謝罪
なんか部屋で動いてる気配がする。てかさっきから大声で呼ばれている気がする。
でも眠くて瞼が持ち上がらなかったら、その気配が動きを止めた。
逆に気になって無理やり目を開く。
「んぁ、ハク……?」
視線が彷徨ったが、やっとこさ一点で焦点が合う。目と目も合う。
と、同時にハクの口から絶叫が発せられた。
「ご、ごめんなさぁああああい!!」
そのままの勢いでハクが部屋を出ていく。
突然のことで頭がついていかなかったけど……ん? あ、顔ぉ!!
「ちょ、ハク待て!!」
さっきまでのぼんやりをぶっとばして、ベッドから跳ね起きハクを追う。俺は階段を飛び越して、外に出ようとしていたハクに捕縛魔法をかけた。
「“アレスト”!!」
色々呪文カットしたから効果は小規模。けどちょっとした足止めには大便利。
足を取られたハクは顔からずべーんと……ごめん、そこまで派手に転がす気はなかったんだよ!!
「ぎゃー! ハク大丈夫!?」
「その前にお前はその恰好を何とかしろよ」
急いで抱き起しに行こうとしたら、横から出た手に止められた。
「あれ、桔梗さん? 何でここに……」
「いいから、ふ・く! お前は女だって自覚あんのかよ?」
何故かそこにいた超絶しぶい顔の桔梗さんが、俺にそう言って、代わりにハクに手を差し出した。
「あ? 服ぅ……? あ……お、おめ汚ししましたぁ……」
寝相悪いんだよね! だからってなんでファスナーまで下りちゃうんだろうね! あ、風呂上りで暑かったから若干下した記憶が……自業自得!!
いやね、さすがに前開けてそのままおkってほど女って言う自覚がないわけじゃないんだよ本当だよ!?
「いくら中身男でもよぉ、さすがにそんなん見せられたら少しくらいは困るよなぁ、白狼?」
話しを向けるも、ハクは真っ赤な石像さん。
桔梗さんの言葉にはいろいろ文句言いたいことはあるけど、どうしたハクよ!? 大丈夫か!? もしかしなくても俺のせい!? ほんとごめんね!!
「あのー、白狼サン? これには深いわけじゃないけど複雑、でもないかもしれない理由が……」
そっとハクの顔を伺うけれど、完全にそっぽを向かれる。あっちこっちから見るが、そのたびに顔ごと背けられる。
え、俺これ、完全に信用無くしました……? 白狼さぁぁあああん!?
「おら黒鷺、中入れろ。んでお前は着替えて来い」
ハクの腕をひっつかんだ桔梗さんがいらっとしたしかめ面……いや、違うな。異様に緊張してるか、困ってる時の難しい顔だ。なんかあったか?
そうだよな、じゃなかったらわざわざ訪ねて来ねぇよな。
「了解。でも俺ちょっと……」
ハクのことが気になって、ちらちら様子をうかがっていたら桔梗さんがさらっと言ってくる。
「白狼は逃がさんから安心しとけ。むしろお前がいない方がいいだろう? 少しクールダウンするべきだ」
「うー、あー、はい。ワカリマシタ。ハク、マジごめん。でも言い訳させてな? だましてたわけじゃないんだぜ?」
無反応。
「……着替えてきマス」
しょぼん……とかかわいい芸当はできないけど、てかそんな可愛いもんじゃないけど、背景に絶対曇天背負ってまする……(泣
とりあえず桔梗さんに俺の家に入れる許可を出してから俺は自分の部屋に。
アレですよね、時間おけってことですよね。アイテム欄でぱぱっと装備品変えろって意味じゃないですものね。黙って引っ込みますよぐすん。
そういえば寝起きだったのを思い出して、部屋で身支度を済ませる。鏡を確認して、かなりつり気味の、きつい顔を眺めた。
「あー、もうマジ怖い顔……いーっだ!」
鏡に文句言っても仕方ねぇけど、喚き散らしたい気分だこんにゃロー!!
服を黒いシャツとズボンに変えて、この際だからマントは置いて行く。髪をとかして、一つにくくり、俺完成。
あ、ハクのピアス忘れないようにっと。
そうしてもういい時間かなーと思ったので下に降りる。
あれ、そういえば……こんな時間!? 朝飯作ってない! あぁ、寝過ごしちまったのか……。
時計を確認して肩を落とす。もうなんか色々やってない。ハクに嫌われちまうかなー。……もう手遅れか……?
「はぁ……」
「ため息つきながら現われてんじゃねぇよ……」
リビングに入って、桔梗さんに呆れた声でそう言われる。
リビングの方の、エル字のソファの、角の短い方にハク、長い方に桔梗さんが座っていた。
「悪い悪い。コーヒーでいい?」
どうせブラックだろって感じだけど聞いてやる(上から目線
「んあ、悪いな」
「ハクは、」
尋ねる前に首を振られた。ぐすん。
俺と桔梗さんにはコーヒーをブラックで。ハクにはとりあえず麦茶を差し出しておく。
俺は一人掛けのソファを桔梗さんの対面に移動させて座った。
「マント外したのか?」
「それ聞く? そりゃぁ外しましたよ」
しゃぁねぇじゃん。ばれちまったんだからよぉ……。
「そうか」
そこで桔梗さんはコーヒーをすする。謎の沈黙。気まずい。
「この件は後でちゃんと話し合えよ」
「あい……」
言われなくても!!
「んで、こんな朝早く……って程でもねぇけど、わざわざここまで来たのには理由がある」
でしょうね。
「黒鷺は起きたばっかだったな?」
「ん。そうだけど?」
「掲示板見てみろ。画像も添付されてるはずだ」
掲示板?
急いで掲示板を開き、桔梗さんの示すページを見てみる。
『道化師からの挑戦状!?
突如、大陸マシロの、中央広場の噴水が崩れ、謎の塔出現。目の前の看板には「人数制限42・出禁」の文字』
なんだこれ……?
掲載されてる画像には、確かに見たことのある広場の中央に白い塔のようなものが立っている。周りの建物と比較してみると、五階くらいはありそうだ。
「これが……?」
「これが今朝、六時くらいか……突然現れた」
「そんな風に書いてあるけど……」
「俺はこれが道化の言ってたゲームなんじゃねぇかって思ってる」
その可能性は大いにあるだろうな。漫画や小説でよくある設定だし。
何かを集めろと言っていたから、ダンジョン攻略? んで、ボスドロップにその何かがあるってとこ? だとしたら他の大陸にも似たようなことが起こるかもしれない。
「ふぅん。それで正解な気もするけど、確証はない。で、なんで俺のとこに来たの? 悪いけど情報集めとかしてる場合じゃないぜ?」
アリス嬢に兎嬢、やることはてんこ盛りだぜ? 今現在はハクサンが!!
「今日はそっちの用事じゃねぇよ」
「ありゃ、そうなの?」
てっきりいつものように情報関係だと思ったんだけど……それもそうだよねー、ハッキングも何もできないし、情報関係はないか。
んじゃ、何しに来たわけ?
「あるパーティーが一階層だけを見たらしい」
「入ったのか!?」
今日出現し、今日入った? ただの様子見のためにも、チャレンジャー精神あふれかえりすぎじゃねぇ? そんだけリアルに帰りたいってことかぁ?
ただ、お試しにしてもどうなの。適当に入っただけなら無意味だよね、はっきり言って。情報収集にもちゃんと準備と順序が必要だ。なめてんの?
「敵の数はおよそ百五十。一階層だけなら推奨レベルは百以上だと思われる、そうだ。ただ、出ようとしたら出られず、一パーティーで入ったからか瞬殺されて死に戻ったんだとか」
「ほぉ? ……あ、出禁って、もしかして出るの禁止の略?」
「かもな」
んー、桔梗さんの話を聞く限り、そこまで大変そうには思えない。出れないのは少し問題かもしれないが、人数が上限いっぱいなら、一人で三・四体倒せばいい計算だし。
けど、そうか……何階層かなんて、見た目とは違う可能性大。その上、きっと上がるほどに強くなるだろうし、ボスもいるだろうってのが定石だし。
だとすると、桔梗さんがここに来た目的は……
「お前もそうだが、特に白狼、攻略を手伝ってほしい」
ですよねー。
ハクは魔導師ランクでトップだし、声がかからないわけないんだよな。俺はともかく。
それを聞いたハクの顔は真っ青。聞いてない! って顔にはっきり書いてある。
「これが道化の言っていたゲームかどうかはわからんが、攻略すべき対象であるのは確かだ。ダンジョンを建てるなんてのは、システムに介入しなきゃいけねぇからな。だから正解であろうとなかろうと、解放されるための鍵にはなると思う。だからどうか、力を貸してくれ」
きりっとしちゃった桔梗さんは、そのままハクに頭を下げた。
ダメなんだよな、桔梗さんは。真面目でお固くて、ついでに迫力まである。だからハクは真っ青から真っ白になって、さらに体を震わせもしちゃってる。
ハクには合わないんだよね。面と向かって一直線にお願いされるのは。たじたじになっちゃうからさ。
「桔梗さん、ハク困ってんだろ」
下向いてハクの様子を見てない桔梗さんは、きっとわからないだろうから言ってやる。わざと見ないで、こうして押せば頷いてくれるって言う計算もあるのかもしれないけど。
「だが」
「無理強いはすんな。……でしょ?」
「……」
しぶしぶ顔をあげる桔梗さんの顔を見て、さっき思ったことは後者だったと確信した。だったら遠慮はいらねぇな? あぁん?
立ち上がって桔梗さんを見下ろしながら出口を指さす。
「帰って。話がそれで終わりなら、今すぐ帰って」
この話をするために来たって言うんだから、もう次の話はないだろうと踏んでの強気の言葉。あとが怖いけど、ハクの顔色が心配です。
「……また来る」
「この話のためならもう来ないで」
最終手段である自分のエリアから強制的に排除するための画面を桔梗さんに見えるように呼び出して、とっとと帰るよう促す。無表情で、声に感情をこめないで、本気だぜって主張する。
嫌そうにゆっくりと席を立つ桔梗さんにさらに言葉を継いだ。
「しつこく来るようなら、無理強いしまくるようなら、ぶっ飛ばすからそのつもりで」
「……悪かったな」
全然思ってないだろうけど、ハクの表情を見て少し罪悪感を覚えたのか、若干視線を伏せて言った。
「……」
「……」
ハクも俺も何も言わなかった。ハクはきっと怯えてるせい。俺は怒ってるせい。
重たい沈黙の中、桔梗さんは帰った。横を通り過ぎざま「頼む」とか言う一言置き土産を残して。
「ざけんなよ……」
桔梗さんは俺が頼めばハクがお願いを聞いてくれることを知っている。ハクが俺に寄り掛かっているだろうことを察しているから。
で? だからぁ?
俺はハクのお荷物になるつもりはない。俺がハクの行動を制限するつもりなんてないんだよ、ばーか。
……さて、俺には大仕事が残ってる。って、桔梗さんのせいでハク様の機嫌がさらに下降してるじゃねぇかよぉぉぉぉおおおおお!!
どうしよう、どうしてくれんだよぉぉおぉぉおおおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!?




