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道化と冠  作者: 青螢
35/69

兄貴ぃ! 俺一生ついていきm((ry

「それ、本気で言ってんのか?」

 ギルマスの鋭い視線が俺を射抜く。

 背筋が凍るね。肝が冷える? 怖い怖い。近くの副マスたちもビビってるくらいだ。ハクは、後ろにいるからわかんないけど、どうも感じてねぇかな。

 なんでもいいさ、関係ない。もう決めたんだ。邪魔なんてさせねぇ。

「もちろん、本気だぜ。俺はソロに戻る。元々、俺はソロでやりたかったんだよ。知ってんだろ?」

「だめだっつったら?」

 あー、声が低い。硬くて、熱くて、怒気があふれ出てる感じ。激おこだよ。おっかねぇ。

「言うと思った。でもよぉ、こんな状況、あんな約束、もう無意味じゃね?」

 昔、色々面倒事を起こした。だから、監視の名目でギルマスのギルドに入った。ほとんど建前とかそんな感じだろう。

 でもよぉ、もう、いいじゃん? ゲーム封鎖されて、まだ監視続ける? 無意味だよ、無意味。俺が何かしたとして、それをどうにかする権限、持ってないだろ? なんとかできるなら、とっととこのゲーム封鎖とけるはずだもんな?

「だからどうした。許可できん」

 頭のオカタイ、ギルマスだから、そう言うって思ってたよ。無意味だって、図星なんだろ? 

 ギルマスが俺のことどう思ってるか、なんてさ、ちょっとはわかってるつもりだぜ? 本気で監視対象から外して、なんかやるなんて思ってるわけじゃねぇ。それくらいの信用と信頼を俺は得てきたと思う。

 でもたぶん、会社とかと約束しちまったから、だから監視を続けようってそんなんなんだろ? オカタイから。

 けどよぉ……?

「はっきり言って、許可なんていらない」

「なんだと?」

 ギルマスが片眉を跳ね上げる。怪訝な表情。

「ギルマスが俺を外す気ねぇんなら、俺は今後一切ギルドには係わんねぇ」

 後ろでリリア嬢が息をのんだ。悪いね、不安にさせちゃったかな? それでも譲れないんだ。

 本当は入るも抜けるもある程度自由なんだがなぁ……副マスなんて役目をしょっちまったから、ギルマスに許可してもらわねぇと抜けらんないんだよなぁ。監視としてはいいかもだけど、俺としてはメンドくせぇ。

 でもそんなの、ギルドに所属してるってだけで、シカトしてれば済む話じゃねっては・な・し。

「お前……」

 ギルマスの眉間のしわが一層深くなる。

「けじめの問題。ギルマスがギルドにいろって言うんなら、いたままにはするぜ? けど、そんだけ。絶対に係わんねぇ。それが俺のけじめ。抜けられるんなら、そうさなぁ、協力はするさ。普通の友人みたいにな」

「いい加減にしろ! そんなの通るわけ……」

「通すさ! 絶対にな!!」

 俺はギルマスの言葉をさえぎった。

 いい加減にしろ? するのはそっちじゃねぇの!

「ふざけんなつってんだよ!! お前が後で後悔するだけだぞ!?」

「後悔!? 何を後悔するって? うn……やつらから約束破りだって怒られるって? ばっかじゃねぇの!? この状況で、これを、まだ、ただのゲームだっつってんの!? おっさん頭固すぎ! これぁある意味でのリアルだよ! 現実だ。だから俺は俺の自由を奪われるわけにはいかねぇんだ!!」

 あぁ、そうだよ、現実だよ。ゲームだから許せたギルドっていうシステムも、リアルじゃ俺は受け付けない。リアルの生活にまで干渉するのは許せない。

 でも少し勢いが余りすぎた。もう少しで運営とか言うところだった。あぶねぇ。ちょっとでも変なことは言わない方がいいだろうに。ばれたらまずすぎ。くそっ。

「ガキがっ!! 勝手なことばっかぬかしてんじゃねぇよ!! お前はいつも勝手だ! こっちこそ、お前みたいなのに、この状況で、振り回されるわけにはいかねぇんだよ!!」

 ギルマスが腰の剣に手を伸ばす。

 あーあ、頭に血が上っちゃって。キレやすくってやぁね。それは俺もだけど。

 無意識に杖に伸びた手を、冷静などこかが嘲笑う。

 すぐに手ぇ出すって、どこのガキよ。両方ガキだなぁ。あほらし。

 ギルマスが剣を、俺は杖を、抜きかけたその時。

「てめぇぇえらぁぁああああ!! いい加減に、しやがれぇぇえええ!!」

 どすの利いた、ひっくい怒鳴り声が雷のように響いた。

「「!?」」

 俺もギルマスも、思わず声のした方を見上げる。そう、見上げる。

 声の主は三階のあたりにいた。

「周りにゃガキだっていんだよ! テメェら二人とも、場所をわきまえやがれっ!!」

 主は手すりに足を引っ掛け、思い切りよく飛び降りた。

 まぁ、ゲームの世界だから危ないことはないんだけど。もうちょっと高さあるところから落ちるのなんて、ボス戦じゃよくあることだし。でもちょっと本能的に? 怖くね?

 主も危なげなく着地する。

 それと同時にふわっと広がった着物の柄に見覚えが……ぁっ!?

「……え、あ、も、もしかして、姐さん!?」

 レア程度のレベルではあるものの、職人手作りの一品物だったやつ。確か。

 ってことは、ことはよ? それ着てる人っつぅのは、一人に定まるわけで……。

 花魁っぽい、ボンキュッボンだった体は消えて、すらっとした男の体になった、無駄な色気はそのままの、狐の姐さんがそこにはいた。

「ぎゃー! なんかイケメンの部類に入りそうだけど、色気垂れ流しって感じの、リアルにいちゃいけない、男花魁みたいになってるぅ!!」

「どういう例えだ一体!!」

 くわっと目を吊り上げて怒鳴る姐さん……兄さん? んーと、名前なんだったかな……まぁ、いいか。兄さんで。

 えっと、兄さんはぶちぎれていらっしゃる。

「黒鷺。桔梗。お前ら、少しは頭冷やせ。場所を考えろ。玄関だぞ? まだ未成年のガキだっている。不安を煽るな」

「「……」」

 イラつきを抑えたような低い声は、ギルマスのものよりもずっと重い。いつもはこってこてのキャラ作りで、廓言葉しか使ってなかったのに、普通に話してるからか? ギャップのせいで重く感じる?

 いやいやいや、迫力が半端じゃねぇっす兄さん……。

「黒鷺」

「あ、ハイ」

 思わず敬語になる。気を付けの姿勢で兄さんの言葉を待つ。

「本当に抜けなきゃなんねぇの? 今まで通りじゃだめなのか?」

「……けじめだって。俺は、そんな器用じゃないの。現実だって思ったら、そういうの、なんか、重い?」

 はっきりと言葉にすんのは難しいけど、重いんだ。動けなくなるくらい。

 でもたぶん、頑張ろうとはするんだ。ギルドのために。そんで、逆に自分の首を絞めてくんだ。

 それは、嫌だ。

「ギルドと、自分の生活、たぶん両立できない。てか、そんなふうに考えるのが、できない」

「……なるほどな。精神的に無理、ってか?」

「……そう言う感じ」

 ギルド、家族? 仲間? だめ。気持ち悪い? ぞわぞわして鳥肌が立つ。許せない。赦せない。

「んー……わかった。桔梗」

 少し考えた風の兄さんは、次にギルマスに声をかけた。

「あ?」

「こいつ抜けさせろ」

「「は!?」」

 俺とギルマスの声が重なる。

 え、ちょ、いいんすか兄さん!?

「こづk」

「本名で呼ぶんじゃねぇ」

 リアルで知り合いなのか、ギルマスがうっかり本名を呼びそうになったらしく、さらにどすの利いた声で兄さんがさえぎった。

「……狐蝶。マジで言ってんのか?」

 あ、そうだ狐蝶姐さんだった。……狐蝶兄さん? わぉ、キャラ濃い。

「あったりまえだろ」

「え、まじすか兄さん??」

 さらっと話を進めていく兄さんに、思わず口をはさむ。

「いいんだよ。なァ、桔梗?」

 兄さんはにぃっと男前に笑ってギルマスに話しかける。

「……」

「やれ。責任は俺が持つ」

 笑いをひっこめた真剣な兄さんの声に、ギルマスは嫌そうに、しばらく無言で拒否していたが、すぐに折れた。

「はぁ……わかりましたよ。やればいいんでしょ、やりゃぁ」

「最初から素直にそう言え」

 俺の目の前にメニュー画面と同じようなメッセージウィンドウが現れる。

 『ギルドマスターから除名宣言がされました』

「……」

 え、ほんと? マジで? よ、よかったぁ……縁切りってことになんだろうなって思ってたんだよ……。

「あ、ありがとうございます兄さん!! 俺、一生ついてきm」

「おい、そりゃぁ本末転倒だろォ」

 苦笑いする兄さん、まじかっけぇっす!!

 もうなんか色々考えなきゃいけないことはたくさんあるんだけど、肩の荷が下りた!! よっしゃぁ!!

 嬉しすぎて飛び跳ねる俺を兄さんが捕まえて、内緒話をするように肩を抱いてギルマスに背を向ける。

「あのなぁ、オメェのこたぁ知ってるよ」

「?」

「俺ぁ、あいつの上司だよ」

「!?」

 ってことは、運営側? ん? じゃあ、なんで監視外すのに賛成したんだ? 危険要素は排除するべきなんじゃねぇの?

 顔に出てたのか、兄さんがなだめるように肩を叩く。

「何年一緒にギルドやってきたよ? 俺ぁオメェが悪い奴だとは思ってねぇよ。でもな、あいつぁ仕事に真面目だからよォ。許してやってくんな」

「当たり前じゃないですか兄さん。知ってますよ、俺だって、ギルマス……あぁ、もう、元・ギルマスか。あの人がオカタイのは」

「ならよかったねェ。だが、念押ししとくぜ。あいつと俺のためによォ、あんまり事件起こすなよ?」

「了解です」

 元々そんな気なんてないけど、ちゃんと言っとくに限る。

 兄さんは俺の頭をガシガシと撫でた。ちょ、フードが外れるっ!!

「ん。よかったよかった。ちゃんと副マスとかにゃ、話しィしとけよ? あれで慕ってんだから。あとフツーに話せ」

「はーい」

「そーれーと」

「?」

「ちゃんと優勝賞品忘れんなよ?」

 げげっ!! しっかり覚えてやがったこの人!! 俺の材料!! まぁ、自分で言ったし仕方ないんだけどね!!

「じゅ、準備でき次第……」

「おうおう。リーザが待ってるかんな」

「しょ、承知……」

 あぁぁあああ……やらなきゃいけないことばっか増えていくぅぅうううう……。

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