ラスボス戦の開始だぜ!
転移先は、狭い部屋? 白いのは変わらず、天井も高い……いや、さっきまでの部屋よりちょっと高いかな。そして狭い。狭いと言うか、扉の前の控室みたいになってて、ちょっと場所とられてるみたいな?
転移陣は扉の真ん前にあって、こっちに来てすぐに目の前の壁一面の扉にぽかんとする羽目になったぜ。
扉はなんか細かい装飾が施されてて、荘厳? って感じの雰囲気? 煌びやかみあるよね。豪華豪華。貴族の家とかこんな感じか? いや、周りが白いし神殿感がすごいかも。
あたりをきょろきょろ見ながら転移陣から降りると、すぐに桔梗さんに呼ばれる。
「黒鷺」
「あい? あ」
桔梗さんの方に視線を向けると、神殿にもある女神像がここにあった。次に来るハクを待って、その女神像に近づく。
神殿にあるものと完全に一致。ダンジョンとかにもあるところにはあるけど、それはチェックポイントの証。特に女神像は回復ポイントも兼ねてて、ボス戦前のチェックポイントっていう重大な役目も背負ってる。ただのチェックポイントは天使の像とか欠けた女神像とか、なんかそんなん。
で、これがあるってこーとーはー。
「え、もうボス戦ですのん?」
「少なくとも十階層はあると思ってたんだけどな」
「はやい……」
ハクも呆然と呟くレベル。三階ですよ? まだ三階! 初心者ダンジョンでも五階層あったわ!?
「……セーブ?」
ハクが少し迷ったように俺に視線を向けた。
チェックポイントではセーブできる。一時中断とかには便利な機能だったし、死んでもやり直せるからよいのだけど……今回はその利点ってちょっと怪しい。まず一時中断も何もねぇし。
でも重要なのは死に戻り先がここになるってことだよね。出るの禁止のこのダンジョンで、死に戻ることも不可能になったらどうするか……。
「あー、それなんだが、ステータス見てみろ」
桔梗さんが言いにくそうに眉間にさらにしわを寄せるから、なんだと思った。そしてびっくり。普通復活先の神殿の名前が書いてあるところが文字化けしてる。帰郷さんのも見せてくれたんだけど、化け方が同じ。復活先の神殿って俺たち違うはずだからー、たぶん、このダンジョンで更新されたってことだよな?
お、オートセーブかよ?? タチ悪いな!!
「じゃ、死に戻るのは不可能ってことで」
腹くくりましょうか?
「切り替え速ぇな」
「だって元からその覚悟はしてたろ? 実際そうなって慌てるなんて、まぁ、気持ちはわかるけどさ?」
直面しないとどうなるかなんて、わかんないよなぁ。覚悟してても、体験と想像じゃ違うし。
「クロ」
「あいさ?」
裾をつんつんと引っ張られて、隣のハクに視線を移す。
「古代文字」
そう言ってハクがさすのは女神像の台座。よく見ると確かに文字に見えなくもない模様が刻まれてる。
「読めない」
「帽子屋-! 出番だぜー!」
ハクの言葉を受けて、速攻で帽子屋を呼び出す。ちょっとハクがむっとしてるけど、仕方ないね! あっちの方がレベル高いみたいだしね! チートなハクサンがこんな扱い受けるのは少ないから貴重な体験だと思っとけ!!
「呼んだかい?」
「おうこれ読める?」
「ん? ……あぁ……」
文字に視線をやった帽子屋は少し考え込むようなしぐさをして、それから少し目線をさまよわせた。
「黒鷺、これを写真にとって、持ち帰ってくれないか?」
「なんで?」
「頼む」
扉も一緒に撮るように言われて、帽子屋の顔を覗き込んだ。
兎嬢たちがバラバラになったと告白してきたときのような、深刻な顔。憔悴とは違うけど、表情を消して、泣きたいような気持ちを目の中にあふれさせてる。
「訳は教えてくれねえの?」
「……すまない」
こりゃ、理由を聞いても答えてくれないし、言う気はないということだろう。納得はいかないけど、まぁ、後ででいい。データを人質にでもとれば多少のことは言ってくれるだろうし。
とかちょっとひどいことも考えながら、帽子屋の指示通りの写真を撮っていく。台座、扉、床、壁の一部。結構撮ったけど、文字っぽいのが見えたのは台座と扉だけだ。これに一体何の意味があるのやら。
ハクも帽子屋の言うところに視線を走らせるが、首をかしげている。文字が読めないのと、文字がない所があるみたいだ。ますます意味わからん。
「なぁ、黒鷺」
「あん?」
桔梗さんに話しかけられてちょっと写真がぶれた。話しかけるの今じゃなかったらダメだった?? ちょっとイラッとしつつ撮りなおす。
「前、よくわからんものが送りつけられてきただろ? ほらあの、差出人不明の、というよりも存在しなかったメールにつけられて」
なんだったか、と思い出す。あ、そうだ、謎の物体x!? そういやよくわかんない模様がついてたような……。あぁ、あれって古代文字だった可能性。
「あれ結局誰預かりになってんの?」
「一応俺が」
「帰ったらハクか帽子屋に見せてみんべ」
「だなぁ……」
今はどうしようもないと、関係ないことはとりあえず記憶の片隅のスペースに突っこむ。忘れそうだけど忘れないようにちゃんとタグつけとかないと。頭ん中のメモ帳に付箋でもはっとく。……忘れませんように。
写真を撮って、いったん落ち着く感じでおしゃべりしたりしてるうちに桔梗さんが皆をまとめなおす。
「ここには女神像があった。よってこの先はボス戦が予想される。お前ら、気合い入れなおせぇ!!」
「「「おー!!」」」
「ハク、出番じゃね?」
「ん」
「やっとですねー」
「でも早くない?」
「……」
ボス戦前にウキウキしてる俺達パーティだけど、そのうち一人、帽子屋だけは少し眉を寄せて深刻げ。どうせ話をしようと思ってもはぐらかしそうだと思って俺はスルー。ハクが少し気にしてたけど、コミュ力がないから結局スルー。兎嬢は気づいてない? アリス嬢も、そうかな。
さっきから様子がおかしいんだけど。でも、ちょっと、めんど。うん、今はボス戦大事、だぜ。
扉の前に集まって、皆でそれを見上げる。桔梗さんが扉に手をかけると、何の抵抗もなく、いやむしろ勝手に開くように滑らかにスライドしていった。……正直押すか引くかだと思ってました。じゃなくて。
扉の先に待ち受けていたのは……。
「なんも、ない?」
空白の空間。真っ白なのはどこも同じ。敵の姿は見当たらない。特筆すべきは、天井に太陽のマークが描かれているってことぐらい? ほんと、それだけ。
「警戒は怠るな」
扉が閉まったら動き出すパターンかもしれないし、まだ気は抜けない。絶対なんかいると思ってたから、ちょっと拍子抜け感はあるけどね。まだまだだよ。
俺はとりあえず撮影用のアイテムを三個くらい飛ばしておく。小さい蝙蝠みたいな形のカメラ。敵から見つけられにくいような機能付き。作るのめんどくさいけどね。時々ばれて壊されるけどね。こういう時は使わんと。
ゆっくりと部屋の中に入って行って、全員入った時に扉が閉まった。慌てて何人かが押したり引いたりしてるけど、うんともすんとも言わない。だよね。知ってた。てかスライドだからね。多少の細工はあるけど手はかけにくいよね。
ついっと裾を引かれて、ハクを振り返る。
「んー?」
「下?」
「よなー」
単語とか言うレベルじゃない気がする短い会話で、今考えてることが同じってことと次何が来るかっていう予想をすり合わせる。俺らだけだったらイノシシも真っ青な突進見せてもいいんだけど、そんなことしたら桔梗さんの胃がマッハだからやめたげよう。かわいそうだし(笑)
ハクがつま先で床をトントンしてるのを見て、足裏の振動をはっきりと感じる。こんだけ天井高いとね、上から来るのもいろいろ予想できるけど、まぁこの振動からして下からだよなぁ。振動に気が付いてんのは何人もいるけども、ちょっと居心地悪そうなだけかな。俺らも前に体験してなかったら気づかんだろうし。その体験も一匹だけだったから、同じ体験して予想できるようなやつもいなそうだし……。
さて、こりゃ白狼様の出番だということで、ちょっち頑張ってもらおう?
「ハク、いけんべ?」
「了解」
「あの、お二人とも? さっきから何話して……?」
兎嬢がにまにましながら困惑を表情に浮かべると言う高等技術を披露しながら俺たちの間に入ってくるけども、遅いよ?
「下から来るぞ、気をつけろぉ! ってね★」
「へ?」
「“鉄壁”」
兎譲の間抜けな声と、ハクの詠唱が重なった。いや、ハクってキーワードだけで十分だからなぁ。これ詠唱って言えないか。
とか余裕ぶって考える暇はほとんど無く、地面に魔方陣が出現した。ハクの防御魔法の結果。んー、完全にばらけて広がる前だったから、ぎりぎり魔法陣の上に全員乗ってるかな。そのまま動かんでくれよ。
下の魔法陣に気が付いて、桔梗さんがこっちを振り返る。他のみんなも何事かと固まった。
でもそれをどうこうする前に、辺りに爆発したみたいな轟音が響き渡る。
「!?」
驚愕に目を見開いて、俺とハク以外の全員がそれを見る。
魔方陣の外から生えてきた、緑色の太く尖った謎の物体を。
……蔦、かな? 根っこ? 何でもいいや。地面を勢いよく突き破ってきたそれは完全に攻撃。ハクが守ってくれたから、魔法陣の内側からは生えてこなかった。内側に生えようとした奴はすんごい音を立てて跳ね返されてた模様。魔方陣の隙間から壊れかけた床が見える。
気が付かなかったら、今頃みんな串刺しだったやね? さっすがハク様、完全完璧な防御魔法だったぜ!
「白狼、助かった!」
桔梗さんが状況を察してそう声を張り上げる。その声に他のみんなも正気に返った。驚きから立ち直って、攻撃されたことを認識する。もうバトルは始まってるんだって、理解した。
「ん」
ハクはクールに桔梗さんに頷いた。本当に何も考えてないみたいに、実際になんも思ってない的な無表情で受け流す。
俺も杖を構えなおして、次に備える。
地面から生えてきた緑色が次々引っ込んで、部屋の奥の床が下から押し上げられるように膨らんでいく。ボロボロと床が崩れて、中から緑の塊が姿を現してきた。
たくさんの蔦が絡み合って、一つの巨体が形成されている。ぱっと見た感じだと、サボテンのデフォルメ絵みたいな感じで胴体と腕がある。でもそんな可愛くない。目と口の部分はぽっかりと暗い虚無が陣取っていて、吸い込まれそうなくらいに深く恐ろしい。なんか、ぞっとした。しかも蔦が蠢いていて、虫みたいで気持ちが悪い。頭に花も生えていて、でもその花はラフレシアみたいな異形感があって、気色悪い。全体的に不気味で、気分良くない。そんな化け物が地面から生えて、こちらを睥睨する。
「う、ぐが、ぐ、アァァァアアアアアアアア!!」
そいつは、顎が外れたみたいに口を大きく開けて、吠えた。空気がびりびり震えて、その震えが伝染したみたいに体も震える。
……え、怯えで? いやいや、武者震い? ……ただの共振だって、きっと。
「ボスのお出ましぃ?」
色々ダンジョンもあるゲームだし、ボスの形もいろいろだ。でもなんか、こいつは今までと違うって言うか、変な感じ。
ビビっちゃってるかもしれない自分に言い聞かせるように、ただのボスだぜって主張する。
「や、こいつ倒せば万々歳だよな?」
「ん」
ハクがいつも通りに頷いてくれるから、俺にもいつも通りが戻ってくる。
うん、大丈夫。これはただのゲームだぜ。楽しまなきゃ損。楽しんでやるからゲームなんでしょ、なんつって。
攻略メンバー全員が手に武器を取って、戦闘準備を整える。視界の端にボスの名前と体力ゲージを呼び出した。
VS『嘆きの白花』
さぁ、ラストバトルのハジマリだぜぇ!!




