兄貴ぃ! 俺一生ついていきm((ry
「それ、本気で言ってんのか?」
ギルマスの鋭い視線が俺を射抜く。
背筋が凍るね。肝が冷える? 怖い怖い。近くの副マスたちもビビってるくらいだ。ハクは、後ろにいるからわかんないけど、どうも感じてねぇかな。
なんでもいいさ、関係ない。もう決めたんだ。邪魔なんてさせねぇ。
「もちろん、本気だぜ。俺はソロに戻る。元々、俺はソロでやりたかったんだよ。知ってんだろ?」
「だめだっつったら?」
あー、声が低い。硬くて、熱くて、怒気があふれ出てる感じ。激おこだよ。おっかねぇ。
「言うと思った。でもよぉ、こんな状況、あんな約束、もう無意味じゃね?」
昔、色々面倒事を起こした。だから、監視の名目でギルマスのギルドに入った。ほとんど建前とかそんな感じだろう。
でもよぉ、もう、いいじゃん? ゲーム封鎖されて、まだ監視続ける? 無意味だよ、無意味。俺が何かしたとして、それをどうにかする権限、持ってないだろ? なんとかできるなら、とっととこのゲーム封鎖とけるはずだもんな?
「だからどうした。許可できん」
頭のオカタイ、ギルマスだから、そう言うって思ってたよ。無意味だって、図星なんだろ?
ギルマスが俺のことどう思ってるか、なんてさ、ちょっとはわかってるつもりだぜ? 本気で監視対象から外して、なんかやるなんて思ってるわけじゃねぇ。それくらいの信用と信頼を俺は得てきたと思う。
でもたぶん、会社とかと約束しちまったから、だから監視を続けようってそんなんなんだろ? オカタイから。
けどよぉ……?
「はっきり言って、許可なんていらない」
「なんだと?」
ギルマスが片眉を跳ね上げる。怪訝な表情。
「ギルマスが俺を外す気ねぇんなら、俺は今後一切ギルドには係わんねぇ」
後ろでリリア嬢が息をのんだ。悪いね、不安にさせちゃったかな? それでも譲れないんだ。
本当は入るも抜けるもある程度自由なんだがなぁ……副マスなんて役目をしょっちまったから、ギルマスに許可してもらわねぇと抜けらんないんだよなぁ。監視としてはいいかもだけど、俺としてはメンドくせぇ。
でもそんなの、ギルドに所属してるってだけで、シカトしてれば済む話じゃねっては・な・し。
「お前……」
ギルマスの眉間のしわが一層深くなる。
「けじめの問題。ギルマスがギルドにいろって言うんなら、いたままにはするぜ? けど、そんだけ。絶対に係わんねぇ。それが俺のけじめ。抜けられるんなら、そうさなぁ、協力はするさ。普通の友人みたいにな」
「いい加減にしろ! そんなの通るわけ……」
「通すさ! 絶対にな!!」
俺はギルマスの言葉をさえぎった。
いい加減にしろ? するのはそっちじゃねぇの!
「ふざけんなつってんだよ!! お前が後で後悔するだけだぞ!?」
「後悔!? 何を後悔するって? うn……やつらから約束破りだって怒られるって? ばっかじゃねぇの!? この状況で、これを、まだ、ただのゲームだっつってんの!? おっさん頭固すぎ! これぁある意味でのリアルだよ! 現実だ。だから俺は俺の自由を奪われるわけにはいかねぇんだ!!」
あぁ、そうだよ、現実だよ。ゲームだから許せたギルドっていうシステムも、リアルじゃ俺は受け付けない。リアルの生活にまで干渉するのは許せない。
でも少し勢いが余りすぎた。もう少しで運営とか言うところだった。あぶねぇ。ちょっとでも変なことは言わない方がいいだろうに。ばれたらまずすぎ。くそっ。
「ガキがっ!! 勝手なことばっかぬかしてんじゃねぇよ!! お前はいつも勝手だ! こっちこそ、お前みたいなのに、この状況で、振り回されるわけにはいかねぇんだよ!!」
ギルマスが腰の剣に手を伸ばす。
あーあ、頭に血が上っちゃって。キレやすくってやぁね。それは俺もだけど。
無意識に杖に伸びた手を、冷静などこかが嘲笑う。
すぐに手ぇ出すって、どこのガキよ。両方ガキだなぁ。あほらし。
ギルマスが剣を、俺は杖を、抜きかけたその時。
「てめぇぇえらぁぁああああ!! いい加減に、しやがれぇぇえええ!!」
どすの利いた、ひっくい怒鳴り声が雷のように響いた。
「「!?」」
俺もギルマスも、思わず声のした方を見上げる。そう、見上げる。
声の主は三階のあたりにいた。
「周りにゃガキだっていんだよ! テメェら二人とも、場所をわきまえやがれっ!!」
主は手すりに足を引っ掛け、思い切りよく飛び降りた。
まぁ、ゲームの世界だから危ないことはないんだけど。もうちょっと高さあるところから落ちるのなんて、ボス戦じゃよくあることだし。でもちょっと本能的に? 怖くね?
主も危なげなく着地する。
それと同時にふわっと広がった着物の柄に見覚えが……ぁっ!?
「……え、あ、も、もしかして、姐さん!?」
レア程度のレベルではあるものの、職人手作りの一品物だったやつ。確か。
ってことは、ことはよ? それ着てる人っつぅのは、一人に定まるわけで……。
花魁っぽい、ボンキュッボンだった体は消えて、すらっとした男の体になった、無駄な色気はそのままの、狐の姐さんがそこにはいた。
「ぎゃー! なんかイケメンの部類に入りそうだけど、色気垂れ流しって感じの、リアルにいちゃいけない、男花魁みたいになってるぅ!!」
「どういう例えだ一体!!」
くわっと目を吊り上げて怒鳴る姐さん……兄さん? んーと、名前なんだったかな……まぁ、いいか。兄さんで。
えっと、兄さんはぶちぎれていらっしゃる。
「黒鷺。桔梗。お前ら、少しは頭冷やせ。場所を考えろ。玄関だぞ? まだ未成年のガキだっている。不安を煽るな」
「「……」」
イラつきを抑えたような低い声は、ギルマスのものよりもずっと重い。いつもはこってこてのキャラ作りで、廓言葉しか使ってなかったのに、普通に話してるからか? ギャップのせいで重く感じる?
いやいやいや、迫力が半端じゃねぇっす兄さん……。
「黒鷺」
「あ、ハイ」
思わず敬語になる。気を付けの姿勢で兄さんの言葉を待つ。
「本当に抜けなきゃなんねぇの? 今まで通りじゃだめなのか?」
「……けじめだって。俺は、そんな器用じゃないの。現実だって思ったら、そういうの、なんか、重い?」
はっきりと言葉にすんのは難しいけど、重いんだ。動けなくなるくらい。
でもたぶん、頑張ろうとはするんだ。ギルドのために。そんで、逆に自分の首を絞めてくんだ。
それは、嫌だ。
「ギルドと、自分の生活、たぶん両立できない。てか、そんなふうに考えるのが、できない」
「……なるほどな。精神的に無理、ってか?」
「……そう言う感じ」
ギルド、家族? 仲間? だめ。気持ち悪い? ぞわぞわして鳥肌が立つ。許せない。赦せない。
「んー……わかった。桔梗」
少し考えた風の兄さんは、次にギルマスに声をかけた。
「あ?」
「こいつ抜けさせろ」
「「は!?」」
俺とギルマスの声が重なる。
え、ちょ、いいんすか兄さん!?
「こづk」
「本名で呼ぶんじゃねぇ」
リアルで知り合いなのか、ギルマスがうっかり本名を呼びそうになったらしく、さらにどすの利いた声で兄さんがさえぎった。
「……狐蝶。マジで言ってんのか?」
あ、そうだ狐蝶姐さんだった。……狐蝶兄さん? わぉ、キャラ濃い。
「あったりまえだろ」
「え、まじすか兄さん??」
さらっと話を進めていく兄さんに、思わず口をはさむ。
「いいんだよ。なァ、桔梗?」
兄さんはにぃっと男前に笑ってギルマスに話しかける。
「……」
「やれ。責任は俺が持つ」
笑いをひっこめた真剣な兄さんの声に、ギルマスは嫌そうに、しばらく無言で拒否していたが、すぐに折れた。
「はぁ……わかりましたよ。やればいいんでしょ、やりゃぁ」
「最初から素直にそう言え」
俺の目の前にメニュー画面と同じようなメッセージウィンドウが現れる。
『ギルドマスターから除名宣言がされました』
「……」
え、ほんと? マジで? よ、よかったぁ……縁切りってことになんだろうなって思ってたんだよ……。
「あ、ありがとうございます兄さん!! 俺、一生ついてきm」
「おい、そりゃぁ本末転倒だろォ」
苦笑いする兄さん、まじかっけぇっす!!
もうなんか色々考えなきゃいけないことはたくさんあるんだけど、肩の荷が下りた!! よっしゃぁ!!
嬉しすぎて飛び跳ねる俺を兄さんが捕まえて、内緒話をするように肩を抱いてギルマスに背を向ける。
「あのなぁ、オメェのこたぁ知ってるよ」
「?」
「俺ぁ、あいつの上司だよ」
「!?」
ってことは、運営側? ん? じゃあ、なんで監視外すのに賛成したんだ? 危険要素は排除するべきなんじゃねぇの?
顔に出てたのか、兄さんがなだめるように肩を叩く。
「何年一緒にギルドやってきたよ? 俺ぁオメェが悪い奴だとは思ってねぇよ。でもな、あいつぁ仕事に真面目だからよォ。許してやってくんな」
「当たり前じゃないですか兄さん。知ってますよ、俺だって、ギルマス……あぁ、もう、元・ギルマスか。あの人がオカタイのは」
「ならよかったねェ。だが、念押ししとくぜ。あいつと俺のためによォ、あんまり事件起こすなよ?」
「了解です」
元々そんな気なんてないけど、ちゃんと言っとくに限る。
兄さんは俺の頭をガシガシと撫でた。ちょ、フードが外れるっ!!
「ん。よかったよかった。ちゃんと副マスとかにゃ、話しィしとけよ? あれで慕ってんだから。あとフツーに話せ」
「はーい」
「そーれーと」
「?」
「ちゃんと優勝賞品忘れんなよ?」
げげっ!! しっかり覚えてやがったこの人!! 俺の材料!! まぁ、自分で言ったし仕方ないんだけどね!!
「じゅ、準備でき次第……」
「おうおう。リーザが待ってるかんな」
「しょ、承知……」
あぁぁあああ……やらなきゃいけないことばっか増えていくぅぅうううう……。




