チートは敗北なんてしない
前衛さんボスに向かって走り出す。俺たちのパーティはハクを囲んでその補佐を。遊撃隊はばらけて配置される。
ハクは一撃で沈めるつもりなのか、珍しい完全詠唱をし始めた。
ハクは『蒼炎の魔術師』様。炎の魔法は大得意。ボスは見た目植物系だから火には弱そう。うんうん、相性完璧。これならハクはチートだし余裕も余裕っショ、とか……思ってた時期が俺にもありました。
結果的に、ハク様のチートがまともに発動することはなかった。
前衛さんたちがなんだかんだ体力を削っているけど、防御力が高いのか、あんまりうまくいっていないみたい。火属性が付いた武器とか使ってる人はいるみたいで、そのダメージは他より多く通ってる。やっぱり敵さんは火属性に弱いでファイナルアンサー。んで、物理攻撃には強いも追加で。
俺はハクの足元に防御魔法を重ね掛けして、自分は時々来る地面からの攻撃を飛んだり跳ねたりして避ける。くそっ、なんで遠距離攻撃できちゃうんだよ。後衛は基本こういう攻撃されないところでいろいろするんだけど、その攻撃がない場所ってのがなくて地味につらい。
いや、いいんだけどね。とりあえずハク守っときゃ何とかなるだろ感あるしね。俺たちの身の安全は正直どうでもよさげだしね。でも足元の振動感じて避けるって結構神経使うぜ。くそっ、もっと底の薄い靴はいてくりゃよかった。
帽子屋とかもハクの周りを炎で囲んだりして守ってくれてるけど、自分の身は二の次みたい。やぁ、大変だよね。でももう少しだぜ。この長期詠唱、その分威力が最大だから、きっと一発で敵さんは灰になる。せこせこ体力削ってる今がバカらしくなるくらいだぜぇ、きっと。
んー、でもさすがに敵の体力ゲージってだいぶ大きいよな。足りると思うんだけどね? でもねぇ、あの道化師が用意したボスだし、なんかひっかけがあってもおかしくない気がする。そこが不安だよなぁ。
まぁ、やれることは片っ端からやるしかねぇし、今どうこう考えてても仕方ないんだけどね。
「アァ、ぁ、ぐぁああああぁぁぁあああぁぁああああああああ」
ボスが吠える。この声がなんかヤダ。なんか、なんだろ、なんかうまく言えないけど、これを聞いてると不安になる。背筋がぞわっとしちゃってさぁ。あーぁ、言えないけど、早く詠唱終ってくんないかな。そんでこいつぶっ倒してほしい、早く。
壁を蹴って高く跳ぶ。狙ってきてた蔦はここまで届かない。くるっと空中で方向転換して、蔦から距離を取った。火炎瓶を投げつけて撃退。魔法はハクに全部裂いてるから、自衛のために使いたくはない。道具に頼るのが最適解。まだストックは余裕。オーケー。冷静に冷静に。ゲームだよ、楽しく遊ぼう。
「“永久に燃える炎 空に輝ける太陽 比類なきその力 我が前に示せ サン・レーザー”」
ハクの詠唱が終わった。杖の先にいた蛇が嬉しそうに一羽ばたきする。ハクが杖の先をボスに向けて、魔法を発動する。金と赤が混じったような光が真っ直ぐに、ボスモンスターを貫いた。
はずだった。
レーザーがボスに触れた瞬間、光が消え去る。その場にはボスが残っていた。体力ゲージが削れてない。それどころか回復してる。
頭ん中「!?」でいっぱいにして、でもボスが倒れてないのは事実で。だからなんでどうしてって、原因を探そうと鈍い動きの頭に喝を入れようとして。
「ぐぁ、が、ぃだぁぁあああぁぁぁああああああああ!!」
苦しそうな声で、ボスが叫んだ。それを聞いて俺の中に焦りに似た何かがあふれ出す。耳をふさぎたい衝動をこらえて、次の動きにどう合わせるかを考えた。
蔦がほどけて暴れ出す。モンスターの腕が一瞬で何本にも増えて、細い蔦一本一本がすばやく色んな場所に振り下ろされた。鞭みたいにしなるそれらが皆を襲う。
「ハクっ!!」
珍しく、目を見開いて驚きに固まってるハクの方に、慌てて体を向けた。
まずいまずい! 何が起きたかよくわかんないけど! 防御魔法はまだ生きてる? てか俺の魔法はあの一撃に耐えられんの? やべくねぇ!?
混乱はしてるけどハクを守んなきゃと思って、とりあえず走った。でも足らない。考えが、足りてない。
ヒュッと空気を切り裂く音と、ハクが俺に気が付いて、こっちに手を伸ばしたのは同時だった。おかしいなと感じる前に、腹に痛みが走る。気が付いた時には全身が衝撃に包まれて、体中が軋んだ。
「かはっ!?」
痛みが緩和されてて超ラッキー? じゃないと痛みだけで死んでるって。
ただの衝撃だけで動けなくなってる体で状況を観察。壁に叩けつけられたみたい。全身からヤバいっていう信号が出てて、マジで死を身近に感じた。
ただのゲームじゃないね。現実に近いんだって、やっと理解した。なんだかんだゲームなんだから、遊びなんだからって意識があったのは認めるよ。でもさ、ここまでとは思わないじゃん? 結構……クるね。
痛みが緩和されてるっつったって、ただのゲーム時代よりもこれは、リアル。本気で死んだんじゃないかって、そんな恐怖がちらついた。
こりゃ……前衛さんは思ったより精神的にきついんじゃぁね?
無理やり体を動かして、蔦が当たっただろう腹を探ると、ぬるりとした血を感じる。あー、うん、これはマジで、リアル……。
「クロっ」
ゲームにまぎれた現実味を感じてブルってると、ハクが呼ぶ声が聞こえた。
はいはい、まだ戦闘中だった。しっかりしろよ俺?
回復薬を取り出して、何とか口に含む。まずい、けど、まだ生きてるって証拠だぜ。
とりあえずこれで半分くらい体力ゲージが戻った。紙防御の魔法職でもギリ耐えられる蔦の攻撃だから、物理職の人たちはまだ堪えてるのかと思ったら、そんなことはなかったよ。
やっと立ち上がって杖を構えなおす頃には、部屋にいた人間は半分くらいに減っていた。うそーん。
前衛さんがほとんどいない。前衛についてた回復職も結構減ってる。後衛の魔法職とか回避高めの遊撃隊とかはちょこちょこいるけど、これ、もうどうしようもねえな? 桔梗さんの姿も見えない。やられたっぽい。
……あー、大失敗? みたいな。
「どうする」
ハクが後悔とか困惑とかまぜこぜな表情で寄ってきた。炎の魔法をまとってるみたいで、赤いオーラに守られてる。蔦はハクにいっぱい伸びてきたけれど、その赤に怯えたように周りで様子をうかがっていた。
俺は最初ではじっこまで飛ばされたからあんまり狙われなかったみたい? 今はハクが来てくれたから、ハクにおびえた蔦は俺にも攻撃を仕掛けにくいみたい?
どうもあのボスを中心にすんげぇ攻撃を加えられたみたい? 地面がめっちゃえぐれてる。そりゃ、前衛さんがごっそりいなくなるわけだ?
こうやっていろいろ考えている間にも、人がどんどん減っていく。
「いやもうこれ立て直せないだろ。できるだけ長く残って様子見してみるけど、死ぬしかないわなぁ」
なんだろう、何があったんだろう。そんな混乱から抜け切れない。とりあえず今わかるのは、モンスターの攻撃で床も壁もめちゃくちゃだってことくらい。何? 嵐でも通ったの?
「ん」
ハクも同じ結論みたいで、軽く頷いてからは何か考えるように蔦の化け物を見つめる。
攻撃は当たった。でもダメージは与えられてない。しかも回復してる気がする。……うん、今あいつは全然HP減ってない。全回してる。ハクの魔法が発動した瞬間だったし、あれしか原因になりそうなのもないとは思う。さて、それなら結論は、あの魔法は吸収された、ってことでファイナルアンサー? ……こりゃ笑えんわ。ハクが連れてこられたのって最終兵器としてだぜ? それが使えなくなったとしたら……やだー、桔梗さんの毛根にダイレクトアタック? 作戦は練り直しかね。胃痛も酷そうだ。
できる限りこの場にいて、観察して、撮影もして、それで……。
俺ら以外の、最後の一人が死んだ。蔦は後はお前らだけだと言うように、鋭くとがった先端で俺達を囲む。
俺はハクと目を見合わせた。
「さて、死にますか」
「ん」
残念ながら、いくらハクがチートとは言ってもさ、勝てないことはあるわけで。こういう時も経験したことある。本当に少ない回数だけど。片手で足りるくらいだと思うけど。
その時になんか敵にやられるのは癪だよねって話をして、俺達は約束をした。
二人して詠唱を始める。まぁ、俺とハクじゃ実力差あるからさ、俺は何個か詠唱しなきゃいけないわけだけど、その間ハクはゆっくりとした長期詠唱で間を持たせてくれた。
いくつかの魔法を時間差で発動できるようにして、俺は合図に杖で床を打ち鳴らす。最期は息を合わせて。
俺達は互いに殺し合った。
ボス部屋の扉の前で目が覚めた。女神様様、復活ですぜ。……外に死に帰ることはできない確定ってことで。
先に何人もこっちに戻されてるはずだけど、大分静か。部屋をぐるっと見回しても空気が凍ってる。ありゃ、思ったより失敗がきつかったかしらん?
「クロ」
「や、ハク。おはようさん。気持ちの悪い目覚めだな」
「……」
俺の冗談に、ハクは困ったように眉を下げた。
代わりに近くからクスッとした笑い声が聞こえてくる。
「黒鷺、君は図太いね。あぁ、もちろん褒め言葉だよ」
帽子屋だ。……? 褒め言葉とか言ってるけど、そんな風には聞こえない。皮肉感ある? かなり憔悴して、やけっぱち感は確実にある。気のせい? いやいや、これはアリス嬢たちがいなくなった時の帽子屋に近い気がするぞ?
「んん。俺みたいに適当じゃないとつぶれるぜ、帽子屋? 現実は半分以上受け流すくらいじゃないと世の中生きてけねーってよ」
「そんな簡単に割り切れたらいいんだけど、難しいね。……」
「そーですよぉ、無敵チートなフェンリル様が手も足も出ずに死に戻りですよ? そりゃ希望もなくしますって」
「誰の攻撃もあんまり通んないんだよ? どうやって攻略するのさ……」
帽子屋の後ろから兎嬢がひょこっと出てきて、疲れたように怒った。さらにその後ろからアリス嬢が登場して、泣き笑いみたいに愚痴る。
うーん、帽子屋、何か言いかけたみたいだったけど、気のせいかな? 兎嬢たちの方に目を向けちゃったからよくわからんくなってもーたよ。うーーーーん、めんどい。パス。
「落ち着けよ、アリス嬢。でーじょぶだって。何とか攻略すんのは確定なんだぜ」
「だからそれをどうするって……」
「俺達にゃハク様がいるだろ。完璧チートなハク様だって。イケルイケル」
ハクから困ったような空気が発せられるが、俺は確信してるんだ。ハクがいるから大丈夫。チートなのもあるけどさ、いや、チートだからなんだけど、ハクと一緒で俺は負けたことがない。
知ってる? 勝つまでやれば実質勝率百パーなんだぜ?(白目
元気づけられるようにと、俺は胸を叩いて、できるだけ自信満々に見えるように口の端をあげた。フードのせいで見えるかどうかわかんないけど、茶目っ気を添えるようにウインクもする。
「俺たちは勝つっショ。勝つしかねーし、勝てるんだよ。無敵完璧超絶美人のスーパー超人ハク様がついてるしね★」
「クロ、クロ……」
さすがに持ち上げすぎたのか、ハクがすごく困ったように俺の服を引っ張る。恥ずかしそうに俺の名前まで呼んで、きっと内心では叫びだしたいほど困惑してる。でも嫌とは言えないんだよなぁ。強いのは嬉しいみたいだから。褒められて嬉しいけどやりすぎはとても困る、そんな感じ。後、美人はいらねぇって? HAHAHA
いやー、こういうとこが可愛いからからかいたくなるぜ。
「いちゃつかないでくださいよ! おいしいじゃないですかありがとうございます爆発してください!!」
ぱしゃっとシャッター音がして、兎嬢が嬉しそうに怒った。……いや、怒ってんのかこれ?
てか毎回言ってるけど俺女だからね? その辺わかってんのかな、腐女子サン?
「美人は関係あるのかな……?」
「ないでしょ。でもなんか、はぁ、こういう通常運転が三人もいるとちょっと落ち着くね」
「はぁ、やるしかないのだし、悩んでも仕方ないと言う事かな」
「悩むだけ無駄ってことだと思うよ」
帽子屋とアリス嬢が何か悟ったようにため息をつく。褒められてないことはわかるぜ。でも、ちょっと元気出たかな? 諦めたともいうのかな? ま、重苦しく背負うよりマシだろ、オーケー?
「気楽に考えなって。大丈夫、次はきっとうまくやるさ」
ハクが。という言葉は飲み込もう。さすがにこれ以上は可哀想? だし。とニマニマ笑いは隠さずにハクを眺めた。
ハクは困ったままだったけど、次はうまくやるって気持ちは一緒だったのか、重々しく瞬きをして頷く。
「やろう」
「さすがハク様、頼りになるね!」
攻略の要としての存在だったハクが折れることなく、前を向きなおして俺は安心。ここのパーティメンバーも、なんとか顔を上げ始めたし、行き先上々って感じ。
だったのによぉ……?
「けっ! 何がハク様だ! この役立たず!!」
なんてKYが叫び声をあげた。




