幸せの一枚絵
「まぁ、とりあえずでも仮でもなんでもその家はやるし、それから……そうだな、お前ら二人、明日の朝俺んち集合な。あ、ハクも追加で」
兎嬢とアリス嬢を指さして、ついでにハクの名前もあげておく。
「ごふっ」
ずっと傍観して、ちょっと気まずそうにココアをすすっていたから、不意打ちで名前を呼ばれてハクはむせてしまった。
だけどまぁ、しゃあない。元からこれは計画してたんだもんなーっと。ホントは兎嬢たちの方がオマケなんだが……ま、いいっショ。そろそろ俺も大変だし。
「二人には、家貸すのはこれが条件っていっとく。サブ職業『料理人』をとれ。いや、料理スキルのあるやつなら何でもいい。『メイド』とか、『家政婦』とか『執事』とかだったら全面的に、ある程度抑えられるけど、他のスキルも持てるから、それでもいい」
サブ職で覚えられるスキルの中で、専門的な職になると持てるスキルは限られるけど、成長補正がかかるものがある。つまりはレベルが上がりやすい。
料理人とかの料理関係のサブ職だったら、スキルの料理もすぐ成長できる。でもまぁ、後々のこと考えると専門職より汎用性が高いやつの方がいいかもしれないし、そこはお好みでって……?
「え、あ、あの!? それって料理作れるようにしてくれるってことでいいんですよね!?」
兎嬢がめっちゃ食い気味に、テーブルを叩きながら立ち上がった。
「そーそー。てか、落着け、座れ」
「あ、はいっ!」
自分でも、食いつきすぎたと思ったのか、少し照れながら兎嬢は座った。ま、分かるけど。やっぱ一番の問題はだもんな。自炊できるようになんないとね。
「ハクも、料理できるようになった方がいいでしょ。別に面倒とかじゃないんだぜ? 料理つくんのは好きだし……」
またギルドの時みたいに落ち込んだら大変だって思って、言い訳しようとしたらハクがさえぎってこう言った。
「クロ、大丈夫」
「っ」
んー、やっぱ、ハクさんもう持ち直したっぽいな。これなら心配しすぎなくても問題ないな。
「うん、うん。おーけー」
息子がいつの間にか大人になってた感じ? あー、あんなにかまってかまってしてたのに、もうひとり立ちできるのね。オカーサン悲しいワ……なんつって。
喜ばしいよ、ホント。
「さて、俺はお前らを料理人に育てようと思う。ある程度のレベル、それとスキルがあれば一般家庭の料理くらいなんでもない。はずだ。どの程度か知らんけど、三日で現代日本人の普通の食事くらい作れるようにしてもらうからな。覚悟しとけ」
「いえ、育ててくれるのはありがたいんです。ありがたいんですが!! 三日!? サブ職って育ちにくいって評判じゃないです? しかも料理人!!」
「んなもん、俺の倉庫の中にある大量の食材を、無・駄・に! 使った脳筋レベリングに決まってんだろ」
無駄に、の部分を強調する。まっとうなレベリングだと思われたら腹立つからな。ここで恩売ってやってんだ、ということをはっきりさせた。
この貸しは大きいからなぁ?(ゲス顔
「強制レベリングも同然だ。丸三日、もらうからな?」
思いっきり口の端を吊り上げて、悪そうに笑ってやる。なぁ、もちろんタダでやってもらえるとは思ってねぇよなぁ?
そのオーラを感じ取ったのか、兎嬢が少し身を引いた。心なしか顔が引きつっている。
「対価は何かな?」
帽子屋は楽しそうに聞いてくる。除け者にされても動じねぇな、こいつ。
正直言って、帽子屋はこっちのペースに持ち込みにくくて苦手だ。敵には回したくねぇよなぁ……。
それを顔に出したら、俺が負けるわけだけど。余計ににっこり笑ってやろう。にっこり……(黒
「その前に、お前の仕事。大量消費する分狩ってきて。それでも多分追いつかねぇと思うから、その分は貸な」
「……一人で大量に、食料を……? 一人で……」
金でも請求されると思ってたのか、意外そうに眉をあげる。そしてぼっちでどっか行け、はさすがに寂しそうだ。参加はできなくとも、見学くらい許されると思ってたのかね? ざまぁwww
「んで、貸はあれだ。普通に、俺が手を放せないとき、料理頼んだ。そんだけ」
消費量の方が圧倒的に大きい事を見越して、貸の分を先に言っておく。差額がどんだけになるかはわからない。でも、半分も埋まんないんじゃねぇかなぁ。
「そ、それだけ?」
アリス嬢が微妙な顔で聞いてくる。完全に疑ってます。ひどい……。俺そんな悪い奴じゃないぜ?
「俺もうすでに、やりたいことあんだよ。その分、頼みたい」
隣でハクが喉を鳴らす音が聞こえる。でも、何も言われない。
ちらっと顔色をうかがうけど、顔を伏せてる。どうなんだろ。大丈夫ってことだろうか。別に負担になってるわけじゃないんだ。それを言った方が……いいのか?
迷っていたらハクが顔をあげた。
「やる。料理、いつ?」
お、いつものハク様だ。あぁ、うん、心配しすぎか。さっき持ち直したと思ったじゃん。もう大丈夫。ホントに大丈夫。うん、うん。
「朝……そうだな、今日はかなり遅くなってるし、疲れてるだろうから、遅めにするか。十時くらい?」
「了解」
「あ、あ、わ、私もやりますよ!!」
「僕も!!」
ハクがやると声に出すと、二人も手をあげて参加表明した。
「対価もわかりやすいですし、全然ばっちこいですしね!! 断る理由なんてありませんよ!」
「あ、でも、職業変えるの、それより前の方がいいよね? 今からちょっと行ってくる?」
「そうですねー、どうせなら今行きますかー。朝起きるの苦手なんですよねー」
おっと、それは予想外だった。さすがに今日はもう疲れただろうと思ってたんだが……。
「黒鷺」
「んあ? なに?」
「ありがとう……」
びっくりした。急にマジな感謝された。
軽く笑みを乗せた顔を見て、あぁ、こいつイケメンだなぁとか思ったり。
奇抜なメイクなかったら、普通にイケメンの部類だよなぁ。ふざけたメイクあったほうが慣れてるから、ちょっと、こういうマジなトーン……どう対応していいか困る。
「別に。対価はちゃんともらうしな」
「あぁ。それでも……見捨てないでくれてありがとう」
「……」
なんでこう、ちゃんとした大人対応しちゃうんだよ。俺だって、頑張って大人やってんのによぉ。ナチュラルにこういう行動されると、ムカツク! 悔しいぜ、まったく。
「……泊まってくんだろ? 部屋に案内するよ。あ、寝間着にできるようなやつ持ってる? 無かったら……ジャージでいいならすぐ作れるぜ」
無理やりかもしれない話の方向転換をして、自分の感情を誤魔化す。じゃないと八つ当たりしちゃいそうなんだもんなぁ。
「ワンピース……大丈夫?」
いまだにちょっと不安そうなアリス嬢が、上目づかいにギルドメンバーを見やっている。それを兎嬢は満面の笑みで受け止めた。
「好きなかっこうしたらいいんですよ! 嗤うようなやつがいたら、私がぶん殴ってやりますからね!!」
「じゃあ私はそんな奴らを氷に閉じ込めてしまおうか……。あ、いや……煉獄の焔で焼き殺してやろう……!!」
「「「ごっふ!?」」」
横でギルドの微笑ましい会話をしていたと思ったんだけどなー。おかしいなー。いつの間に厨二病の話になったんだ? 煉獄の焔って!! てかその二つはハクの得意分野なんですがそれは。
ちなみに俺と兎嬢とアリス嬢が噴出した横で、白狼様は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。純粋培養ちゃんめ!!
「こういうのが流行りだと聞いたんでね。笑ってもらえたようで何よりだ」
涼しい顔して笑いやがるこいつの顔面に、この拳を叩き込みたい。
「あー、はいはい。じゃあ、適当にさっさと準備して。早めに寝なよ? 疲れてるだろうかんな」
そこで今日はお開き。帽子屋以外の二人は、ちゃんとジョブチェンしてから休んだらしい。
朝起きて、三人がなかなか起きてこないなぁと思ってたら、三人仲良く一部屋で雑魚寝していた。
いつも布団で寝ているというアリス嬢の希望で、大きめだったが畳の部屋を貸し出そうとしたんだけど、紅一点の兎嬢からの三人一緒に寝ようという提案から、なんか一塊になっている。布団はちゃんと三人分用意したんだけど……いらなかったかな?
アリス嬢を中心に固まって寝てるのを見て、正直、親子か!! とツッコみたい衝動に駆られました。けど、あまりに天使の寝顔だったので我慢しました。
仕方ないのでもう少し寝かせてあげることにしましょう。くっ、これが温かい家庭か!!(違う
風邪ひいたりはしないだろうけど、気分的にあれだから、大判のタオルケットをかけてそっと部屋を出る。
ハクに事情を説明して、ひっそりとした二人の朝食に。……いや、いつも騒がしくないんだけどね!
「クロ、大丈夫?」
「大丈夫。ハクは? ごめんなー? 急ににぎやかになっちまって?」
「にぎやかなの、別に嫌いじゃない」
「そ? よかった」
とか雑談して過ごす。
うーん、時間がゆっくりしてるみたいでいいね。やることはまだあるけど、なんか、落ち着くぜ。
あぁ、やることはいっぱいあるんだけど……。
「……ハクサン、ハクサン」
食後にゆったりしてる時、聞きたくないけど話進めないといけないから、仕方なく口を開いた。
「?」
「あー、この前元ギルマス来ただろ?」
「……」
「うーん、大規模攻略作戦? あれ、出る?」
「……」
押し黙ってしまった。どうしようか……。
てか、あの時のごたごたがついでによみがえってくるから、あんまりこの話ししたくなかった感あるのだよ……。
「……クロは?」
ようやくハクが口を開いたのは、十分後くらい? ……長いなっ!?
「お、俺……? うーん、元ギルメンだけだったら出れたかもしれないけど、たぶん半分くらいいろんなとこから募集してんだろうから……『フタケタ』は認められねぇんじゃないかな?」
レベルだけ見たら確実にザコだしなぁ。カンスト勢もたくさんいるのに、何でカンストしてない俺を採用するの? みたいになるだろうし。
難しいよな。
「じゃあ、嫌」
「嫌って……」
子供が拗ねるみたいに、そっぽ向いて簡潔に拒絶する。
Oh……元ギルマス、こりゃ無理っぽいぜ? でも何とかしろとか言われんのかしらーん? 正直ハクの戦力って運営側から見てもおかしいくらいに強いんだもんな……。
調節はいったりしたみたいだけど、なんか変わらなかったって聞いたことがある。てか、バグも何もなかったらしいけど。本当、どうなってるんだろうね?
「クロいない、なら、行かない」
ちょっといじけた子供みたいな言い方に、あっさり諦めることに決めた。
「じゃあ、そういう風に言っておくよ」
それで話はおしまい。他に言うこともないしな。報告して、なんか言われたらちょっとお願いしないとだめかもだけど。
あー……俺は行きたいっちゃ行きたい感もある。やっぱハジメテって、わくわくするもんなー。未知のものはドッキドキだぜ。
ま、無理だとは思うけど。入るだけタダなら、一人でちょろっと行ってもいいのか。ちら見だけできたら……うーん、デスペナルティの方が重いかな、それくらいなら。
もっと小規模のダンジョン……こっから出たら運営さん、期待してるぜ?
……その前にサービス中止かな。泣ける。
「はぁ……」
「?」
急にため息をついた俺をハクは不思議そうに見つめた。




