料理のいろは
昼過ぎに帽子屋たち三人は、やぁっっっっと! 起きてきた。
おう、こっちはもう昼飯も食い終ってんぞ。さすがに遅すぎね?
「よぉく、眠れたみたいだなぁ?」
「う、す、すまない……」「す、すみませ~ぇん……」「ごめんなさい……」
皮肉を言ってやると、三者三様に謝ってくる。
ま、起こさなかったのは俺だし。怒ってるわけじゃねぇけどさ。教える期限は変わんねぇよ? って話。
「ほれほれ、座れよ。チャーハンでいい?」
昼飯チャーハンだったんだよなー。ぱっと見簡単だけど、本気で作ろうとすると難しい。パラパラさ加減とか。
まぁ、こだわらなければ? ただ炒めた味付きご飯なんですけどね!?
「さて、これから料理教室やってくぞー」
「「はーい!!」」「……」
三人が飯食い終ったら、すぐに帽子屋を追い出して、アリス嬢と兎嬢とハクと一緒に厨房に引っ込む。
アリス嬢はいつもの青いワンピースに、本物の白いフリルエプロン姿。兎嬢もいつものブラウスとパンツスタイルだが、それに加え、今は緑チェックのエプロンをつけている。
ハクはスウェットがお気に召したのか、汚れてもいい服と言ったらそれを着てきた。うん、なんだろ、コレジャナイ感。いや、気にいってんならいいけど。うん。
あ、ハクは青いエプロンに、ひよこのアップリケ付きで。……ちょっとした悪戯心だったんだが、スウェットと合わさって、なんか俺がイメージする幼稚園の先生みたいになってる。うん、似合ってるよ、うん……。
正直汚れとか気にしなくていいんだけど、雰囲気は大事だろっていう自論から、エプロンを支給した。俺は形から入るタイプなんだ!
あ、ちなみに俺は紺のシャツに、黒のズボン。エプロンは黒のカフェエプロンです。……ハクにはカフェエプロンが似合いそうなんだけどな。
「なんでこんな、お店みたいな厨房があるんですかねぇ?」
兎嬢が厨房に入ってきた瞬間、周りをじろじろ見ながらいぶかしげに一言。
いや、気持ちはわかる。だって俺も作った後そう思った!!
「ほら、だって俺……料理人ジャン?」
正直、それとワルノリの産物デス。
「それが理由ですかぁ? 理由になってます?」
「でもほら、今役に立ってるし……」
「そうなんですけどぉ……ゲーム時代にこれ作ったって……」
笑うしかないな。そんな変人。
兎嬢の視線が雄弁に語りすぎて、痛いぜ……。
「んなこたぁどうだっていいだろ!? それより今は、全力で食材を無駄にすることに集中しろ!!」
このセリフだけだったら、俺どんな悪い奴なんだろうなって感じ。
「いい? アリス嬢と兎嬢は、ひたすらコマンドで高レベルの料理を作っていく。失敗しても経験値入るから、最初はそっちの方が効率がいい。俺もちょっと昔すぎて、どのレベルで成功した方が経験値多くなるか覚えてない。だからとりあえず最初の目標は十から十五だ。たぶんすぐ……三時間もあれば到達できると思うから、その辺になったら教えてくれや」
そう言って厨房の台にレシピと材料を置いて行く。十レベルくらいまでの材料は余裕であるはず……。高レベルだから食材もレアものなんだよなぁ。マジでこの貸は高いぜ……?
そうやって必要なものをそろえていくと、不意に服の裾が引っ張られた。
「んぁ?」
「……????」
振り返ったら混乱した表情のハクが目に入る。
「あ、あぁ! ハクはちょっと待ってな? また別に、な?」
「……」
ほっとしたように引き下がってくれたので、俺もにこっと笑って説明を続ける。
「えぇっと、材料はここに置いとくけど、なくなりそうになったら補充するつもりだ。置き切れねぇからな。後は、まぁ、なんかあったら聞いてくれ」
「「了解」です!!」
と、言うわけで、二人の作業ゲーは始まったのだった……。
二人をちら見して、とりあえずは大丈夫そうだと確認。
「よっし。ハクはこっちな。カムカム」
厨房中央の台のはじっこにハクを呼ぶ。
「ハクは料理したことないだろ?」
無言でうなずいた。
「だからまずは包丁の使い方とか、そういう基本を教えてくな?」
「ん」
ハクに普通の包丁を渡すのは怖かったので、まずは小さい果物ナイフを渡す。
「あー、ハク、右利きだよな?」
頷く。
「じゃ、左手は猫の手、って聞いたことある?」
首を横に振る。
「そっか。切るものを押さえる時、押さえてる指が伸びてると、切っちゃうから? だと思うんだけど、てかそうなんだけど、指を丸くするんだと」
小学校くらいで習った気がする、家庭科の教科書を脳内で引っ張り出して教えようとした。けど、俺実際にやってないんだよなー! だから覚えてねぇんだわ!!
「……そう?」
ハクも不思議そうな顔して首をかしげる。そうだよね! 隣で手伝ってもらったりしてるけど、俺そんな猫の手やってないもんね!!
教える人がやってないんじゃぁ、ホントにそうなの? って感じになるよね!!
「いや、うん、でも、まぁ、そうなんだって!」
「説明下手ですか黒鷺さーん!!??」
さすがに見かねた……聞きかねた? 兎嬢が指は動かしたまま、こっちを振り返ってツッコんできた。
「猫の手にするのは、ほら、指を伸ばしてたらバッサリいくでしょう? 指先を丸めてたら、第二関節の部分が削げるくらいで終わるからいいんですよ!!」
>>削げるくらい<<
「そ、それも違うと思うよ……?」
アリス嬢がこわごわツッコんでくれた。よかった。
まともに教えてくれるのかと思ったら、兎嬢もよくわかんないこと言い出した。ちゃんと教えられる人がいないかもしれない。くっ、こうなったらもうどうでもいいから、自力で覚えてもらうしか……?
「えぇっと、僕が習ったのは……確か包丁誘導のために猫の手にするんだって話だったけど」
ああ、めっちゃまともな回答がアリス嬢によってもたらされた!!
「なるほどー。危ないとか言われるより納得ですね!」
「だ、そうだ、ハク。アリス嬢先生の答えがまともだから、そういう風に覚えてくれ」キリっ
「「……」」
適当な女二人に、ハクサン困惑。アリス嬢苦笑い。
「まぁ、怪我しないように操れればいいんだよ!」
「そうですよ! 感覚的にやるもんですよ、料理なんて!!」
って、感じの適当具合で料理教室は進んでいった。
夕方くらいになって、キッチンの方に引っ込む。ちょっと包丁を使い慣れてきたハクと一緒に、夕飯の準備に取りかかった。
帽子屋ギルドの二人は思ったよりレベリングが進まなくて、材料の消費が激しい。帽子屋が何度か補給に帰ってきてはいるけど……これちょっと厳しいかな。
明日は俺も行くことにしようか。レシピも少し変えないと。それで足りるかな……? 低レベルでこんなに育たないなんて、かなり想定外。
困ったもんだ、と思いながら、ハクが切った野菜を煮込んでいく。今日はカレーだ。甘口以外認めないからな。
ハクは切るだけのサラダを作っていく。これくらいなら一レベで足りるんだけどなぁ……。やっぱ経験値はしょっぱい。
今日ずっと包丁に触っていたハクと、コマンド選択の二人。比べると差ははっきりわかる。んー、まだコマンド選択の方が成長率良いんだよなぁ。材料と相談しながらやってくしかあるまいよ。
「クロ」
「ん? どうした?」
ぼんやり考え事をしていると、ハクが呼びかけてきた。
「材料足りる? 少し狩ってきた方がいい?」
「大丈夫、たぶん……。足らなかったら俺行くし」
ハクの方が一気に、大量に狩れるから向いてるんだろうけど、俺もやれないわけじゃないしなぁ。帽子屋はどっちかというとソロ向きではないから……あいつと組めばそれなりに仕入れはできると思うんだけど。
「ん。足らなかったら、言って。やる」
「あんがとなー」
ハク……控えめに言って、大天使。
癒されながらカレーを仕上げた。
今日の成果。
兎嬢、『メイド』。料理レベル八。
アリス嬢、『執事』。料理レベル七。
ハク、『執事』。料理レベル二。
上級レシピの材料、残り半分? 二人のレベルが十になったら、早めに切り替えた方がよさそう。
上級レシピ、成功率0%。レベル十になったら、低級レシピの成功率50%は超えるだろうから、成功ボーナス経験値と比べてみるべし。どっちの経験値の方がしょっぱいかな。
上級諦めて、中級と低級混ぜてやってもいいかも。
料理失敗によるゴミ色々を再利用して、爆弾作成。とりあえず帽子屋にでも持たせてみる。ちょっと引いてたけど、殺傷能力は高いから無問題。……料理から作れる爆弾、とは……。
明日は午前中、帽子屋と一緒に材料狩ってくることにする。
残念ながら、帽子屋連中はずっと泊まり込むようだ。これ、料理教え終っても、風呂ないからとか言って延長されそう。早いとこ設置しないとな。
「んー、ま、こんなとこか。まだやることはあるけど……あー、桔梗さんにメールも入れとかねぇとなー。はぁ、頑張れ俺……」




