空にぴかぴかお月さま
お久しぶりです……。なんだか時間が取れなくてこんなに遅くなってしまいましたぁぁああ。
待っていて下さるかた、もしいらっしゃいましたら誠に申し訳なく……!!
「“トリック! 防魔+素早さ!!”」
スピード上げて、一気に駆け上がる。さっきのでそれなりに蔦のHPが削れたからか、邪魔が激しくなったように感じた。
上から横から薙いでくる蔦を、切ったり避けたりして走る。
毎秒5パー。ハクからもらったピアスと、もともと持ってた装備品で毎秒3パーくらいに抑えてはいるけど、それでも活動時間は大体三十秒。結構きつい。
素早さ上げるスキルが先に切れる。クールタイムに数秒。割と痛いタイムロス。
弱点の近くでオウルの開放ができたら一番いいんだけど、ちょっとした儀式が必要だから難しい。一回止まって、数秒待たないといけないからね。めんどくさ。
「あ」
サボテンの目を過ぎたあたりで、さらに攻撃が激しくなる。さらにさらに、サボテン表面が跳ねた。ズドン、って感じで、地面が沈んだかと思うと、次はぼよんって感じで膨張した。近いのはトランポリン?
予想してない動きに足がクキっとなる。はじかれるほどではなかったけど、バランスが崩れた。
くそっ、聞いてねーよこんな攻撃!!
鎌の柄でこらえようとしたけど、無理。倒れかかって、踏ん張った瞬間に片足が呑み込まれる。慌てて動かしたらさらにドプリと沈んだ。そこに蔦の攻撃が来る。
あかん。
これはじかれた方がましだったのでは?
反応できずに襲い掛かる蔦を見てるしかできなかったが、ハクが結界で守ってくれた。少しの猶予。
「クロ!」
ハクの声で正気に返る。すぐに使える魔法を出して、呑み込まれた足ごとサボテンの表面を削り取った。焦ってたから雑だけど、何とか脱出する。自滅ダメージは無し。セーフ! 一回距離を置こうと、足場を蹴って宙に出た。
「ハクすまん助かった!」
ハクが小さな結界で足場を作ってくれるから、何も考えずその足場を追う。とりあえず離脱。
底なし沼にはまるのってあんな感じ? ぞっとするね。
ともかく頭をリセット。ハクが何とかしてくれた。次はどうしよう、考えて。
ざっと周りを見回せば、ここは蔦の目線よりは低い位置。最前線よりは少しそれ気味。
蔦の攻撃は来るから動きは止めないようにして、戻ろう。俺の混乱が収まったのがハクに伝わったのか、次の足場は蔦に近いとこに出現した。
でも魔力がやばそう。さて、そこでとっておき! あの回復銃ですな! あってよかった保険の少年!
……どこにいるかわからないけど、やってくれるよな?
「軍服syぐはっ!?」
名前を呼ぼうとしたら、途中で遮られた。眉間に一発……ヘッドショットですわよ!?
腕はいいけど、すごいのは認めるけど……味方にためらいもなくヘッドショットってどうなの?
あぁ、少年の「少年じゃない!!」って声が聞こえるようなのぜ。
頭を打たれて少しのけぞる。足が滑ってちょっと落ちたけど、フォローの足場がすぐにきたし、俺もすぐに状況判断できたから無問題。次のヘッドショットが来てももう滑り落ちないぞ!
これで魔力が回復した。これを繰り返せば延長がかなり効く!
サボテンに戻って、また駆け上がる。スキルが戻ったからスピードマシマシで。さらに狐蝶兄貴の支援もプラスで絶好調!!
「はぁ、よしっ!」
また急にはねられても困るけど、対策が思いつかない。もっと足を速く動かすとか? 沼にはまったら焦ってもがくとより沈むっていうし、とにかく冷静にせんと……。
「黒鷺!!」
「んぁっ!?」
突然聞こえてきた声に、驚いて耳に手を当てる。ちょっと飛び上がっちゃったじゃん……また体制崩したらどうしてくれる……ってか誰!?
……あ、帽子屋だ?
「何事ぉ? ちょっと今忙しいっていうか……」
ぶっちゃけ今ハクとしか話したくない。できるだけ口開きたくない。変な考えに頭支配されたくない。
ってことで迷惑なんですが。
「君今何してる!?」
「はぁ?」
怒ったような、焦ったような、よくわからないけど怒鳴り声が聞こえてくる。音量調整とかしてる暇ないので、できれば適正音量でしゃべってください。
「攻略中。うるさいんだけど」
「君、魔法継続中なのか!?」
耳がキーンとなるほどの音量……本当にやめろよぅ。
「あん?」
数発目の回復銃を受けつつ、走る。もちろん魔法……杖のスキル? は継続中ですよ。MPなくなるまで続くのがこの特殊性なので。そして途切れないようにしてるのが努力なので。
「魔力がなくなると死にたくなる、といったのは君じゃないか!」
そういえば、言った。このゲームがリアル寄りになってから実験した結果、HPは体力、MPは精神に結びついてる気がするって言いました。
うーん、でも、確かにちょっと鬱々しくはなったけど、最終的にはゲームだし、フレーバー程度じゃねぇの? って、思ってるんだが。死にたくなるとは言っても、五月病みたいな感じというか……
うーん……うぅん? そんな重要かぁ?
「確かにそうだけど、今のこの勝つか負けるかよりはどうでもよくない?」
俺はここで勝たないといけないわけで。ハクを負け組にさせるわけにゃあいかんのよ。俺の自己満足のために!!
「ってことで、うるさい邪魔、ごめんだけど、またね!!」
「ちょっと待てまだ話は」
連絡のために開きっぱなしだった回線をぶっちぎる。ハクの護衛やし、何かあったら困るとは思ったけど、邪魔されるのはちょっと……。帽子屋がちょっとうまくやってくれなくても、他の二人が何とかしてくれそうだし、いいよね!
また弾が撃ち込まれる。一応目が前についてるみたいだから、さっきまで背中側に遠回りしてた。それが原因かはわからないけど、攻撃手段が身体を波立たせたり、跳ねさせたりっていう足場が悪くなるやつメインにシフトチェンジされた。失敗と思って表側に戻ることにして、さらに遠回り。
弾が尽きる。ひぃ、ふぅ、み……次で最後かな……? あぁ、ちゃんと数えてたはずだけど、わからなくなっちゃった。
スキルが途中で切れて、かけ直して、あぁ、ギリギリ行けるな。ラストスパート!
「ハーーーーーク!!」
「“『知恵の蛇』解放”」
ずっとつながっている回線から、ハクの声が聞こえる。幻想級の開放。
『知恵の蛇』の特殊スキルは、魔法の威力を2.2倍にすること。一つの魔法にしか機能しないけど、その分威力はけた違いっと。まぁ、その分の代償もけた違いなんですが。
この幻想級の癖の強さはその代償。最大HPの六割持っていかれる。その時の最大、じゃなくて、満タン時だからそうとうですよ。しかも魔術師職はHPに自信ある方じゃないしね。半分以上もってかれるのはできれば避けたいところ。
まぁでも、当たらなきゃ無問題だから、ハクにはぴったしの代償だよなぁ。
「“蒼く輝ける光は 冷たく熱く すべてを拒む……」
ハクが詠唱を始めた。ハクの持ってる中で一番威力が高くて、一番ながぁい詠唱の魔法。
詠唱に合わせて足を進める。早くてもダメ、遅くてもダメ。ぴったりに。大丈夫。
「“古竜の蒼炎の吐息”」
ぐっと足を踏み込んで、飛び上がる。体をひねって、ハクの魔法に対面した。
蒼に輝く白金の炎。うんうん、いつも通り、とってもきれい。
鎌を握り直して、思い切り振りかぶる。
「“トリック&トリート”!!」
トリックスターの奥義ともいえる最強技(仮)! 相手の魔法を食らって自分のものにする!
ハクの魔法を切ったことによって、俺の鎌に銀の炎が絡みつく。オウルにハクのチートが加わった。
ここで重要なのが、魔法の威力は基本的にステータスの『知恵』が問題ってこと。チートが加わっても、それは『知恵』依存で魔法ってことだから、このままじゃ多分この蔦には効かない。でも俺のスキルの中には、ステータスをいじるものがあるってね!
「“トリック! 知恵→力、プラス!”」
炎を切った勢いをそのままに、半回転。蔦を正面ににらみつけた。
これで魔法攻撃力の値をそのまま物理攻撃力に足すことができた。杖の補正はそのまま。物理攻撃力が上がってるから、これで物理攻撃をすーれーばー!
チートがかった必殺技の完成よ!!
「“月を喰らう者”」
銀の炎が黒に染まる。鎌の刃が両側に伸びて、月を形作った。
体全体をしならせて、腰で、背中で、腕で、鎌をふるう。
スパッと……蔦化け物の花が宙を舞った。ラフレシアみたいな肉厚の花だったけど、切った瞬間は軽そうに飛んで行く。
あぁ、これで……大丈夫。
支えをなくして、俺の体が重力に従い始めた。魔力も尽きた。これでだめならもう終わり。急速に体から力が抜けていく。
でも完全に安心した。だって切れたんだぜ? あんなにガード堅かった部分が。もうこれ大丈夫っしょ。
肩を下にして、落ちていく。
なんだかとてもゆっくりしていた。
サボテンの頭が崩れていく。花がなくなったところから、砂みたいにさらさらとほどけていた。
あぁ、ほら、大丈夫。倒れたから、消えていくのでしょう。俺は勝ちました。
満足していた。なのに、そう、不思議なことに。
黒い洞と、目が合った。
ゾクリと背骨が冷える。
あぁ、あの目、あのうつろな目、あれは、あの日の……。
空に向かって手を伸ばす。
あぁ、月、ちがう、月が赤くて……あぁ……?
「……ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!?」
のどが痛い、耳が痛い、だれのこえ?




