ご飯の価値はかなり高い
「はてさてアリス嬢よ」
「なんだよ!!」
怒れるほど元気になったようで、俺はニヤニヤが止まりません。しかも少年っぽい喋り方で……キャラが作れないほどの素ってことで、お姉さん喜んでいいですか? いや、もう喜んでますけどね!
ニマニマしながら話を続ける。
「俺は黒鷺です」
「それが何!?」
「何かおっかしーと思わねぇの?」
フードは直してない。ついでに今日は装備をただのゲーム時代のものに戻しております。つまり体にフィットした服ってことね。マントはしてるけどさ。
……これで性別わかんないって言ったらさすがに泣くよ俺!? いや、女扱いしてほしいわけじゃないけど、これでも女です感あるんだぜ!?
「…………あ」
さっきまではそれどころじゃないのもあって気が付かなかったのはわかる。そのままいきなり聞かれたから頭の中?で埋め尽くされて気が付きにくかったのもわかる。けどさ、大分時間かかったね!!??
「クロさん、女の人だったの……?」
「そうそう……。ついでに外歩くときは姿隠してるし、あんまり知られないようにはしてるかなぁ」
「……だから何? 気持ちわかるよとか言いたいわけ?」
ネナベってこと明かして、少し驚いたようだったけど、すぐまたつんつんとした態度に戻ってしまった。
むふふー。必死に威嚇してる小動物みたいで可愛いぞ?
「いんや」
「じゃあ何?」
「んー、とりあえず、信用度あげられるかなぁって思って。装備とかは誰だお前ってなるかもしれないから前に戻しただけだけど」
「ふーん」
まだ反応してくれてるだけマシ。そう思ってめげない! だいたいほぼ無反応ってのはハク様で慣れてんだよ! コミュ力が無駄に鍛えられた俺をなめんな!!
「……レモンはともかく、ココアは美味しかった?」
「……なんでまともな味がするの」
「あ、一回は挑戦してみたんだ? それはよかった」
あの激マズ味を知ってるってことは、食べようって思ったってこと。食べようって思ったってことは生きようとしたってことだろ? ならマシ。そこらに転がってる餓死者よりマシ。うん。たぶん。
「なんで味がするか、ね。たぶん料理スキルの問題かな」
「ふーん……」
下を向いていたアリス嬢は、床に散らばってしまった食べ物を残念そうな目で見た。ほのかに肉とか調味料とかの匂いもするからな、自分で言うのも何だが、美味しそうだぜ。
「たくさん作ってきちゃって、まだあるんだけど、アリス嬢食ってくれる?」
「え……」
「ペッパーベーコンサンド、卵サンド、ハムレタスサンド……とかとか。ちなみにおススメは、めんたいポテトサラダ」
「……」
言葉には出さないけど、ちゃんとこっちを向いて目を輝かせてくれたのがわかる。
床に落ちてた食べ物を消して、新しくバスケットを取り出して机に置いた。水筒もね。
……アイテム欄でゴミとしてひとまとまりになったやつらは、帰って肥料にでも調合しよう。モッタイナイ。
「飲み物はジュースから牛乳紅茶コーヒー何でもアリ」
「……」
「ココアでも飲む?」
いきなりメニュー並べても思いつかないよな。ってことでさっき飲んだやつを言ってみる。
「……」
こくりとうなずいた。少しでも前向きになれたようで善き哉善き哉。
カップにもう一杯分ついで、バスケットをアリス嬢の前に差し出す。一つ手にとってはくれたけど、じっと見つめるばかりでどうしようか。
「俺も食べよ……」
朝はごたごたしてて飯抜きだったんだよね……。ひもじい……。
俺がめんたいポテトサラダサンドを取って一口食べると、アリス嬢もこわごわとだけど小さくかぶりついた。選んだのは卵サンド。
んー、これはお母さんが食べると食べはじめる的な子供の心理?
「……おいしい」
小さな、本当に小さな声で呟かれた言葉に、ニヤニヤが深まる。
「あ、まじで? ありがとう。ほら、もっといっぱいあるから食べて食べて」
それからは無言で、でも次々とアリス嬢は食べすすめた。十個くらい入ってたけど、俺が一個食べてる間に全部なくなってしまう。
うーん、若さ? それとも性別の違いか……? 食べごたえ優先して、パンのミミは残したままだったんだけどなー。
俺は一個で十分デス。お腹いっぱいアルヨ。耳って腹にたまるよね!
「ココアおかわりいる?」
「ください」
「どーぞ。クッキーはないけど、チョコがけラスクならあるよ。食べる?」
「……」
可愛い袋に詰められたラスクを差し出すと、こっちを見ずに上向きの手が伸びてきた。
クスッと笑ってその上に袋を落としてやる。
……ココアとチョコラスクって、甘すぎね? 渡してから言うのもあれだけど、牛乳とかついでやったほうがよかったかなー。
サクサクと食べる音がやんで、ふぅっと息をつくのが聞こえる。
「……おいしかった」
こぼれたパンくずやラスクの欠片をスカートから払い落したアリス嬢は、そう言ってくれた。
いい食べっぷりだったなぁ。うんうん、料理人冥利に尽きるぜ(?)♪
「お粗末さん♪」
「ご、めんなさい……」
何かに耐えるように、眉間にしわを寄せてアリス嬢は突然小さくそうこぼした。
「せっかく、だったのに……」
お腹いっぱいになって余裕ができたのか、アリス嬢はさっきの事を謝ってきたようだ。
「それぁ、構わねぇよ。無理したのは承知してるしな」
「でも……」
「おいしかったって言ってくれただけで満足さぁね」
本心。うむうむ。最後はちゃんと食べてくれたしね。問題ないさ。
「……少しくらいは、元気出たか?」
食べることは生きること。おいしく食べていただいたから、少しくらいは生きる気力はわいていてはくれませんかねぇ??
「……だって、気持ち悪いじゃん……」
「?」
落ち着いてはくれたのか、だんまりよりはマシだけど、突然の言葉で理解が追い付かなかった。
「んーっと……?」
「クロさんはいいじゃんか。別に、女の人が男の格好しててもかっこいいとか言われるだけじゃん。クロさん似合ってるし」
これは……ありがとうとか言うべきなんだろうか?
違うよね! ごめんね! すぐに脳内がギャグ路線を求めちゃってね!!
「えっと、アリス嬢……?」
「僕は違うんだよ。気持ち悪いとか言われてさ。男が可愛いなんて言われるものじゃないし。別に普通に女の子好きなのにホモキモいとか言われるし」
……これ、もし復帰できたとしても三月嬢に会わせて大丈夫か? BLにトラウマあったらアウトじゃね……? あいつ腐女子やぞ? てか、すでにネタにされてたきがす……げふんげふん。
「別にそう言うのは勝手にやってればいいじゃん。あいつら何も知らないでさ、ただの悪口に使ってさ。本当にありえない……」
「勝手に? 偏見とかはない感じ?」
「僕には当てはめてほしくないけど、それ以外は関係ないし。……じゃなかったら三月さんと一緒にいられないよ」
しってたんかい!! あいつ意外とオープンだな!! てか何言ってんの!? つか、そーゆーのは隠さないくせになんで作家ってことは隠すのかねぇ……。
「……僕別に可愛い恰好が好きなだけなのに、なんなのあいつら……」
おk、ただの女装癖的な? ……少し言い方悪いか? むずいな。
「アリス嬢、俺別にアリス嬢と普通に話してると思わねぇ?」
「……」
まただんまりかよ……。
「帽子屋も三月嬢も、きっと俺と同じように態度は変わらねぇと思うケド?」
三月嬢に至ってはある意味バッチこーいな雰囲気あるけど……あ、そりゃ駄目か。それが嫌なんだもんな?
……かえって釘刺しとかねぇと……。
「……保証なんてないじゃんか」
もう何も信じませんって顔でそう言ってくれやがる。ねぇ、何軽くそんな表情してんだこるぁ? てめ、まだぜってぇ子供の部類だろ? はぇえわ!
「ずっとこのままでいる気かよ?」
「……」
アリス嬢はだんまりを通すと言う意思表示なのか、膝を抱えて丸まってしまった。
自殺うんぬんというより、とっとと外行かせた方がいいなぁ、こりゃ。
「なぁ、賭けしねぇ?」
「……」
「ご飯美味しいって言ってくれたんなら、アリス嬢が勝ったらここで、ゲーム内にいる間ずっと飯作ってやるよ。もう外行けなんて言わねぇしさ。そしたら普通に話せる俺は貴重品になんだろ? ど?」
「負けたら、なに? というか、なにするの?」
亀が頭を少し出すように、ちらっと視線がこちらに向けられる。
ちょっと興味出てきたね。むふふ、計画通り……! やっぱり現実世界のご飯に慣れてたらそうそう飯まずに戻れねぇよなぁ。んで、そこに餌釣れば……ないーすふぃっしんっ!!
てか、こんな計画通りなんて……そんなにご飯の価値高いのか……。ゲーム世界の飯まず事情はよっぽど深刻だな。
「そうさなぁ、アリス嬢が負けたら帽子屋たちんとこ帰れって言うな。で、なにするかっつったら、アリス嬢が勝てそうなやつでいいぜ。何がいい?」
「え、僕が決めるの?」
さらに亀さんの首が伸びてきた。このままこのまま。絶対に何とかする。亀さんの甲羅は超絶固いから、しかも無理やり引っぺがすと中身もずたずたになっちゃうから、慎重に慎重に。
首ひっつかんで引っ張り出してやっかんな。
「トランプでもチェスでも、外に行ってもいいなら戦闘でもいいぜ? 人が来ない狩場なんて、いくらでもある」
「……わかった。物理戦。ここの向かいは闘技場だから、そういう設定もできるでしょ」
……かかった!




