。痛みはあんまり、だけど、え、ちょっと、何事?
「何人分の料理作る気ですか!?」
「え? そりゃ、え? ……」
私、ハク、兎嬢、アリス嬢、帽子屋……帽子屋?
兎嬢から目を離して、さらに後ろに続いていた人たちを見る。二人、ハクと、アリス嬢。
「あれ、帽子屋は?」
「解散するときにどっか行っちゃったんですよ!! 覚えてないんですか!?」
「……」
覚えていない。聞いていない。
うぅん、ふわふわしてたにしても、これは……。
「あー、ごめんね。ちょっと、混乱してたみたい? でも、本当に大丈夫だよ。疲れてるから、休めば……」
「その自覚もさっきまでなかったんです! 重症です!! わかってますか!? 大丈夫だって、言い聞かせてませんか!?」
とても、怒られてる。
そりゃ、錯乱した人間見たら、あんまりいい気はしないだろうね。申し訳ない。
「違う」
ハクがぼそりと声を出した。うつむいていて、聞き取りにくい声。
「え?」
「クロ、行って」
ハクがどこかを指さした。
「俺じゃ足りない。だから……」
「は、く……?」
目が、あった。なんでか射抜かれる。
「行って」
どこに? なんて、聞かなくても分かってる。でも、ハクがそれに気が付いていることに驚いた。気づかせてしまったことにぞっとした。
違う、違うの、ハクが足りないわけじゃないの。私が、俺が、弱いだけで、ハクが悪いわけじゃない。
でも、でも、ごめんなさい。そんなに気を使わせて、それをはねのけるほどの勇気が私にはないの。そんな強さは持ち合わせていないの。
ハクの前では、ちゃんとしようと思っていたのに。やっぱり、自分で思っている以上に、きつかった。
ごめん、ごめんなさい。私はやっぱり、ヒーローになんてなれないね。
「ご、めん、なさい……」
ハクはただ、首を横に振った。
「だぁい丈夫ですって! 一日くらい私とアリスで何とかします!」
「でも、おいしい料理にはまだ遠そうだから、早く帰ってきてね」
兎嬢が俺の背中を押す。アリス嬢が冗談交じりに俺の肩をたたいた。
「「いってらっしゃい」」「……」
三人に見送られて、俺は森の外に足を踏み出した。
「……いってきます」
~Side・White~
出ていくクロの背中を見送った。
違うよ、クロ……。クロが悪いわけじゃない。支えてあげられなくて、ごめんなさい。ごめんなさいって思って、ごめんなさい。クロは優しいから、きっと俺にも罪悪感をもったんだろう。俺が勝手に傷ついただけなのに。
桔梗さんなら、支えてあげられるんでしょ? なら、クロ、頼ったっていいんだよ。俺なんて放っておいて、いいんだよ。少しくらい、自分優先したっていいんだよ。
「驚きました。フェンリルさんなら、引き留めると思ってました」
兎が目を丸くして、こっちに近づいてきた。
「でもよかったのかなぁ? 桔梗さんもギルドがあるもんね」
攻略を終えて、解散となった時に桔梗さんが言っていた。クロのこと、よく見ておいてくれって。無理だったら、いつでも呼んでくれって。
でも、無理になるまで、クロが頑張る必要なんてない。声をかけてくれるくらいなら、心配なら、クロのこと受け止めてほしい。
クロも本当は、桔梗さんのそばに居たいみたいだったし。
「まぁ、何とかなるでしょう、そっちは。していただかないと困りますしね!!」
「でもあの二人、どーゆー関係なわけ? 行かせちゃっていいんだよね?」
「うっ、それは確かに気になりますが……リアルでも親しいようですし、いいんじゃないです?」
リアル、現実のこと。俺もいつかは教えてもらえるだろうか。
このゲームが終わったら……。考えないようにしてたけど、きっとこの夢が覚めたら、もう二度と戻っては来れないだろう。そうしたら、もうクロとは会えなくなるのかな? 現実のクロのこと、知らないもの、無理だよね。
クロは、現実でも会いに来てくれるだろうか……なんて。俺も何も話してないんだから、無理に決まってる。
「ふぇーんりーるさーーん?」
「狼さん、どうしたの? 狼さんもつかれた?」
「だ、じょぶ……」
まだまだうまく話せないけど、この二人とも、現実でも会えたらいいな。いつか、現実でのこと、聞いてみようか。
俺は、俺のこと話したくないんだけど、皆はどうなんだろう。俺は俺のこと嫌いだけど、皆はどうなんだろう。
知られたくないけど、知りたいなぁ。
「何かリクエストあります? といっても、あんまり作れそうな気もしませんが」
「黒鷺さんのせいで、舌が肥えた気がするよぉ。あんなクオリティは求めないでね」
「ん……手伝う」
俺には何も言わず、夕飯を作ってくれそうだった二人に、そう申し出た。そうしたら、二人は少し目を丸くした。……う、そんなに足手まとい……?
「フェンリルさんも疲れたでしょう? 休んでていいんですよ?」
「手伝える、なら、手伝いたい」
「それは嬉しいですが……いえ、嬉しいです。じゃあ、お願いしますね」
受け入れてもらえた。よかった。ね、俺は大丈夫。二人とも優しいよ。俺も、頑張るよ。
だから、クロ。
もう少し自分のために……。




