第二戦前のあれやこれ
飯食い終って、軍服少年……じゃなかった、少女の元に。
「ちょっちお願いあるんだけど、しょうね……少女!」
「牛若丸でありますよ! いい加減にしてください殴りますよ」
「ごめんて」
小さくてかわゆいからついつい構いたくなるけど、俺より年上説あるからやめておくことにする。リアルまじってきたからこういう区切りは大事だよね。リアル容姿気にしてる人に、アバターだった時のノリを引きずるのはよくないよね。
……オレ? 俺は引きずってないよ。変えるタイミングを逃しただけだよホントだよ。
軍服少年改め、牛若丸。確かレベルカンストの『狙撃手』。精密射撃に優れてて、狙った獲物は百発百中って感じだった。
そんな牛若丸を信じて、俺はちょっと頼みごと。
「牛若ちゃんさ、ちょっち頼まれてくんね?」
「牛若ちゃん? クロ少佐は女の子には嬢をつけるものだと思っていましたが」
「いや、そうなんだけど、少年のイメージが強くて、なんか嬢ってイメージじゃない」
「……喧嘩売られてます?」
「売ってないでありますよー」
口調が移った。マジトーンの牛若丸にこの口調はあかんかったか?
「……牛若丸でありますよ、少佐」
「善処するよん」
「で、頼み事でしたっけ? 物に寄りますけど……」
そこで俺はにこっと笑って、少年の身長くらいある銃を取り出した。
「俺が合図したらさ、二十秒ごとにこれ撃ちこんでほしいんだけど」
少年はそれを受け取ってハッとする。
「これ魔力回復薬が撃てるやつですね? 性能は最高級。どうやって手に入れたんですか」
「俺の秘密のルート」
口に人差し指を当てて、秘密のポーズ。
回復系の銃弾は特別だ。このゲームだと数えるくらいしかなくて、しかも使用回数の制限があるくらいで、さらに銃と銃弾がセットになってるくらい特別。弾がなくなれば銃は壊れる。大体はどっかのボスのレアドロップ品とか。生産もできるけど、材料が特殊すぎてあまり出回ってない。レア度は伝説統一で。
ま、普通に薬飲んだほうが早いしね。ドロップ的なレア度が高い割にはあんまり実用的でもなくて、普及はしてないな。
俺の場合はサブ職で薬剤師が混ざってる職がカンストしてる上に、他の職業も高レベルでスキルも育ってるからある程度作りやすくなってるって感じ。それでも簡単じゃないから、この銃は俺にとっても特別。なんてったって性能最高だからね。狙って作れないから余計大変。
次終らせるって大口叩いちゃったから、これくらいなら仕方ないってちょっと奮発して少年に銃を託す。
「撃てる数は十発。余ったらそれそのままあげるよ。いらなかったら返してくれていいけど」
「持ってるだけでなんか運上がりそうですし、もらっときます」
「運は上がらないと思うけどね? 欲しいからってしぶらないでちょ」
「勿論ですよ。これを撃ちこめばいいんでありますな?」
「頼むよ。俺多分その時は結構動きまくると思うんだけど……できるだけ欲しいときは止まるようにするし」
「舐めないでくださいよ。どこでだってぶち込んでやります」
そう言って少年は一瞬で俺の眉間に銃口を押し当ててくれた。
「ワォ、頼もしい」
この状況はちょっと嬉しくないけどさ、まいいよ。口笛一つ吹いて茶化しておこう。
ここでこの話題は終わり。と思ったら、さっきまできりっとしてた軍服少年が急にそわそわとし出す。なんだろうと思ったら、その視線が俺の後ろ、ハクに向けられたものだと気が付いた。
俺が気が付いたことに気が付いた牛若丸ちゃんが、俺に助けの視線を向けてくる。
「す、すごい美人ですねっ!!」
「だね」
「……お、お話してもよいのでしょうか」
「俺に聞くなよ」
「はわわわわ」
おろおろしてる牛若ちゃんが可哀想になって、ハクを呼び寄せる。相談事のためにちょっと離れててくれたみたいで、さっきまでの話は聞こえていない模様。不思議そうにこっちに寄ってくるハクを見て、牛若ちゃんがさらに慌て始めた。
「ちょ、なんで呼んじゃうんですか!!」
「ハクは一般人だからな。拝むだけじゃなくて喋ってもタダだぜ」
「何言ってんですか!! 白狼様と喋るだなんて恐れ多い!!」
こいつはハクの事なんだと思ってんだろう。
まぁ、ハク過激派とかもいるし、ファンクラブもあるし、見守り隊も存在してるみたいだし、こういう考えの人もいるんだろう。そうなんだろう。納得しようそうしよう。
「?」
何? というような視線を向けていたハクが、牛若ちゃんを見て、もう一度俺を見る。この視線は、どうしたの? だ。
「ハク美人すぎて息するのが辛いみたい」
「???」
ハク様大困惑。
「紹介しよう、牛若丸だよ。俺の魔力回復してくれんの。ハク、よろしくね」
ハクも俺をサポートしてくれるから、他のサポート役の役割を把握してくれないと困る。って理由をつけて紹介してあげる。ま、協力してくれるからこのくらいご褒美あっていいと思うんだ。
ご褒美、だよね?
マジで酸欠になってるみたいに口をパクパクさせて、顔を真っ赤にしてる牛若少年を見て、これってある種拷問かなと思いかけるけど、違うよね?
「大丈夫?」
さすがにハクもヤバいと思ったのか、そう問いかけた。けど、逆効果ですよハク様。
牛若少年は憧れの人に心配されて、そのままぶっ倒れた。いや、倒れる前に受け止めましたけどね。でもこれいったん休ませないとヤバいね。キャパオーバーしすぎたのかな?
ハクは声かけた途端に倒れた少女にぎょっとしている。ごめんねー、ハクのせいだけど、ハクが悪いわけじゃないんだ。あえてゆーなら……美しさって罪! だね★
「兄貴、ヘルプ!」
「アイよ。いやぁ、モテる男はつらいねェ」
狐蝶兄貴がニヤッとハクに流し目をしつつ、少年を受け取る。……この数分の間に印象が変わりすぎて軍服少年の呼び方が変化しまくるぜ。
「兄貴にも頼みたいことがあるんだけど」
「ん? なんだィ?」
ハクは狐蝶兄貴に苦手意識でもあるのか、何故か俺の陰に隠れるように体を移動した。身長差あるから難しいんですけどね。ハクデカい……これが性差か……。
「俺が合図したら素早さあげてちょうだいなっと」
狐蝶兄貴の職業はまさかの『聖職者』。アバターの状態で花魁みたいなお色気美人なのに『聖職者』。今の状態でも色気たっぷりな遊び人みたいなのに『聖職者』。
いやぁ、字面とのギャップな。どこも聖くなさそうなんだけどね! 仕方ないね! 職業だからね!
そんな『聖職者』は支援と回復に優れてて、特に兄貴は支援特化の『付与術師』。ステータスとかに補正をかけるのが得意。
ってわけでおなしゃす。
「こっちはいつも通りな。了解。他には?」
「とりあえずそんだけで。兄貴は兄貴であるからして、気がつけばやってくれると信じてる」
「おだてても何もでねェぞ。マ、頼られて悪い気はしないねェ」
やってくれるらしい。もう一度お願いシマスって頭を下げてから、ハクを連れて帽子屋んとこに。
やっと戻れる……!
「お帰りなさーい、どうなりました?」
兎嬢に出迎えられた。
「んーと、よくわからんけど根回し終った系?」
「なんでわかってないんですかね?」
とりあえずなんか疲れたんだよ、頭の回りが悪い。
「私たちは何をすればいいかな?」
帽子屋がクスッと笑いながら問いかける。
「あー、ハクの護衛かな。兎嬢はもしかしたら他にお願いするかもだけど」
「なんですか?」
「危なくなったら助けてプリーズ。空中戦的な意味で」
「兎の二段ジャンプがお目当てですか? 空中戦って、基本的に魔術師の戦場じゃないと思いますけど」
「俺の守備範囲ではあるんだよなぁ」
ぼんやりしてる頭で帽子屋たちと話しながら、桔梗さんに報告の文章を作成する。
ダメだ。マジ疲れた。なんでこんなにだるいのかと思うけど、アレかなぁ。死ぬって意外と精神的にきてんのかもしれない。死んですぐは興奮とかもあって気にならなかったのかもしれんけど、今はもうだめだ。なんか疲れてる。
んー、これだとあれだな、前衛さんは厳しく思っちまうのも仕方ねぇ? でもなぁ、死ぬときゃ一緒なんだよなぁ。うんうん、やっぱりあの侍男は絶許オーケー。
……テンションがおかしいな。これは、ちょっと休みいれた方がいいかも。死んですぐ喧嘩して、解析して、そうだなぁ、休んでないもんな。これ終わったらちょいと休ませてもらおう。
「空中戦なんて、すごいね?」
「あー、そーいやお前らとはそういう戦闘してないな? ごめん、いろいろ規格外だけど、ついてきてくれな」
「私の負担おおきい感じです? 頑張りますけど」
「いや、無理しなくていいよ。あー、帽子屋、あいつ多分どんな魔法も吸収してる」
「そう。……。私魔術師なんだけど、攻撃しない方がいいかな?」
「いんや、自衛手段には使えんだろ、ご自由に」
「そうか、やっぱり……」
「やっぱりって、なんぞ?」
深刻そうな顔で頷く帽子屋の言葉に、引っかかる。
「お前なんか知ってんの?」
情報はちょっとでも欲しいんだけど? って感じで何か気が付いたなら教えろと無言の圧力を出す。
「いや……吸収してるにしてはのけぞっていたからね」
「ふぅん?」
蔦攻撃は撃退してたもんな。魔法で。攻撃手段としては使えてたって認識だよなやっぱ。
なのになんで吸収なんだよ。吸収するなら完璧にしろよ。なんで嫌がったりするんだよ。HP回復手段だろ、むしろご褒美ですってアピールしろよ。
我々の業界ではご褒美です、なんつって。
……それだとちょっと変態チックか。アウトだな……。
……。
俺の思考がアウトだよ!!
「あー、もう無理!! マジ無理!! 十分! 寝かせて!!」
報告書を書き上げて、桔梗さんに送信。最後はもう誤字とか気にせず一発変換で文章作ったから、一部暗号みたいな感じになってる気がするけど気にしない。気にする余裕なんてなかった。
バッグからブランケットを取り出して頭からかぶってねっ転がる。
「誰か十分したら起こして!!」
「了解でーす」
兎嬢の言葉を聞き終る前に、俺はスイッチを切ったみたいにスヤァした。




