第二戦出発
十分きっかり、兎嬢に起こされた。コーヒーも差し入れてもらって、頭完璧リフレッシュ。
それから二十分、次の戦闘に向けて準備を整えた。
グレーのブラウスは袖口をリボンで締めて、そこから燕尾服のすそみたいに二股に伸びている不思議な形。胸元にはクラバット、クラバットピンにはラピスラズリが輝く。スカートは黒のロング。右の部分に太ももまでの大胆なスリットが入ってる。スリットのところが長いから、こっちも燕尾服っぽいといえばポイ。それから黒いサイハイブーツ。
装備の性別変更で、少しブラウスにリボンが入ってしまったり、スカートが女性っぽくなってしまったけど、シンプル目なのが多少の救い。動きも制限されないし、まぁ、マシ。ちなみに男バージョンはアオザイみたいな形だった。もちろんズボン。前の方がとても気に入っていたけれど、性別変更くらいじゃ手放せないくらいの俺の相棒だから、仕方ない。
俺の一番装備、『飛燕一式』。素早さ特化の紙防御。魔法系統の補正は多少で、会ってもなくても変わらないレベル。
それにプラスで黒いフード付きマントを被る。こっちも素早さ補正。視界は阻害しないけど、布かんとかは感じるから、多分途中でフードはログアウトすると予想。気分的に邪魔になるんだよなぁ。
そして最後に……腰に差して、戦闘中に伸ばして構えていた杖を、本当の意味で装備する。ステータス画面から、いつも装備していた十字架のペンダントを外して、武器欄を杖に変更。
まぁ、色々あるんですよ。いわくつき……でもないか? でも特別な杖でね。特別な時、本気な時にしか装備しないの。切り札ってなもんですやぃ。
いつもの武器はペンダントに加工した杖。これならハイネックの服の中に完璧に隠れるからね。でも無手で戦うと魔法使いっぽくないっしょ。……魔法使いと言ったら杖だからね! ぶっちゃけかっこつけだよね!
そうまでして隠してたわけですがぁ、ま、今回は本気ですし。仕方ないね。しょうがないね。
一回ぽっきりのチャンスだから、失敗できないんだぜ。
気分的にストレッチもして、心も体も装備も、準備を整える。……アバターの体はストレッチいらなそうだけど、準備しているってこの感じが大切だと思うわけですよ。
俺が帰郷さんに報告書を出して、三十分後。出発の合図が送られてきた。
はいはい、準備は完璧。頭もすっきり。心も冷静。段取りばっちり? それは臨機応変にっと。
さぁ、扉を開けて、第二戦の始まりですぜ。
さっき学んだから、蔦の攻撃第一回をハクの魔法で防御する。ここからが本番です。
「よし、行くぞお前らぁぁあああ!」
「おおおおぉぉおおおおおお!!」
ってな感じで開戦。前衛さんたちが一斉に走り出す。ハクと帽子屋メンバーは扉の前で陣取った。
俺も今回は前衛なんだけど……ちょっと準備で出遅れる。
バックから二、三個録画用のアイテムを飛ばして、タイマーも起動した。それからハクとボイスチャットを繋ぎっぱなしにする。
うーん、ま、こんなもんしょ?
「よっしゃ、いってくんべ! ハク、とりあえず一回な」
「ん」
杖の頭をガンっと床に打ち付けると同時に走り出す。
「オウル、出番だよ!」
俺は杖の名前を呼んだ。
杖から赤い炎が一瞬上がる。そして、杖の細工の中から一匹の梟が抜け出してきた。
影みたいに真っ黒な体は杖にあった細工に紛れていたのが原因か、体がところどころ模様を描いて透けている。とってもファンタジーな生き物。
『知恵の梟』、俺の最高完璧唯一無二の相棒。夢物語の、幻想級。
俺のつけた名前は『オウル』。……そのままだけど、結構気に入ってマス。
ファンタズマはちょっと特殊で、共通の特徴はこの生き物。調教獣とはまた違って、武器に生き物が住んでるのがファンタズマ。それに名前を付けることで所有者となる。
……調教獣のファンタズマってどうなるんだろうね? 俺、杖と剣しか見たことないけど……きーにーなーるー。
あ、もちろんチートハク様の杖もファンタズマでしてよ? 蛇、ついてるっしょ?
『知識の蛇』。つけた名前は、確か『フィジィ』。……俺よりまんまじゃねぇか。
それはいいとして。俺の杖の特殊能力聞いてくださいよ、奥さん。
さっき杖ガンっしたのがその特殊能力の発動合図、ってわけでもないのだけど、俺はそうしたい感じ。赤い炎は発動の証、これは本当。
俺の杖は形状変化する。炎の軌跡をたどって、一枚の刃が出現した。杖の本体と同じように細工が施されたそれは、三日月を横に切った形。黒い杖は、黒い大鎌に変化した!!
ちなみに他にも変化できる種類はある。オウル七変化! なんちゃって。
え? 杖のくせに大鎌? ……いい所に気付いてくれました奥さん!
俺の戦闘スタイルは、近距離くらいがちょうどいいんですってよ。
全力ダッシュで蔦をよけつつ、前衛に遅れた分を取り戻す。
「“トリック! 防魔+素早さ!!”」
自分のステータスをいじくるスキルを発動させる。いくら紙防御とはいえ、魔法職だから防魔はそれなり。それを全部素早さのところに突っ込む。もともと素早さに特化した装備だったし、今の俺はかなり早いぜ!
なんていうか、車並み? なんつったっけ……縮地の技を会得した! みたいな?
ともかく、サラマンダーより早ーい! なんつって!!
一歩踏み出すだけで何人も抜ける。いくらか走れば先頭組に追い付いた。早いのはいいけど、周囲の景色が見づらくなるのは難点。まぁ、俺、動体視力良い上にゲームのシステムで多少補正かかるから見えないってことはないんですけどね!
視界の端に写ったあほ侍の後ろに迫る蔦を発見して、きゅっと方向転換。勢いを殺さないように注意して、たんっと床を蹴る。
……思ったより飛びすぎた。
そこは体をひねって方向修正しつつ、ひねりを生かして鎌を大きく引いた。
「“トリック! 力&知恵!!”」
今度は力と知恵のステータスを交換する。杖は魔法攻撃にかなり+補正がかかるけど、物理攻撃にはそこまで反映されない。力と知恵を交換しても、物理攻撃にはあんまり杖の恩得はない。
でも、魔法職なので、知恵の数値はそこそこなんだぜっと! 補正なくとも……まぁ、剣とかの物理補正には余裕で劣るけども!! でもそこそこのダメージは出せる!!
蔦に気が付いて焦って後ろを振り返ったら、その後ろに俺が見えてぽかんとしているバカ侍ににやっと笑いかける。
「“ムーン・サイズ”」
鎌用の攻撃スキルを発動。邪魔な蔦は刈っちゃおうね~。
背骨から腕まで使って柔軟に鎌を振り下ろす。本当は鎌の攻撃判定なら刃の内側に限定されるんだけど、スキルとかの併用でそこをカバー。刃に当たれば何でも切れる。すんばらしい。
ぶれないようにしてた足で何とか着地して、ついでに周りの蔦にも攻撃攻撃~。
「ぼさっとしてる暇あんなら動けよ、どあほぅ。その手に持った立派なものは飾りですかぁ~???」
ぽかんとしたままのくそ侍に声をかける。やだ、こんなバカのフォローなんて、俺って優しい! 天女様やん? 女神様やん?
なんつって。
丸く開いてた口が、ぎゅっと食いしばられるのを確認。目はきっと吊り上がってんだろうな。
あっはは。その間抜け面の変化、じっくり見てられないのが残念だぜぇ。
「お、前!! 魔法使いのくせにぃ!!」
「ねぇ、今どんな気持ち? 後ろで戦うしか能がないと思って見下してた魔法使いに、近接戦で助けられたって、どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ちなのぉ~?」
「こんの……くそがぁぁああああ!!」
背中から切りかかってきたごみ侍の刀を楽々受け流して、膝裏をひっかける。がくっと頽れる侍の上を蔦が通過する。
なんでまたフォローしなきゃいけないんだか。まぁ、煽ったのは俺なんですけどね! でもまさか味方に切りかかってくるほど馬鹿だとは思わなかったわ! 敵と味方の区別もつかないのこいつ? ごみここに極まれりって感じ?
この作戦の邪魔になりそうだから、殺した方がいいんじゃないかとまで思えてきた。殺意を込めた視線をちらっとそいつに送る。
「んでだよ……」
「あ?」
唸るような声をあげて、そいつがこっちをにらみ返す。憎々しげに口を食いしばって、ゆっくりと立ち上がった。
「んで、てめぇが……後ろから口出すしか能のねぇ魔法使い、チートの陰に隠くそ雑魚が、前線に来れる力のねぇはずのフタケタが、なんで……なんで!!」
そういってバカが刀を構えなおす。
正直かまってる暇はないけれど、売られた喧嘩は言い値で買ってやる畜生。ハクから戸惑いの声が聞こえてくるけど、ちょおっと、ごめんね。こいつだけは許せんぜ。
戦闘続行を決めた。でもまだ余裕があるか周囲の状況確認をしようと視線を走らせたところで、バカと俺の間に人影が割り込んでくる。
「武蔵、ばか、やめろって! そんな場合じゃないのわかるだろ!?」
神父服のやつだ。服装から、回復職だと思うんだが……抜けられると絶対痛いんだよ。なんでこいつがよりによってバカのお守り役なんだぁ? 戦線崩壊したらどうしてくれるよ。俺が煽ったせいだとは思わないどこ。
「うるせぇ! そこどけ!! だいたい、魔法使いが前衛できる方がおかしいだろ? どうせ変に意地はっちまったから、後に引けねぇだけだろ? だったらとっとと送り返してやらねぇとなぁ!!」
送り返すって、扉の前にかよ?
「ばっかじゃないの?」
あきれ果てた。ここに呼ばれてんだから、これでも戦力なんだよ。それをわざわざ減らそうとしてんの? こんなかつかつ状態なのに? 頭のねじゆるゆるかよ。
「んだとっ!?」
「やべ」
声に出てたらしい。バカが目をさらに吊り上げてこっちをにらんでくる。
こいつのこと、どうしても引っかかるから、ついつい煽っちまったけど、やっぱ時間の無駄だった。ミスった。最悪。時間返してほしいくらい。いや、こっちから近づいたんですけども。あー、でもやっぱぶちのしたい。
「むーさーしー!!」
「ざけんな! 今こいつ完全に馬鹿にして……」
「したよ? しましたよ? でもそれが? 本当のこと言って何が悪いの?」
タイマーを確認したら、結構な時間がたっていた。視界に入ってしまった桔梗さんから不機嫌オーラが駄々洩れなのもわかってしまった。失敗。後が怖いぜ。
ハクからも心配そうな雰囲気がする。ごめんよ。俺もまだ子供っぽくて……。
自業自得感はあるけど、元はといえばこいつのせいだから当たってもいいよな? あー、当たってる時間もないのか……ごめんそ。
「ちょ、あの、黒鷺さんも……」
「あー、すまんね、神父服。でももうそのゴミと会話してる時間も無くなってきたみたいだから、安心してくれ」
「え、えっと……」「まだ言うかこのくそ雑魚が!!」
スキルの効果はとうに切れてる。攻撃も素早さも元通り。次にスキルが使えるのは……まだかかるか。
仕方ないから素のままの攻撃で行くことにする。攻撃とかに使われてる蔦は、うれしいことにそこまで強くないから問題ないでしょ。素早さも、ギリついてけるか……。また前と引き離されてきたから本当にギリギリ。
「おい聞いて……」
「聞いてないよ。聞く意味ねぇし」
「て、てんめぇ……!!」
「それしか言えないの? 語彙力ないんだな。馬鹿の一つ覚え……あぁ、バカだもんな。仕方ねぇか」
「このっ」
またこっちに来ようとするバカを神父服が押しとどめてる。ほんとにさ、ヒーラーは貴重なんだぜ? うっかりHP削ってみろよ。お前白い目で見られるぞ? 騒動の真ん中にいた俺も同罪になりそうなのが難点だけど。自爆してくれるだけなら笑ってやるのになぁ。
一つため息をついて、フードを後ろにはねのける。素のままの顔で、バカのことをにらみ上げた。
こっちの方が、殺意伝わりそうでしょ? 俺目つき悪いって評判なの。
「一つ……で収まるかわかんないけど、言っとくね。俺ただの魔法使いじゃねぇよ」
すっと鎌を掲げて、周りのうざったい蔦を一気に切り裂く。そいつはぎょっとして俺のことを見ていた。
「上位職『トリック☆スター』。『魔術師』だけじゃなくいろんな職業のやつがなれるチャンスがある、特別な職業。だから俺、接近戦も守備範囲なんだぜ?」
まぁ、元が魔法職だから、接近戦に必要な攻撃力とかはそれなりなんですけども。そこに至るまでの育て方がね……。てか、やっぱもとになる職業の補正の関係もね……。そんな自己申告は今いらないね。
上位職は特別だって、それくらいは覚えてるな、バカ侍? 初期職業によって上位職は定まっていくんだよ。それを超越した俺の職業は、特別なんだってこと、わかれよ?
「やっぱ一個じゃないや、次。俺は手段な。結局とどめ指すのは我らがチートハク様なの。俺はその手助け。それだけ覚えとけ。俺を見下すのは構わないけど、やっぱ、ハクを侮辱したのだけは許せねぇ」
他にも言いたいことあったし、首跳ね飛ばしたい……その前に痛めつけてやらないとか。時間がないから今は置いとくとして……まぁ、ここから出たらいくらでも機会なんてあるや。気長に行こう。
……。
いや、やめようか、そういうの。ばれたら幻滅されちゃうかな。
……もうすでにされてるかな?
「“まとめて吹き飛べ 旋風刃”」
ぐるっと回って、迫ってきた蔦を吹き飛ばし切る。
やっとこさ桔梗さんのとこまで到着。
「遅い!!」
「ごめんて!!」
やっぱ桔梗さん激おこだったお。おっおっおっ。
俺より数倍目つき悪いと思うの、桔梗さん。やめて睨まないでごめんなさいってばさ。
「で、これからなんだって!?」
予定遅れてるからぶち切れ気味に聞いてくる桔梗さんに、俺はウインクして答える。
「これから登山ならぬ、登サボテンだよ!!」
「……はぁっ!?」




