上げて落とすタイプ
ショートカット機能を使って、家の少し前に飛んで帰る。残念ながら帽子屋は、うちに住んでいるわけじゃないからこの機能は使えない。
ってことで俺だけ瞬間移動!!
「うおっ!?」「ありゃ!?」「!?」
ちょうど着地点が桔梗さんとハクの間だったみたいで、後ろから桔梗さんの驚きの声が聞こえた。目の前にはハクのちょっと驚いた表情が。
「いやぁ、桔梗さんの真上に落ちなくてよかった」
「もしそうなったら、この機能、穴ありすぎだろ……」
「それな」
後ろを振り返って、適当な会話を交わしてからハクに向き直る。
「ただいまー。どう? 兎嬢にいじめられなかった?」
「問題ない」
「そっか。それならよかった。材料も結構ゲットしてきたから、午後はうちにいるつもり」
「ん」
と、報告を終えて、ハクに先に家に入るよう促した。ほっとしたように、そそくさと帰っていく。
うん、桔梗さんと二人きりか……すまんかったハク……。
「桔梗さん何しに来たの? 家入る?」
「おい、何しに来たの? は、ねぇだろ……」
「いや、急用なら茶は出さないけど、時間あるなら出すしかないじゃん?」
「出せよ。とりあえず出してくれよ。こっちは味のある物に飢えてんだよ」
俺の返答に、すんごく顔をしかめて流れるような早口で文句を言ってきやがる。
え、出してもらおうとする人の口調か? これ?
「てか、もうすぐ昼だろ。食わせてくれよ飯……一人分くらいかわんねぇだろ……?」
あ、これは三徹明けの表情だ。結構キテル表情だな。
……え? でもあのギルドそこそこの規模だったし、料理対策なんてしてるだろ? まだ実ってねぇの?
「まだ飯マズ問題に悩まされてんの?」
まあとりあえず入れよ、とか言いながらうちの中に招き入れる。帽子屋連中への説明は……後でいいだろ。
とりあえずリビングの方に座らせて、熱々のブラックコーヒーを出す。俺も飲む。うむ、一仕事終えた後のコーヒーはうまい。
「まだ料理レベルが低くて、微妙なんだよなぁ……。経験値がおいしくねぇ。お前、どうやってそんなレベル上げたんだよ……」
桔梗さん……あ゛ぁ゛ーうめー、とか、爺くさい声出してコーヒー飲むな。温泉じゃねぇんだよ! 話入ってきづらいだろうが!!
で、なに? 微妙? 味が? ……まぁ、料理用の材料ってギルド内の在庫少なかったもんな。あんまりレベリングうまくいってねぇのか?
あぁ、しかも俺達みたいに高レベルの料理レシピも……持ってないだろうしなぁ。そりゃ捗んないか。
でもレベリングってほぼ作業ゲーだしな。基本解決方法なんてない。
「ひたすら料理すりゃイケルイケル」
「ありえねぇ……」
軽く言ってのけた俺に、桔梗さんはもう何もかも諦めたような、引きつった笑みを浮かべた。
「ギルマスが一人でうまい飯食ってもいいわけぇ?」
ギルド内で一人だけいい思いしたんなら、俺ならキレる。しかもギルマス。謀反起こすしか道はねぇ(確信。
でも桔梗さんだしなー。一人だけなんか頑張ってる気がするんだよなー。だったら提供する側としては、やってあげてもいいかなって気分になる。
さて、どうしよう。
「あぁ、そうだ。リーザからこれ頼まれたぞ」
そういって桔梗さんは、俺がこの前クッキーを持っていくのに使ったバスケットを取り出した。
ん? バスケットが頼まれもん? 違うよな?
おかしいと思って、受け取って中身を見てみれば、一枚の紙きれが。
『材料じゃなくて、米が食いたいわ。 リーザ』
…………あ、はい。
これはあれですね。ギルド内頂上決定戦の商品の変更願いですね。
渡すのを先延ばしにしていたばっかりに、こんな面倒事を増やされたっぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!?
てか、米? 米ってなに? 白米渡せばいいの? たぶん違うよね! 絶対おかず欲しいよね!
おにぎり? これはおにぎりを求められてるの? それとも白米くらいは炊けるから、おかずよこせやってこと?
え、どっち!?
「あー、おにぎりがいい。おにぎりくいてぇ」
「それあんたの願望だろ……」
横からメモを見た桔梗さんが、ぼそぼそ呟いたからツッコんでやる。
「鮭、おかか……ツナマヨ……」
「最後ハイカラだな……でもよ、おにぎり握るの結構大変だぜ? 人数多すぎて困るわ……」
だったらご飯のお供をビンにでも詰めて、ぶん投げた方が楽だわ。……それでいい?
もしくは……豚汁でも作る? 炊き出し的な?
「だったら中身だけ事前準備して、ギルドでうちの料理人と一緒に握ってくれよ。それくらいならレベル低くてもいけんじゃねぇか?」
「あー、それなら、まぁ……マシ?」
料理人の人数にもよるけど、まぁ、いいだろ。リーザ嬢のメンバーに景品渡さないといけないのは仕方ないし……ないし? あれ? 最初、リーザ嬢のパーティに渡せばいいだけじゃなかったっけ? なんでギルド全員に渡すことになってんだ?
気づいたことを桔梗さんに言おうと思ったけど、全身から疲れたオーラを出しているから、ちょっと言いづらい。仮想現実内だから体型変わらないはずなのに、頬もこけているように見えるし……。
仕方ない。やってやろう……。
「あ? 何見てんだ?」
……ちょっとじろじろ見すぎた。
「いや。了解したって言っといて。あー、明日行くって言っといて」
また先延ばしにしたら忘れそうだから、早めにいくことにした。
「お、いいのか? やったな……」
「で、本当は何しに来たんだっけ?」
「あ……」
すっかりご飯に気を取られて、本来の目的忘れてたな? ……珍しい。社畜の分類だから、腹にたまれば何でもいい人かと思ってたわ。
やっぱまずいのは嫌なんだなー。
「今話す? 後にする? そろそろ昼飯の用意したいんだけど」
「あー、後でもいいか? ってか、白狼とも話したいんだ」
「……それってこの前の?」
塔攻略の話か。あぁ、あれから何日経ったっけ? 最近日付の感覚があいまい……というよりも、ない。
これ大丈夫か? いや、大丈夫じゃない問題だ。
今を生きるのに必死だから~なんてわけじゃないけど、日にち数えなくなったらもう終わりだよね。だって、日常生活してて浦島太郎みたいに、あれ? いま何年? とかになったら困る。気を付けよう。
「無理強い厳禁」
とりあえずこれだけは言っておかないとってことで、わざわざ文字に書いてまで主張する。
「わかってるって。……説得は?」
「俺の言葉聞いてた?」
おう、ダメだっつった瞬間から、なんとかして引っ張り込もうとしてんじゃねぇよ。
「だが朗報だ。俺が一緒だったらいいってよ」
まぁ、フタケタの俺なんて入る隙があるかどうかだよなー。
完全に他人事気分でコーヒーを飲む。現実はブラックコーヒーよりも苦いのだぜ。とか適当なことを思ってるけど、やっぱちょっと行きたいよなぁ。ちょっと、てか、かなり。
初攻略者、なんて、ゲーマー心くすぐるぜ……。
「おー、そう言ってくれると信じてたぜ! これで肩の荷が下りた……」
そういってやつは椅子からズルズル落ちていく。
俺の頭は疑問符。
「んあ? なんで?」
「あ? 何でってお前……あぁ、もしかしてレベル低いから入れねーわー、とか思ってたのか? バカだな。お前は強制参加に決まってんだろ」
「ごっふ!!」
思わず飲んでたコーヒーを吹き出す。とっさに横を向いて口を押えたけど、テーブルが大惨事。めっちゃむせたからテーブル拭く気も起きない。
「リアルで飲みもん吹き出すやつ始めてみたわ……。それにしてもきたねぇな」
「げほっ、うぐっ……ちょ、うるせぇ……!!」
目の前の桔梗さんの顔面に吹き出さなかっただけでも褒めてほしい。
「ぐへっ、え、何? 強制? 強制なの? 拒否権ないの?」
「行くだろ?」
「いや、うん、え? そうだけど、え? マジで? なんで? なんでなん?」
俺氏、現在大混乱中。
意味わかんないし、喉痛いし、鼻にコーヒーが入って痛いし、ふぁっ!?
「まぁ、落ち着けよ」
「おっちつけるか、この馬鹿ギルマスがぁ~~~!!!!!!」
俺思わず叫ぶ。ワタシワルクナイ。
「おう、もうお前のギルマスじゃねぇぞー」
「うっせ黙れ桔梗さん!!」
うーん、うーん? 不利益はないけど、これでいいのか感がパナイ。
攻略に参加できる。それは別にいい。ゲームに参加できるのはいいよね。
ハクを連れていくことが決定。まぁ、俺が一緒ならいいって言ってたし、問題ないよな?
現在の状況、帽子屋の茶会メンバーの問題はほぼ解決。問題ないね? もう一つの家の準備とかはまだやってないけど、今すぐ攻略行くわけじゃねぇだろうし。間に合わなくても、少しくらい俺んちでお留守番まかせても問題ないくらいには信頼関係あると思うし、大丈夫だよな。
あー、うん。問題ないね! 強制ってのが気になるけど、まあ行けるし、行きたいよね!!
「あー、うん、ハイ。いきますケド」
「だろ? お前が参加したくないっていうわけねぇし」
「いやー、そうなんですけどー」
やっぱなんか腑に落ちない。掌の上感がすごいし、なんだかなー。
「うーん???」
「ま、そういうことだから頼んだぞ。お前の分析能力に期待してる」
「…………え? いや、俺でしゃばる気ねぇから」
ギルメンでもない、カンスト組でもない、そんな俺の話を聞く気はない、ってやつがいるだろ絶対。だから俺はできるだけ、かかわりまっせ~ん。
「………………あ゛?」
俺の返事は予想外だったのか、桔梗さんからドスの利いた声が漏れる。
対する俺は優雅にコーヒーを啜りなおして、逆に不審そうな顔をしてやった。ちなみにテーブルはコマンド選択で一気にキレイキレイ。……簡単でいいね!
「あんたがリーダーだろ? できる限りの協力はするけど、俺を表に出すようなことするなよ? そうでなくとも俺の評判は悪いんだから」
フタケタ、ハクと釣り合わない、副マスできるほど力はない、とかとか、ギルド内でも新人さんには結構なめられてた。外は言うまでもないけど。
桔梗さんはわかってるはずなんだけどなー。買い被ってくれんのはいいんだけど、それに応えたいとは思わないんだよ、申し訳ない。
「俺はお前がいてくれりゃ百人力だと思ってんだがな? まぁ、仕方ねぇか……。ちゃんと協力はしてくれんだろ?」
諦めを思い出してくれて何より。桔梗さんは念押しで確認してくる。
「耳打ちくらいはするよ」
「まぁ、それでも助かる。特に身内はお前のこと信頼してるだろうかんな」
「サンクス桔梗さん」
温かい言葉でちょっとほっこりする。別にdisられんのは慣れてるけど、やっぱちょっと味方がいるとうれしいよね!
「へーへー。……で、昼飯はなんだ?」
……話題転換はやすぎね? 俺のありがたがった気持ちを返せ……。




