思わぬところ
干物とみそ汁と白米をリクエストしてくる桔梗さんに、それは朝食メニューじゃね!? みたいな反撃をして、口論が白熱。十分くらいメニューについてもめていたら、その間に帽子屋が帰ってきた。
「えっと、黒鷺、桔梗? 話し中悪いんだが……」
後ろから申し訳なさそうに話しかけてくる帽子屋のおかげで、やっと気が付いた。
やべ、昼飯の準備まだなんもしてねぇ……!!
「帽子屋!」
「な、なんだい?」
「昼飯何がいい? 炒飯とかでいいかな!?」
「い、いや、私より三月や狼クンに聞いたほうがいいと思うよ……?」
突然の質問に困惑顔だけど、それ以上に、確かにこいつはいつも料理名とかピンと来てない。お前本当に日常生活送ってんのか? ってレベルで何もわかってない。だから料理教室にも参加させてないんだしな!!
「それもそうだね!」
ってことでスタコラ厨房へ。
っと……。
「あれ? 桔梗さんと帽子屋、二人きりにしても大丈夫なくらいには面識合ったよな?」
さすがに何回か顔を合わせてんのは知ってるけど、そこまで仲良かったかな? ほぼ初対面の人たち放置すんのも気が引けるってか、なんというか……。今更感あるけどね!
「あー、大丈夫だ。俺に直談判しに来る程度には仲いいぞ」
「おう、それどの程度なん? ……直談判?」
「君が先にツッコむのはボケの方なんだね……?」
桔梗さんの茶化した答えに、真っ先にツッコんだ俺に、帽子屋が呆れ気味に問いかける。
いや、仕方ないじゃん? なんかそう言う役回りになること多くて? ……じゃないね!
直談判ってなんだよ、って話だよね。
「気になるからあとで教えられたら教えて頂戴。俺ちょっち飯ば作ってくる!!」
「干物! 純和食!!」
「だが断る!!」
諦めの悪い桔梗さんが叫ぶけど、知ったこっちゃない。作んのは俺だ。干物はあるけどめんどくさいだろ、片付けが!!
魚焼きグリルも網もあるけど、どっちも面倒ジャン!? ……んー? 洗いものって、そう言えば手洗いしてたけどコマンド式に片付けられるのかな? まずコマンド式に作ったことないからわからねぇな。今度実験しないと。
あー、片付け簡単になったら、炭火でさんま焼くのもいいかな……。カニとか焼いてもうまそう……炭火焼……いいな……。
結果、アリス嬢が焼きそばパン食べたいって言うから、昼は焼きそばに決定。アリス嬢には切り目の入ったパンも渡した。嬉しそうに焼きそばパンにかぶりついているので、よかった……?
焼きそばも普通に食べてんだけど? 焼きそばおかずに、焼きそばパン食べてるレベルなんだけど? 食べてる量がえげつない。俺の二倍は軽い? 男子高生の食欲に恐怖を感じる。……え、アリス嬢だけ? だけかな??
三月嬢は突然の桔梗さんにちらちら視線をやって落ち着かなさげだったけど、隣のアリス嬢の食欲に、今度はそっちにちらちら視線が送られる。
笑顔が引きつりますね。でも作り手としては美味しそうに、いっぱい食べるキミが好きって感じのあれですよ。でもちょっと驚きが、すぎるぜ……。
「あんなほそっこい体によく入んな……」
「俺もそう思うよ桔梗さん……しかも小っちゃいのに……」
ただのアバターの時よりは少し大きくなった気もしないではないけど、誤差の範囲だし、かなり小柄に見える。ってか、女装に違和感を感じない時点でお察し。男子高生ならかなり小さい部類だよね?
「ちょっと! 小っちゃいって言わないでよ!! まだ成長期だから、これからなだけだから!!」
ぷくーっとふくれるアリス嬢は可愛いけど、目の間にある量が可愛くない。てかまだ食べ始めて数分なんだけど、三分の一くらい減ってる。
速くない!? ちゃんと噛んで食べてね!?
「えー、アリスは小さいままがいいですよ。可愛いですもん」
「え、そ、そうかな?」
なんか照れてるけど、やっぱかわいい方がいいんだよね? じゃあ小さい方がいいよ、うん……。
というかアリス嬢、最初は桔梗さんに怯えてたけど……「ネカマも男女も慣れてらぁ」って俺を指差しながら真顔で言い放ったので、何かを悟ったようだった。一瞬菩薩顔した後、遠い目をして「黒鷺あるところに非常識アリ」とか言いやがる。
ひどくね?
まぁ、それでなんかこだわるのやめたみたいだからいいけど……いいけど!? いや、あれは諦めの境地だったな? ならダメかな? どうかな!?
てかやっぱ非常識人にされんのは嫌だ!! 俺めっちゃ常識人じゃね!? 現代人満喫してるよね!?
「あのー、誰も何も言ってくれませんけど、桔梗さんはどうしてこちらに? ……聞いちゃダメでしたか?」
やっと視線をアリス嬢から引っぺがした三月嬢が、おずおずって感じに聞いてくる。誰に聞いたらいいのかわかんないのか、俺と桔梗さんとハクの顔をちらちらしてたけど。
普通にご飯食べてたけど、そういやそうだった。桔梗さんいるよ、ってことしか説明してなかったな……。うっかりうっかり★
隣からハクの視線が刺さる気がする。俺のうっかりさ加減に呆れてるな? プラスで、何で説明してくれないのって言う困惑とかかな?
ごみーんに★
「次の攻略作戦の勧誘にな。帽子屋もいたからついでに打ち合わせも」
「おや、私はついでかい?」
「いや、俺はあんたがここにいるなんて知らなかったしよ……?」
「ごもっとも」
「てか、それ。お前らなんでそんな企み事しとーの?」
俺はそっちの事こそ知らなかったぜ?
「……攻略作戦?」
三月嬢はそこから初耳だったみたいで、怪訝そうな顔を向ける。アリス嬢も以下略。
「中央大陸に塔ができたのは知ってるだろう? あれの攻略作戦だよ」
「ちょっと!? 聞いてませんよ!?」
「なにそれ! 少しくらい相談とかなかったの!?」
帽子屋メンバーがぎゃいぎゃい騒ぎ始める。まぁ、説明する余裕があったかどうかは微妙なとこだけど、一言くらい欲しいよね。
ってまぁ、その間に俺は桔梗さんに確認をば……。
「桔梗さんや桔梗さんや」
「なんだい、クロさんや」
ノリ合せてくれるこの軽さは好きだけど、ちょっと気になることが。
「帽子屋だけ? メンバーに入ってるの?」
今すでに攻略メンバーに入ってるってことは、やっぱ、もしかして……バラバラだった時に直談判しに行ってない? その場合、後の二人はメンバーに入ってるわけないよなぁ……?
てか、まずなんでそんな時期にってのも気になるが。本気で他二人を心配してたように見えたし、その間にわざわざ攻略の最前線に行くか? 普通……?
「まだ決まってねぇけど、帽子屋には何にも言われてねぇな。俺も一応他にいるか聞いたんだけどな?」
うーん、やっぱ単独ダッシュ、だよなぁ。……?
「どうしてそこまで……?」
「なんでそんなに!?」
俺の独り言と、兎嬢のヒステリックな叫び声が被る。
ちょっとびっくりして帽子屋メンバーに視線を移すと、帽子屋と視線が合った。
大きな声を出して苛立っている兎嬢じゃなく、不安そうな顔で唇を震わせているアリス嬢でもなく、そいつは、俺を見てた。
「やらなきゃ、いけないことがあるんだ……すまない……」
冷静に、帽子屋はそう言う。すまない、ってとこだけは視線を伏せて二人に向き直ったけど、その前までは視線が外れなかったから、きっと、俺に向かって……?
なんで? どうして? これっぽっちもわからん。
ただちょっと……帽子屋の目は暗すぎた、気がした? 気のせいかもだけど、ぞくっとした。なんか気持ち悪いなぁ。意味わからんし。
「ハイハイ、とりあえず落ち着こうか」
さっきまでの帽子屋の視線を頭の中から追い出すように、手を叩いて注目を集める。
「まだご飯途中だし? ちょっとマナー違反が過ぎるかなって?」
そう言うと、さっき叫んだ時に立ち上がって抗議してた兎嬢が、恥じ入るように視線を伏せた。
「すみませんでした……」
「いやいや、いいんだけどね。食べることは生きること、らしいから。なら、食事は楽しくしたいなぁって、俺の知り合いの受け売り?」
少し唇に笑みをのせて、怒ってないんだぜアピールしとく。兎嬢下向いてるから見てない気がするが……ま、口調もやさしくしてるし! 雰囲気伝われ!
「まー、攻略メンバーも決まりじゃないらしいし、いきたいなら相談してみれば? 幹事がここにいるわけだし」
「……ん? うっ! おま、急に丸投げしてんじゃねぇ!!」
話の流れにおいてけぼり感満載だった元ギルマスに、急に話を振ったら慌てられる。
ぷぎゃぁ←
「お願いしますよ桔梗さん! うちのギルマス水臭いんで!!」
「お願いします桔梗さん! 僕たち頑張りますから!! カンストいますよカンスト!!」
二人は何とかメンバーに入るためにアピールしてくる。押しの強さに桔梗さんタジタジ。
……助けを求めるような視線が投げかけられる。こういう時は無視に限るぜよ。
と思ってたら、視線が敵意を含んだ。
「あー、そーだそーだ。黒鷺、オメェも手伝えよ。事務処理はお得意だろ? そしたらお前がある程度メンバー決められるんじゃねぇかなぁ~」
わざとらしくちらちらっと視線を送られる。その視線に気が付いた二人の視線もこっちに……。
「い、や、だ、って、ば!! そうでなくともなんか最近忙しいってのに!! これ以上他にかまけていられるかってんだい!」
巻き込まれそうな雰囲気に、全力で拒否反応を示す。兎嬢の押しはとにかくヤバい。勢いがすごすぎる。呑まれたら終わりだと思って、思い切り力をこめた。
予想通りに兎嬢が何とか説得しようと口を開きかけた。それより早く俺がもっと言葉を継ごうとした。
けど、その前に、横から服を引っ張られる。
「ん、えぁ? ハクぅ?」
さすがにこの時に何か言うとは思ってなかったから、ちょっと動揺。ハクサンは無言。
「……」
「??????」
「……一緒、お願い」
「うえっ!?」
んんんっ!? まさかのハクさんからのお願いでクロさん大困惑。
「ちょ、え……えぇ!?」「……っ!?」「わぁー……?」「おや?」「あ?」
ハク以外の全員が驚いて、視線を集中させる。びくりとハクは震えるけど、さすが完全鉄壁な人見知り。俺には泣きそうな顔に見えるけど、客観的に見れば一ミリも表情が変わってない。
……人見知りってレベルなのか? これ?
「……えーっと、ハクぅ? 俺に、このしちメンドクサイ作業を、やれ、と……?」
「っ……」
いくらハクのお願いでも嫌すぎて、ちょっと嫌な言い方になった。思ったより、強い言葉になった。ごめん。傷ついた顔しないで。ごめんなさい。
「…………離れる、死にたい」
少しうつむいて、それでも視線を俺に向けて、ぼそぼそと呟いた。聞き取りづらいし、きっと一番近い俺以外には聞こえていないだろうけど、俺には聞こえた。聞きたくなかった。
……どうしようか。なんて、決まってるけど。でも、どうしようかって言いたくなる。
どうしてくれようこの子。大丈夫かな? シニタイ、なんて、誰に向かって言ってるの? 死にたいほど離れたくない人に向かって言ってない? 自惚れかなぁ? きっとそう、ってことにしておこうか。
まぁ、頑張って口はさむくらい帽子屋たちのこと思ってるってことで、成長したね、ってのも言いたい。
俺の心境完全に親目線なんだけど……実はそこまで歳離れてない気がするよ、うん?
とか現実逃避してもどうしようもないので……
「……はぁ」
ため息をつくと、今度はわかりやすく顔が歪む。俺にとってはわかりやすいけど、他人にもちょっと表情が変わったってわかるレベルで。
嫌われたとでも思ってる? なら、言わなきゃいいのに。
あぁ、めんどくさい。
「ハクぅ? 俺また忙しくなるけど、留守番頼める? いや、別に外に行ってもいいけど、変な人に絡まれないようにね? いーい?」
できるだけ優しい声を意識して、ふんわりした笑顔を心がける。敵意なんてありませんって、全身で表現しないと。怯えられるのはちょっと嫌。
ハクは留守番の可能性にやっと気が付いたのか、少し嫌そうに、けどちゃんと頷いた。
ぶー、もう俺とは離れてももう大丈夫って? なんだかなー。こう言えば取り消してもらえるとちょっと思ってたのになー。
……仕方ない。おねだりに応えますかね。
「オーケー。わかった。桔梗さん、俺手伝うからある程度メンバー決めさせてね?」
それにしても、なんだか、思わぬところに伏兵がって感じだな。まさかハクが、ねぇ……。




