え? 俺もチート? んなこたないですよ(笑)
アリス嬢との勝負は物理戦。ま、要するに殴ったり蹴ったりっていう接近戦の事ね。魔法でも物理攻撃として入るやつがあるけど、今回は本物の物理攻撃だけって言う設定。
特に、三十匹の魔物をどれだけ早く倒せるかっていうスピード戦も一緒にやることになったから、ただ物理攻撃ができるってだけじゃだめで、むしろ一撃で殺せるくらいの攻撃力がないとだめな感じかな。囲まれたらダメだし。
アリス嬢の職業は『憑依者』。調教獣を自分の体に憑りつかせて自分が戦う系の特殊タイプ。調教獣によっては回復とか魔法も使えたりするようだけど、アリス嬢の使う調教獣は純粋な接近戦特化型。ありゃ完全に戦士系統と同じだぜ。よって、物理戦だと普通、紙防御・紙物理攻撃力の魔法職は分が悪すぎる。
普通は、ね★
結論から言おうか。俺の圧勝♪
「お、おかしいじゃんか!! クロさんは純粋な魔法使いだろ!?」
闘技場で条件設定をしてるからズルはできない。それはわかってるけど、俺が互いの戦闘状況を見られないようにしたからアリス嬢はご立腹だ。何があったかわからないもんね。そら納得できませんわぁ。
だけど俺はニヤニヤ笑ってごまかした。
「さて、どうでしょう?」
ステ振りは完璧に魔法使いそのものだけどな。一番振ってるのが、素早さ、次に魔法攻撃力か。防御は両方無視。……典型的な紙防御。
だけども俺は単純な物理攻撃力が試される戦闘で、モノホンの近接戦闘特化型に勝ってやったぜ、いぇーい。
「サブ職? いや、上位職? そういえばクロさんの上位職聞いたことないような……」
「非公開っでぇーす」
「何? 実は魔法剣士とかなの!? でも剣持ってないし……まだ見たことない新しい上位職!?」
新発見にちょっとわくわくしてるところはあれだな、やっぱりゲーム好きだよなぁ。
「結構前からこの職業だけど、確かに同じ職業の奴見たことないな。……てか、上位職多すぎて一回しか見たことないのも多いけどなぁ?」
充実すぎるゲーム職の罠! おかげで専用の装備とかないんだよな……。寂しいぜ。
専用の装備があるとこの紙防御もいくらかマシになると思うんだけど……逆に何でこんなに職業増やしたし!? 楽しいですけどね!?
「なんでそこまでもったいぶるんだよ! おーしーえーてーよー!!」
駄々っ子のようにじっとこちらを見つめるアリス嬢……。
可愛いんですけど!? これマジで少年か!? 今ずたぼろだけど、コンディション整ったらどんだけだよ!? くっそ! 俺のまわり美形多くねぇかこの野郎っっっ!!
「おしえませーん。俺の上位職マジ数人くらいしか知らないんだぜ? どんだけ頑張って秘密にしてると思ってんの!」
「だからなんでそこまで秘密にするかなー!!」
「目立ちたくねぇの! で、約束は約束! ほら、俺んち行くぜ?」
フードを被って闘技場を出る。
こんな状況だから、闘技場には人っ子一人いなかった。いつもなら訓練してるソロとかギルドとかいろいろいたり、その試合を見て賭け事してるやつらもいたりしてどこの闘技場もにぎわってんだけどなー。
「あれ、帽子屋さんのとこに行けって言うんじゃないの?」
アリス嬢は嫌そうな顔をしながらも、意外そうに目を見開いた。
素直についてきてくれてよかった。これでまた逃げられたらマジでどうしようもなかったわ。ちょっと心配してたんだよね。
あれかな、やっぱり人恋しい的な? ……それともご飯かな? なんでもいいや。第一関門突破。
「俺んちに集まる系。んでそのまま夜飯くってけ。風呂もあるし、泊まってく? ハクいるけど」
「……」
返事が聞こえないから後ろ振り返ってみると、思いっきり口を開けた間抜け面が目に入った。
「え、アリス嬢?」
「あ、いや、えっと……いろいろ情報が多すぎた……」
「?」
……あー、はい、ハクが俺の家見た時と同じ反応してんなー。
「ご飯、食べていっていいんだ?」
「もちろん。なんかリクエストある? 嫌いなモノとか?」
「……でも狼さん」
「ハクも別にアリス嬢の事なんも言わないぜ?」
「あの人、他人に興味なさそうだもんね。って、そうじゃなくて……邪魔、じゃない?」
あ、そういう? ハクの方を気にしてくれたわけ? やっさしぃ~。
でも興味ないわけないと思うけど……。いや、そこまで興味あるわけじゃないとは思うけど、心配するくらいには興味あるよ、たぶん。そこそこ知り合って長いし?
「ハクは……コミュ障なだけだから生暖かく見守ってやってほしい。別に人間嫌いってわけじゃないらしーからよぉ」
「え、あ、そうなんだ?」
なんか違う気がするけど、とアリス嬢はぶつぶつ呟いていたけれど、それよりも俺の中での一番の問題は。
「で、リクエストあったら言ってほしいんだけど。材料なかったら買って帰んなきゃだし?」
んー、そのまま食べてもおいしいやつはもう売ってないけど、加工するしかないやつは残ってるだろうし……。まぁ、ほとんど取り揃えてるけどね!
「あ、え、えっと……に、肉食べたいな……」
「お、おう……」
ダイブ幅があるんだが……何でもいいかな? んー、庭でバーベキューでもするかぁ?
んー、材料は問題ないはずだけど……む、バーベキューって、たき火でやっていいのか? あんなセットさすがにないぞ?
やっぱステーキとか? んー、焼き鳥? ビーフシチューとかもいいな。あ、時間かかるか。
「うー、ごめんなさい」
「え?」
メニューを考えていて反応が遅れたが、どっちにしても突然謝られて反応なんてできないよねっ!
「なしたんアリス嬢?」
なんだかデジャヴ……あ、ハクか。なら対策は問題ないね! ハク以上がいるとは思えんぜ!!←
「引きこもってたくせにご飯につられて出てきちゃうし、リクエストまでしちゃうし……」
「それは俺が聞いたんだけどなー……」
「うぅ~……」
ハクで学びましたよ、こういう時はしばらくうじうじしますからね! 今日はめんどくさいからさらりと流させてもらうぜ。
ちょうどいいから帽子屋たちに連絡を入れておく。あ、肉料理のリクエストも聞いておこう。
おわっ! 三月嬢から即行返信来た。
『私兎さん。今あなたの家の前にいるの。洋食』
……メリーさんか!! 兎さんって程可愛くねぇしな、あいつ。てかメニュー洋食って幅広いなこの野郎!!
次は帽子屋。
『私帽子屋さん。今あなたの家の前にいるの。というらしい。夕食は温かいものがいいな』
最初絶対三月嬢の入れ知恵だろ。という、らしい、ってオイ。てか、温かいってなんだよメニュー!!
あいつらに聞いたのが間違いだったとため息をつきながら、アリス嬢に報告。
「アリス嬢。あのばか二人、俺ん家の前で待ってるって」
「え……」
教えた途端に真っ青になるアリス嬢。集合って知ってても、やっぱ実際に聞くとびびるもん?
「一緒に夕飯食うことになってる、けど、家に入る前にとりあえずさらっと話してくれる? それで問題あるようなら二人は家にあげないから」
「え?」
「仲間傷つけるようなやつらに食わせる飯はねぇってことよ」
昨日みたいな言い合いを、アリス嬢の目の前でさせるつもりはない。それを分からない屑ではないだろうけど、傷つけるようなことがあるなら、引き離すことも考えてる。だってありえんでしょ?
「い、いいの?」
「逆になんか問題あるわけ?」
呆然としたアリス嬢の背中を軽く叩く。
「俺は少なくともアリス嬢の味方するんだから、それくらいしてとーぉぜん♪ さ、さっさと家行くべ。あ、やつら洋食とか温かいものとか言ってるけど、アリス嬢もっと詳しいリクエストはある?」
『迷いの森』に到着。あの後ハクからもメールが来て、『お疲れ様。夜ご飯は温かい肉料理? 鶏肉のクリーム煮とか? がっつりならやっぱりハンバーグとか、かな?』という、とてもまともな返事で心が温まりました。奴らとはえらい違いだ!
しかもそこでステーキじゃなくてハンバーグなところもイイ。その前が鶏肉なところもイイ。……女子かって言うね! 俺の偏見か?
ともかく夕飯のメニューはハンバーグになりました。材料は家にあるから買い物はなし。
「んー、やっぱデミグラスか。めんつゆで食うのもうまいけど、アリス嬢はどう?」
「めんつゆ!? めんつゆで食べるの!? てかめんつゆあるの!?」
結構帰るまでの道のりが遠くて、たくさん話したからか、アリス嬢の態度がかなり軟化した。普通に笑って話してくれるのが嬉しい。ただのゲームの時はキャラ作ってたしね。こっちのが親しい感じがしていいかもな。
「あるぜー。調味料は一通りそろってる」
ちょっと自慢気に言ってやると、アリス嬢も本当に明るく返してくれる。
「わーわー! すごーい!!」
「小さく作っていろいろ試してみる?」
「ホント!? やった!!」
「んじゃーデミグラスとー、めんつゆとー、あとは……」
「大根おろしとポン酢!」
「和風か。いいねー。アリス嬢は和食好き?」
「うーん、家は結構和食派だった、かな? 洋食も好きだけど」
「そっか。んじゃ、今度は和食つくんべ」
「やったー!」
「黒鷺さーん!!」
食事の話に華を咲かせてたら、三月嬢の大声が聞こえてきた。すぐにアリス嬢の顔が強張って、俺の後ろに隠れる。
うー、さっきまでめちゃくちゃ笑顔だったから、余計痛々しい。
「黒鷺さん黒鷺さん! アリスは!?」
ぴょんこぴょんこと音がしそうな勢いで近づいてきやがったので、近くの石を蹴り飛ばして威嚇する。足癖悪い? きにすんな。
「うるせぇ。アリス嬢が怯えんだろ」
「あ、す、すみませんっ!」
「黒鷺」
急ブレーキをかける三月嬢の後ろから帽子屋も姿を現した。こっちは一応表面的には落ち着いてる?
「アリス嬢、ちゃんと話さないと。な?」
「う、うん……」
ちょっと背中を押してやれば、俺のマントの裾は放さないが、ちゃんと前に出てきた。そして深く息をつき、マントからも手を放す。
「話せる?」
「……だいじょう、ぶ」
顔色は悪いし、歯切れも悪い。けど背筋をぴんと伸ばして二人を見ている。
……うん、大丈夫。アリス嬢は大丈夫。
そう確信して俺はアリス嬢の耳元で囁いた。
「俺夕食の準備してるから、何かあったらあそこの家に入れよ? ドアはあの現代チックな……」
「すいませんお屋敷が見えます」
俺の言葉をさえぎってアリス嬢が早口につっこんできた。
「おー、たぶんそれが俺んちだー」
「!?」
首が取れそうな勢いで振り返ってこられても~……。なんでみんなそんな反応すんのかねぇ。確かに一人暮らしじゃあれかもだけどさ、ファンタジーでならありえなくもなくない?
「いえ、ありえませんよ?」
「心読まないでくれる三月嬢?」
「読むまでもなくわかります」
ま、真顔でそんな……。帽子屋も後ろで頷いてるし……。
「まぁ、じゃ、俺行くから。ちゃんとしてな?」
「わかっているさ。昨日のような愚行はおかさないよ」
「大人のヨユーみせてやりますよ!!」
気合十分な二人に、逆に不安になる。空回りしなきゃいいけど。
三人に軽く手を振ってから、俺は自分の家に帰った。




