ギルメンめんど……
狐の姐さんこと狐蝶さんのおかげでなんとかギルド脱退に成功した。
これで一番大変な用事は終わったけど、もう少し元ギルマスと話さないといけないことがあったり、副マスたちとも話したかったり。
だからもう少し長くなりそうってハクに断ろうとしたんだが……。
「あ? ハク……?」
後ろにいたはずのハク様はいずこ……?
「あ? どこ行った?」
「見てなかったなァ」
桔梗さんと狐蝶兄貴がお互い顔を見合わせて首をかしげる。
「さっきでてったわよ?」
「ウッソ!?」
リリア嬢の言葉で俺は焦った。出てったの? なんで? やべ、どうしよう!?
「おら、さっさと追えよ。そのために抜けたんだろォ?」
狐蝶兄貴が男前に笑うから、俺は手をあげて応える。
「悪い! 見つけたらまた来るから、今はさーせん!」
「てらー」
「ちゃんと帰ってきなさいよ、バカクロ!」
「もっち!!」
速度上昇の魔法やスキルを併用して街中を走る。
索敵のスキルも使うけど、引っかからない!!
「もー!! どこ行っちゃったんだよ!!」
建物を駆け上って高い所からも探すが、見 当 た ん な い!!
そんなに時間経ってないはずだろ? あー、でも、移動系の魔法使われたらここの大陸にゃいないか?
「……」
だとしたら、あそこか……?
ワープゲートまで行って、色々移動して、俺らのオアシス『妖精の箱庭』へ。
~Side・White~
クロ、ソロでやりたいって、自由を奪うなって、それって、俺も邪魔ってことじゃん。
やっぱり、俺、お荷物だ。無理やり、背負わせちゃってた。なのに浮かれて……バカみたい。
そっとクロの後ろから離れて、ビルを飛び出した。どうしよう、消えちゃいたい。
涙がボロボロ落ちていく。思いっきりフードを引っ張って顔を隠した。
胸がぽっかり穴あいたみたい。息がうまく吸えない。苦しい。
俺、クロに、押し付けっぱなし。でも、どうしていいかわかんないし。やだやだやだやだ。迷惑かけたくない。でも、寂しい。
近くにいたら寄りかかっちゃう。だからもう……。
気がついたら、『妖精の箱庭』。また、来ちゃった。
切株には座らずに、花に埋もれるように膝を抱えて座る。
何にも言わずに出てきちゃった。また迷惑かける。
きっとクロは邪魔なんて思ってない。いい人だから。優しいから。でも、そう思ってても、だめだ。怖くて。
体を丸めて、顔を伏せる。これからどうしよう。
「ハクみーっけ」
どのくらいそうしていたか、クロの声が聞こえた。
ぼんやりとした目を向ける。
「ハク、どったの?」
視線を合わせるようにしゃがみこんだクロ。いつものように、安心させる笑みが口元に浮かんでいる。
「また、迷惑かけてるとか思ってた?」
心の中を見通すように、クロがゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ん……」
「大丈夫だって」
やんわり、頭を撫でられる。……あったかい……。
「ハクが不安に思うなら、何回も言ってやっから。だから安心しろよ? 俺はお前が望む限り、傍にいてやるから。ごめんな、不安にさせて。言葉選べばよかったな?」
「ううん、ううん……」
喉が狭まって声が出ない。だから代わりに何回も首を振った。
「大丈夫大丈夫」
あぁ、やっぱりクロは俺の光だ。優しくて、温かくて、安らぐ。
迷惑かけて、ごめんなさい。弱くて、ごめんなさい。絶対強くなるから、もう少し待っていてください……。
~終~
……やっぱりあれだな、俺のせいか。
不安定な時に一人でいたいとか言ったら、そりゃ邪魔に思われてるって思うわなぁ……。
反省反省。
もう少しちゃんと様子見て、しばらくは慎重になりすぎてるくらいがちょうどいいか。壊れんなよ、マジで……。持ち直したらきっと強いんだろうけど、今は脆い。俺がしっかりしないと。
まぁ、その責任が重いからギルドの方は放りだしたんだけどな。
けどハクは……うん、俺の方が今の状況のきっかけ作ったんだし、責任もたねぇとな。ただ責任感じてるわけじゃなく、気にいってもいるからなぁ。
しばらく慰めてたら、ハクが顔をあげた。
「ご、ごめん……」
「大丈夫。もう落ち着いたか?」
アイテムボックスから柔らかくて吸水性抜群の布を引っ張り出して、顔をぬぐってやる。
少し眼元が赤いけど、フード被れば問題ないかな。
「よしよし。大丈夫?」
「ん、色々、ごめん」
「いいってばさ。さてっと、じゃ、街に寄ってく? 家帰る?」
ハクは少し照れくさそうにしていたが、その言葉で思案顔に変わった。
「クロ、ギルドは?」
「抜けられたぜ?」
たぶん途中で抜けたからその辺の事情はきいてねぇよな? 抜けたとこまでいないよな。
「他、用事……」
「あー、また後ででもいいだろ。どうせ急用じゃないし」
一週間以内に行きゃ問題ないでしょ。突然出ていくって言う行動で、ハクの極限状態は少しくらい察してもらえるだろうし……。
そういや、お土産のクッキーはハクも手伝ってくれたんだよな。うーん、アイテムボックス内だからそうそうダメにはならないと思うケド。
「だめ。行かないと」
「え?」
「俺のせい、ごめん……。先に街にいるから、クロはギルド行ってきて?」
ハクは気を使ってそう提案してくるが、どうするかね。
このままハクと一緒だったら、罪悪感が残るか。一緒じゃないと、それはそれで不安だし、んー。
ちらっと表情を伺うに、罪悪感の方が強そうだ。仕方ない。
「わかった。俺ギルドの方戻るな? できるだけすぐ……一時間かかんないように街の方行くから、とりあえず噴水待ち合わせでいいか?」
あんまり過保護すぎるのもだめなんかねー。自分でするって言うんだから、自主性を尊重すべきかここは。
心配で不安だけど、ハクはほっとしたように頷くから、この道しかなさそうだと判断。
「うん」
「よし、何かあったらちゃんとチャットすること。守れよ?」
「うん」
「じゃ、ミライトまで一緒に行くか」
「うん……っ」
これで、正解だよな……?
やっぱ心配で、後ろ髪引かれるどころか、最強掃除機で吸い込まれてるぐらいな感じなんだけど、もう遅いし! 今更だし!! ちゃっちゃと用事済ませてハク迎えに行くべ!!
「たのもー!!」
「お前はそれしかねぇのか」
道場破りよろしく元気よくギルドホームの玄関をくぐると、エントランスのちょっとしたソファーセットで書類整理をしていた元ギルマスがツッコんでくる。
いやぁ、やっぱボケてツッコまれるっていいね!!
近くにいるのはリリア嬢のみ。狐蝶もシエルファもいない。他の奴らはちらほらいるが、遠巻きに眺めてる。
それもそのはず。ギルマスがとぉぉぉっても怖いオーラ出しまくっていらっしゃるからだっ!! これは俺でも怖いぜ☆
「えーっと、元ギルマs」
「普通に呼べ」
恐る恐る声をかけると、書類から顔をあげずに、硬い声で返された。
ひぇー! 最上級に怒ってらっしゃるぅ!!
「白狼はどうした?」
「顔合わせづらいみたいで、先に街に」
「そうか」
だめだ! 会話が終了する!!
「わ、わぁ、イライラしてらっしゃいますぅ?」
苦し紛れに聞いてみるけど、
「誰のせいだ誰の」
「俺ですねっ☆」
墓穴掘ったぁぁぁぁあああ!! なんで狐蝶姐さんいないの!?
「……」
あぁ、オーラが、背後から暗黒のオーラが出てるっ! 見えるっ! 感じられるっ!!
「まず何からすればいいかなぁ? 桔梗さん?」
「まずはあたしに説明しなさいよ!!」
リリア嬢がそう言いながらタックルしてきた。
腹に、頭突き、ぐはっ……。
「あー、はい、ワカリマシタ」
桔梗さんに目線を向けると、ちらっと見られて、目だけでうなずかれたのでオケデショ。そのまま桔梗さんは書類整理に。あー、怖かった。
リリア嬢は強い視線を俺に向けてくる。
はい、俺が悪いのは重々承知しております。でもね? リリア嬢……ぎゅうぎゅう締め付けてくるのはヤメテー。ちょっと苦しいよー。魔法職の中でもトップクラスにいそうな紙防御の俺にそんな殺生なー。
まぁ、リリア嬢もそんな攻撃力高い方じゃないから、まだ耐えられるんだけどね!! じゃなかったら俺氏死亡……。
「あー、やっぱクロ……」
「んあ?」
「んー、いや、いいや! 空気読める子だもん!」
「あ、そ、そう?」
なんかよくわからないけど自己完結された。謎だ。
「なんか困ったことあったら言ってね!」
しかもなんか助けてくれるらしい。わけわかめ。
「お、おう?」
「あ、そうだ! あの飴! まともな味したんだけど!?」
あぁ、料理ってやっぱ味ないとかまずいんだな。ちょっと興味あるから種類買って帰ろう。モノによっても違うのか要検証だな。まだマシなのがあるかもしれん。
んー、でもこれってやっぱ料理スキルの問題だよな。ギルドに料理設備はねぇし、サブ職持ってるやつも、知らないし。
「食生活大変か、桔梗さん?」
「だな。何人かそれで死んだ。もちろん生き返ってくるけどな」
思ったより深刻だぜ。俺さん料理系持っててよかった。
食べないで死ぬのとまずいのを食べて生き残るの、どっちの方が楽だろうか。どっちもやだね。今の日本人は舌が肥えてるだろうしなぁ。大変じゃねぇか。
「……やっぱお前持ってんのか? 料理人」
桔梗さんが探るようにこちらを見る。
「『薬膳料理細工師』」
「あん?」
さすがにあんまり聞かないよな。この職業。
「『薬剤師』と『料理人』と『総合細工職人』の複合サブ職業」
わぉ、ながぁい。なんだこの濃いぃ職業は……。俺もよく見るとびっくりな職業だぜ。
「しかもレベルカンスト(笑)」
「「……」」
桔梗さんにもリリア嬢にも、驚きあきれたような表情をされる。
でしょうね! 真ん中の料理人なんだよって感じですよね! なんでそこでゴミ職持ってくるんだっつぅね!!
「さすがだな、無駄好きめ」
「誰が無駄好きだ。今役に立ってるだろう役に!」
「ふつうこんな状況想定してないだろう。つまり無駄だゴミだ廃棄だ廃棄」
「失礼な!!」
確かにな? 俺は一見無駄っぽい、変なサブ職にまで手をだし、できる限りレベルを上げ、謎な組み合わせをした。だがな、その手業は、微妙にリアルでも役に立っているんだぞ!!
「……ギルド抜けた理由もそれか?」
「え、ギルマス?」
リリア嬢が不審げな声をあげるけど、正解なんで俺はさらっと答えた。
「あー、それもちょい。だってやだよ。俺、給食のおばちゃんになるなんて、さぁ?」
たぶん俺だけだと思うんだよねー、そんな変な職業を持ってるのは。そのせいで飯作れーってなったら俺はキレるよ? そしたらどっちにしろ抜けてただろうな、ギルド。
リリア嬢が沈んだ顔をしたのを察してクッキーを取り出す。楽しげな声を添えて。
「でもま、最後だから餞別に、これあげる。食べるか食べないかは好きにしてくれ」
「わっ、美味しそう!! いい匂い!!」
リリア嬢が思いっきりテンションあげた。うんうん。作った甲斐があるぜ。女の子だしお菓子で正解だな。男は知らん。
「お前よぉ……菓子作るくらいならもっと腹にたまるもんを……」
ありがたいけどちょっと違う、って言う表情をするギルマスに、俺は青筋を立てる。
「なら食うな! こういう時は菓子折りってきまってんだろうがよっ! それに糖分は心を和やかに……」
桔梗さんはあんまり甘いの好きじゃないから、甘さ控えめなのも作ってきたのに酷いわぁっ!!(高音ボイス
「あーあー、悪かったよ。ありがたく食わせてもらうわ」
「最初からそう言いなさい」
「むかつくなぁ、お前……」
「ねっ、ねっ! クロちゃん食べていい!?」
クッキーの横でぴょんぴょん飛び跳ねるリリア嬢に苦笑が漏れる。
「みんなでいい感じに分けてくれ。一個ずつ甘いとか甘くないとか書いてるから、できるだけ希望に沿ってやれよ。味もな」
「了解!! いってきます!!」
そう言ってクッキーを抱えて走り去っていったリリア嬢。とりあえず今日の所はこれで誤魔化せたっぽい。
「黒鷺」
「ん?」
リリア嬢が離れてから、桔梗さんが見つからないように消音の結界を張る。
「絶対に問題起こすなよ」
念押ししてくる様子に、俺はそんな信用ないかなぁと少し落ち込む。ま、自業自得なんだけど。
「大丈夫だって。それだけ? できるだけ早く行きたいんだけど」
ハクが気になって帰ろうとすると桔梗さんが引き止める。
「お前は……どう見る? 今の状況」
真剣な顔でそういう相談をされるってことは、うん、やっぱそれなりに信じられてはいるんだよな?
「まだ、準備期間か、もうすでに何か始まってるか。あいつが逃げ道はあるって言ってたんだ。嘘はつかんだろうぜ?」
イカレタ道化師。確かにイカレてはいたけど、嘘ついたらゲームは成立しない。だから主催者なら少なくともルール上は嘘つかないと思うんだよな。
「だよなぁ。でも、いまこのままで何か始まったとしても、負けそうじゃねぇかよ……」
疲れたように頭をかく桔梗さん。
俺は周りを見回した。誰もかれも疲れたような表情だ。飯だって満足にいってねぇんだもんな……。
「確かにな。でも逆に死に物狂いで何とかしようとするんじゃね?」
とっとと見知ったリアルに帰ろうと。
「はぁ、どっちの選択すればいいんだ俺は……」
生活を安定させるようにするか、始まっているのかいないのかもわからない何かにかけるか。
どちらにしても、ギルドのみんなに何かを強いることになるかもしれない。それを是とするのかしないのかも考えないといけない。
「ギルマスは大変だな。……なぁ、何でほっとかねぇの?」
「あ?」
俺は疑問を口にする。答えは知ってる。この人を良く知ってるから。
それでも聞かずにはいられなかった。
「ねぇ、どうして逃げ出さないの? どうしてちゃんと背負ってあげられるの? どうして?」
「んなもん、俺がギルマスだからだよ。俺があっち側の人間でもあるからだよ。わかってんだろ」
「うん……」
「お前もそうじゃねぇの?」
あぁ、そうだ。そうかもしれない。俺はハクを、ね。桔梗さんと一緒かぁ。そっかあ……。
「俺も成長した?」
「さぁな」
そう言って桔梗さんは本格的に書類仕事に戻った。もう話は終わりかね。いつの間にか結界も消えていた。
「……まぁ、何かあったら、できる限りは協力するぜ。もちろんギブ&テイクでよ」
ただ働きはしない主義なんで、そこはきっちりと言っておく。
「少しくらい親切心出せよ」
「これでも出してる方だっつうの!」
「これだから狭量は……」
「クッキー返せ!!」
こうして少し重いのと軽いのを混ぜた会話をしてから俺はギルドを出た。
早くハクんところいかねぇと。……ギルマスはガンバ☆




