交渉よりも確実な手
はい、わたくし、今どこにいるかと申しますと……アリス嬢が潜伏しているであろう宿屋の前でございまぁす! しっかり不審者装備だぜ!! あれこれ追い返されないよな??
……はぁ、こうなるこたぁわかってたからいいんだけど、それはいいんだけどよぉ……。
昨日の帽子屋との作戦会議、結論お前の方が色々わかっていそうだからという理由で俺が行くことに。
「はぁ!? 何言ってんですか帽子屋さん! アリスは私たちの仲間なんですよ!?」
もちろん兎嬢は寝ぼけたことを抜かした帽子屋に猛反発。ばんっと机をたたいて立ち上がった。
「私は逃げられたよ。逃げたし逃げられた。君は向かい合えるのかい? 逃げてしまった君に」
帽子屋は冷静に痛いとこ突いてくる。
「っ! でも、向かい合おうとしないとだめじゃないですか!!」
「好感度マイナス状態で向き合おうとしても相手が逃げるだろうよ」
「でもっ!!」
「あぁ、正直言わせてもらうよ! 私がもう一度逃げられるのが堪えられないんだ! あの時の無力感は君にはわからないだろうさ! けどな、私だって何とかしようとしたんだよ!!」
「もう一回くらい頑張りましょうよ!!」
「君は頑張ろうともしなかっただろう!?」
「あの時は確かにっ、でも、今は違……っ!!」
「あー……女性を泣かすのはどうかと思うぞ、帽子屋」
兎嬢の目が潤み始めたのを見て、傍観を決め込んでいた俺も仕方なしに口をはさむ。
「……」
はっとしたように視線をそらされる。
「兎嬢も、ちょっと落ち着け」
背中に手を添えて座るように促す。
腰を下ろした兎嬢はそのまま顔を下げて、何かに耐えるように震えている。膝の上にある拳がぎゅっと握られて白くなっていた。
「あんたらねぇ……人んちで暴走してんなよ」
「すまない……」「……」
帽子屋はともかく、兎嬢がさらにしょんぼりと縮こまってしまった。うぐっ、失敗失敗。
アイテム欄から箱ティッシュを取り出して兎嬢に渡す。兎嬢は黙って何枚か抜き取って、そのまま握りつぶした。
「ちょっと頭冷やしなさいな。一人になりたいなら部屋貸すけど?」
「いや……」
「……」
帽子屋は言葉で、兎嬢は首を振って大丈夫だと示す。
「はぁ……。この状況で行っても仕方ないな。おーけー。アリス嬢のとこには俺がいく」
「「……」」
二人ともだんまりだ。さすがにイラッときちゃうよ俺さん?
「もし、これでアリス嬢が戻って来ようとしても無理だぜ? それはわかるよな?」
「あぁ……」「はい……」
「俺が行くのは決定事項。お前らの罪悪感は知ったこっちゃぁない。謝りたいならアリス嬢自身に向けて、だぜ? お前らがここで争っても無駄。おわかり?」
最後はちょっと海賊映画の主人公をまねておどけてやってみた。
「「……」」
おいこらだんまりか。俺が滑ったみたいになんだろ止めろよ。
「だーもー! 辛気くせぇな!! 俺は今から夜飯の準備をします!! できるまでにそのどんより顔失くさなかったら飯抜きだかんなばっきゃろ――――!!」
そうして俺は厨房の方に引っ込んだ。あれだな、言い逃げ。大声あげたから一応、気にしないでね♡メールをハクに送ることは忘れてないぜ。
夜飯の時には何とか話がついたのか、ぎこちないながらも無駄にはしゃいでご飯食べてたな……。
ちなみに夕食は酢豚と春巻きとフカヒレスープと筍っぽい奴の炊き込みご飯。中華ですね。時間がたくさんあったから、手間かかるやつを無駄に手間かけたので好評でした。ヤッタネ!
とまあ、色々ありまして、アリス嬢とご対面……できたらいいね!
深呼吸を一つして、アリス嬢がいるはずの部屋のドアをノックする。
宿のグレードとしては下の下。おんぼろい安宿だけど、それでも無いよりはましって感じ? ドアも薄いから、ちょっとノックしただけで大きく響く。
現実感ぱない。でも俺本当は、あんまりこんなとこ来ないからなー、気のせいかなー?
「アリス嬢? 黒鷺です。いるんでしょ?」
中で物音は全くしない。でも出ていこうとなんてしないはずだから、いるはずなんだ。って、決めつけすぎる?
「帽子屋と、兎嬢、心配してる」
……。
「頼まれた、頼まれたよ? でも、あいつらには何も言わないって、それでもいいから」
……。
「俺と少し話をしてくれませんか?」
……。
届いてる、届いてるはずなんだ。声は、言葉は。でも、ちゃんと受け取ってもらえないのか……。
「アリス嬢、お願い……アリス、くん……」
小さく、小さく音がした。ほんの少し、息をのむような。
「そこに、いんの……?」
ドア一枚むこう? すぐそばにいたわけ? 気にしてくれてたってことでいい? 完全に拒絶したわけじゃないのね?
ごそごそと動く気配がして、かちりと鍵が回る音がした。
ゆっくりと内側に開くドアの奥に、水色フードを深くかぶった、あの時見たアリス嬢がいた。
「……」
「アリス、嬢……?」
下を向いて体を縮こませ、重く口を閉ざしたアリス嬢に、俺はそっと問いかける。
「話してくれる?」
アリス嬢は小さく頷いて、部屋の中に入って行った。俺も後に続く。
粗末なベッドと小さなテーブルでいっぱいになってしまうほど小さな部屋は、カーテンが閉め切られ、空気が淀んでいて、こういっちゃ悪いが……人が住めるような感じではなかった。グレードが最低にもほどがある。
ベッドに腰を掛けたアリス嬢の、少し間を開けた隣に座って、近くにあったテーブルを引き寄せた。
「アリス嬢、お腹減ってない? サンドイッチお土産に持ってきたんだ。ジュースも紅茶もあるぜ? クッキーもな」
サンドイッチが入ったバスケットと水筒を二つ、それと可愛くラッピングしたクッキーの袋を取り出して並べる。
もちろんアリス嬢は何にも興味を示さない。
「話す前に、少しでも食べてくれよ。嫌かもしれないけどさ、俺は……」
「……で」
俺の声をさえぎるように、かすれた小さな声が俺の耳に届いた。
「え?」
「な、んで、なんで、なんでなんでなんで!!」
最初はぎこちなかったが、何回も言ううちに勢いが増して、最後は叫ぶように、なんで、と繰り返した。
「アリス嬢!」
狂ったように何回も繰り返すから、焦って肩をつかんで揺さぶるとフードが外れ、落ちくぼんだ目が俺を見た。
「触るなぁぁあああ!!」
乱暴に振り回された手が、俺の手を振り払い、俺の顔をひっかき、頭を叩いた。そしてテーブルの上に並べた食事も床に散らばる。
「落着いてよ、アリス嬢!!」
暴れるアリス嬢を腕ごと拘束するように抱きしめて、ベッドに押し倒した。
「放せ! 触るな!! やだ!! 放してぇ!」
「落ち着くまで放さない!」
「嫌! 嫌嫌嫌!!」
金切り声が耳に響いて痛いし、引っかかれた頬もひりひりする。けどそれ以上にアリス嬢の泣き声まじりの悲鳴が辛かった。
興奮したアリス嬢に何を言っても届かないだろう。だから今は何も言わない。ただ落ち着いてくれるのを信じるだけしかできない。拘束されても体中の力を使って暴れるから、腹が時々殴られてるみたいで痛い。まだ自由がきく足も、色々蹴ってくるから痛い。辛い。
……紙防御なんですよ、マジで。HP0になったーとか言わないよな?
フードが外れたけど直している余裕もなく、必死でしがみついていた。アリス嬢の目は何か遠くを見ているようで、漫画風に言ったらハイライトが消えている。大きな目から大きな雫が次々と零れ落ちた。
そのまま、ずっと、がむしゃらに動いていたアリス嬢だったが、そのうち泣く声の方が大きく、動きが緩慢になってきた。
「なんで、なんで、なの……」
「アリス嬢……」
「なんで……」
俺は何も言わなかった。なんでもいいさ、このまま、まがい物でも落ち着かせておこう。
「落ち着いた?」
泣き声も聞こえないようになった後、俺は小さく聞いてみた。
「……」
何も返さないアリス嬢だけれど、もう抵抗しないようだったから体を離して起き上がらせる。ちゃんと座っても、アリス嬢はずっと下を向いていた。
下向きだけど、少し顔をゆっくり見られる。大きな目は泣いて真っ赤に腫れ上がり、隈もあるし、頬はこけてるし、肌はざらざらと言った最悪のコンディション。パーツパーツは整っているのにもったいない。
顔は女の子みたいだったけど、声は少し男の子っぽいかな。ぽいってだけで誤魔化しはいくらでも効きそう。
「んー……アリス、くん?」
さっきは君付けで呼んだから反応した。だからもう一回そう呼んでみると、ピクリと肩が揺れた。
「なんで……」
「なんで知ってるか? そうさなぁ、いろいろ調べたんだよ」
「……」
もう仕方ないからこのまま会話モードに突入しようか。
「あってるってことで、よろし?」
無言。は、肯定でいいな?
「バレんのがやだった? だから逃げたの?」
無言。
「責めてるわけじゃぁないぜ? 帽子屋も、兎嬢も、ただ心配してるってさ。それだけ」
無反応。
「……そんな死にたい? こんな世界は全否定?」
少し、イライラし始めた。
「聞かせてよ、アリス嬢。あんた何を思ってんの? そんなにあいつらと話したくねぇの? なんなの?」
「……何も知らないくせに」
「あ?」
やっとしてくれた反応が意味不明で、ちょっとキレ気味に声を出す。
「僕の何を知ってるわけ。なんでクロさんにそんなこと言われなきゃなんないの? 二人に言われたから? だから何? もういいじゃん放っておいてよ」
やけくそ気味の言葉があふれてきた。アリス嬢の唇は笑みの形に歪んでる。
「で、死んでいくのを黙って見てろってか? お断りだっつぅの」
わざわざここまで来てる。それは、ただのお節介じゃあねぇんだぜ?
「関係ないじゃん、クロさんには」
「関係ないよ。でも、ゼロってわけでもねぇだろ」
「だからなんで……っ!?」
こっちを向いてきたから、すばやくアイテム欄から取り出した激すっぱキャンディーを! アリス嬢の口の中に! 放り込む!!
「!!!!!??????」
「あっはっは~! ちゃんと味するだろ? レモン百個分の力!」
「~~~!!」
涙目で何とか飲み込んだみたいで、はーはー息をついている。
ふむ。リリア嬢よりも頭がよろしいようで←
「はい、御口直しにあま~いココアはいかがですか?」
コップに甘い香りのする液体を注ぎいれてアリス嬢に差し出した。ひったくるようにコップをつかみ、一気に飲み干すアリス嬢。
「ぷはっ! バカなんじゃないの!? バカなんじゃないの!?」
「大事なことなので二回いました?」
「うるさいよー!!」
おっと、なんだか人間味が戻ったようで何よりさぁね。
……この手有用すぎね?
大変ぐだっておりますが、御付き合いいただければ幸いです。
話をうまくまとめるのが苦手で、まだもう少しウダウダするとは思いますが、頑張りますので! 生暖かな目で見守っていただけると嬉しいですm(_ _)m




