そこにサボテンがあるからねっ!
「サボテンなんて登れんかよ!? てか、これサボテンかぁ!?」
桔梗さんが正気を疑うかのような目で俺を見てくる。
そんな熱い視線やめろよぅ、てれるー(棒
「サボテンだろ、この形! あの顔!!」
The・サボテン。ゲームキャラクターに居そうなサボテン。あのデフォルメ感割と好き。あの虚無っぽい目が逆にかわいい気がする……。
とか言ってる場合ではなく。
近くで見てみると、サボテン(仮)の体はうねっている。たくさんの蔦が絶えず動いているようで、正直気持ち悪い。これで赤っぽい色だったらミミズみたいで、うげぇってなる。とっかかりも見当たらないし、上るのは少し難しそう。
うねっているから、変なとこに足突っ込んだらそのまま呑み込まれそうだな、これ……。
「うーん、どうやって上んだこれ??」
「おめぇが言ってきたんだろうが!」
「そりゃここにサボテンがあるからしょうがないね!」
Q.なぜサボテンに登るのですか?
A.そこにサボテンがあるからさ!
「サボテンは山じゃねえんだよ!!」
桔梗さんのツッコミが刺さる。イラつきゲージが急上昇。
本体に近づいたから蔦の攻撃が結構厳しい。紙防御だから当たったらほんとまずいって。攻撃も補正かからない分弱いから、だんだん取りこぼしそうになってる。まずいまずいまずい……。
そもそも作戦は伝えてたは伝えてたと思うんですよ? 今更ほんとに登るのか的なとこに戻られても困りますん。登るしかないんだよね!
今使えるスキルを確認。よし、まぁ、行けるね。ちょっと無理があるかもだけど、やるだけやってみましょうかっとこさ。
「しかたないなぁ……桔梗さん、おもっきし振りかぶってクレメンス!!」
「は? ……行くぞ」
変なこと言うのはいつものこと。慣れてる桔梗さんは、一瞬だけあっけにとられたけどすぐに察してくれた。周りの邪魔を一掃する。そして少しの時間を確保して、俺に向かって構えた。
「来い!」
「よっしゃ!!」
タイミングを合わせて、桔梗さんの剣に乗る。そのまま相手のゴールにシュー……じゃなくて、打ち上げられた。バットみたいに? 剣士補正の筋力的なあれで、俺は結構高く飛び上がる。
「“壁渡”!」
ブーツのかかとを打ち合わせて、スキル発動。物質がかわる境界線を地面とする、装備品のスキル。水面とか、壁も走れる。重力とか関係ないから便利だけど、その分持続時間が短いのが難点。
さっさとしないと落ちるから!! そして地面がアリジゴクみたいになってるから、呑み込まれる前に次の脚出さないと!!
地面からまっすぐ伸びるサボテン(仮)の胴を走り抜ける。
「“トリック! 防魔+素早さ!!”」
もう一回素早さを上げて、一気に駆け上がる。
足元不安定! こけてなんていらんないから頑張って、俺!
蔦は体に取り付いた虫でも払うかのように俺を狙ってくる。耳元でブンって音が聞こえたときには、かなり肝が冷えたね。
うん、うん……びびるよびびる。わかってる。でもゲームだし! これくらいは体験済みでしょ? イケるって。
ギリギリで避けるって、ビビるけど、ぞくぞくする。楽しいって、よっしゃって、思うよね!!
横に飛びのいたり、少し頭を下げたり、それでも足は止めない。時間が切れる前に頂上へ。
目を通り過ぎたあたりで靴のスキルが切れた。でもご安心。ハクが察して小さな箱型結界を空中に設置。階段みたいに俺の進路上に次々と現れる。それを伝ってさらに上へ。
最後の結界を踏み台に、ぐっと一回ためてから高く飛び上がる。
「“トリック! 力&知恵!!” “ムーン・サイズ”」
ステータス入れ替えて。杖を攻撃特化型に変更。上からつるはしみたいに花に振り下ろした。
「ぐぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあああああ!?」
蔦モンスターの悲鳴。花は結構弾力があって、鎌はぽよんとはじかれたけど、花自体は少し切れている。蔦の口……洞? からも汚い悲鳴らしきものが放たれた。うんうん、苦しんでるよね。
結果は上々!! HPゲージも結構減りましたよっと。
つまり、花は弱点。魔法攻撃は吸収するけど、物理攻撃は通る! えーと、なんだっけ? QED?
跳ね返された勢いをそのままにして、後ろに倒れて落ちていく。
飛び降り自殺って、途中で怖くて気絶してから死ぬって聞くけど、今の俺は大丈夫。死なないってわかってるし。
いや、そもそも死ぬつもりですらないし。
地面とキッスする前に、体をひねって体勢を整える。リアルじゃできないぜ、こんな芸当。
足を下にした瞬間、ハクからのフォローが入る。温かな風がふわりと俺を包んで、ゆっくりと地面に下ろしてくれた。ダメージなし! すぐさま蔦から離れる。一旦情報整理して、本番に備えますかっと。
蔦からは目を離さないようにして、バックステップでいち、に、さんと。襲い掛かる蔦をかわしつつ。時に切り捨てて、桔梗さんのところまで戻った。
「どうなんだ?」
「あー、ちょい待ち」
桔梗さんの陰に隠れて、極力何もしない時間を作る。まぁ、最前線でそこまで余裕なんて出ないですが。蔦の攻撃すごいすごい。紙防御なんでマジ被弾は勘弁。
よし、とりあえず今かかった秒数確認。スキル発動時間と照らし合わせて……あー、一回寄り道したからその分は、このくらい引けばいいかな?
うーん、ちょっと足りない。延長手段は用意してるけど、それもどこまできくかわからんしな。
まぁ、でも、うん、範囲内っちゃ範囲内? ちょっと無茶が過ぎるかな?
「まだかよ!?」
桔梗さんから催促がかかる。そりゃ俺の分も頑張ってくれてるわけだし、つらいよね。
ちょっと作戦がお粗末な感じもあるけど……そこは気合で乗り切りましょう! 俺、考えるのは好きだけど、こういう戦闘なら割と脳筋特攻野郎なんで。
てか、もう、考える時間もなさそうだしな……。
次の一回で決めるといったからには、ここで決めないとダメ。でも長引けはその分他のコマが消える。使うかどうかはともかく。そもそもやる気失ってるやつも多いわけだし、長引かせるより力技でも終わらせた方が吉。
「ハク、とりあえずいこう」
「ん」
たった一音だけど、とても力強くて、俺はとてもとっても安心なんだ。俺の雑な作戦でも、そのチートで何とかしてくれるってね。
いったん立ち止まって、蔦の方に向き直る。ぐっと鎌を構えなおして……ギャグじゃないよ?
「オウル、戻って」
影の色をした梟が、俺の肩にとまった。
幻想級の特殊効果。普通の武器なら固有スキルがあったとしても一個。でも幻想級は二個持てる。その時点で破格だろうって? でも幻想級はチートにはならない。
もちろんレアすぎるから普及してないってのもある。でもね、それ以上に、扱いが難しいんだって。持ってる上級者でもファッション扱いしちゃうレベルで。性能はぴか一なんだけど……まぁ、望まない方向なんだよね。
「“『知恵の梟』解放”!!」
くるりと一回、杖で体の周りに円を描く。するとそこに魔法陣が現れた。繊細で、綺麗な、赤い光で構成されたその魔方陣は、鼓動するように明滅する。
梟の目が開いた。禍々しくて、暗く沈んだ真っ赤な目。俺の鎌もそれに似た赤黒い炎に覆われる。
幻想級は解放することでそのスキルが使える。オウルの場合は、毎秒5パーセントっていう割と大きめな負担と引き換えに、攻撃力を1.8倍にしてくれる。
……そう! 攻撃力!!
そこらの武器が倍率1.5だからね! 1.8なんて結構高いよ!? さすが幻想級! 最高レア度! って感じ。
でもね、これ杖なんだよね!! 杖の恩得はほぼ100%で魔攻になんだよね!! そりゃそうだ、魔法職が物理攻撃だなんてそうそうねーよ!!
ま、俺は物理攻撃しますからちょうどいい相棒なんですが。
オウルの開放が終了して、役目を終えた魔方陣が消えた。と、同時に走り出す。
「桔梗さん、行くよ!!」
オウルのスキルは魔力が全部なくなるまで切れない。でも逆になくなったら終わりだから、切らさないように注意しないといけない。回復手段だって限られてるから。ゼロから復帰するのは大変だ!
発動したら速攻特攻! 行きますこれからノンストップ!!




