地震雷火事おっさん
俺が思ってたより、ハクの心の傷は深そうだ。ちょっと気を付けてみておいてやんないとなぁ。
ハクが起きる前に作っておいたクッキーの種を型抜きしつついろいろ考える。
型も手作りだぜ。ハート・星・花・蝶々・丸・魚。いろんな形。だって売ってねぇんだもん……。
クッキーの味はプレーン・ココア・ストロベリー・抹茶・コーヒー。甘さも控えめから、結構甘めまで。
まぁまぁ、こんだけ取り揃えれば問題ないっしょ。きっと食えるようなやつが一つくらい誰でもあるはずだ!
今はハクに説明を終えた後。パニック状態になっちまったハクをなだめて、気分転換と実験も兼ねて、ハクにもクッキーづくりを手伝ってもらってる。
どの程度料理に参加したら味に影響が出るのとか、な。
まぁ、種作ったの俺だから、そこまで影響でねぇとは思うけど。現実での料理に相当するなら。
「ハク? できた?」
「ん。これでいい?」
「オケオケ。んじゃ、焼いてこー」
リビングダイニングキッチンの部屋の方の、キッチンの横の扉の奥にある、キッチン。
説明なげぇな、オイ。
まぁ、普通のキッチンの奥に、さらに大きなキッチン……もう厨房でいいか。そんな感じのとこで今クッキー制作中。オーブンが三つあるから、二つはハクに使ってもらう。
型ぬき・焼きを俺の所と、型ぬきは俺、焼きはハクの所、両方ハクの所。型抜きハク、焼きは俺、っていうのはオーブンの数と時間的にカット。
型ぬくの、ハク遅かったんだよなぁ。その間に俺一個焼いちゃったから……。
てか、どんだけ焼くんだって感じだよな……ギルドに配るから八十人分くらい作んねぇとなんだよ……大変……。
「よっしゃ。手伝い感謝」
「ん、これくらい……」
「いやいや、助かった。あんがとな」
「ん……」
直球でお礼を言うと、ハクはよく照れる。む、そんなことになると俺まで照れるぜ。
えーっと、焼けるまで、二十分くらいか。冷やす分もあるから……二時間あれば出られるかぁ……?
「とりあえず焼けるまで、ハク何買うか考えとけ」
「部屋はそのままでも大丈夫だけど……」
「他にもいろいろ、服とかいるだろ? どうせ買うなら全部いっきに買っちまえよ。もしくは俺から買い取って? 安くしとくぜ~」
製作品、適当にぶち込みっぱだし……正直言って整理もしたいからそっちの方が助かるかも……。
「んー、そうしようかな……? わざわざ選びに行くのもあれだし……」
「え? マジで? いいけど、なんか必要なら遠慮なくいえよ? 買い物くらい一緒に行くし。てか、作れんなら作るぜ?」
「ありがとう」
ちなみに家ルールとして食事を作る代わりにハクからは食材とか食費をもらうことになった。その他もね、買取とか多々ある。
「んじゃ、今日は俺の予定に付き合ってくれんだから、ちょっとサービスしてぇ……夜飯好きなの作ってやるよ」
「それは俺の我がままだし、それに昨日もそうだったんじゃ……?」
「こまけぇこと気にすんなよっ」
アイテム欄で倉庫整理しながら会話をしていたら、あっという間にクッキーが焼き上がった。
オーブンから出して、冷風の魔法で急ぎめに冷ます。
「ん、うま~い♪」
冷ましてる間につまみ食い。え、自画自賛? うるせー。
「おいしい」
「あんがと♪」
ハクはもちろんつまみ食いじゃないぜ? 俺がすすめた。
一応三種類全部食べたけど、味は変わんないみたい。同じ設定で焼くだけとかだったらレベルは関係なさげ?
だったら作り置きでも自分で温めて食えるか。よし、そんなら大丈夫だな。作れるときにいっぱいつくっとこ。
……もちろん、リアルで料理下手で、温めるだけなのに焦がしちゃう、とかだったらアウトだろうけど。
レンジがあればなー。さすがにあれは作れなかった。オーブンも下と上から炎の魔法的なのが出るだけの装置だし。マイクロウェーブってどういう魔法よ……。再現不可能じゃね……?
こういう時に現代すげーって思うよな。文明の利器さすが。
「実験も終了したし、適当にラッピングして……とっととギルド行くか……」
気が重い。行きたくない。面倒くさい。
でも行かないとなー。最終的に今まで一回も返信してないからなー。怖いなー。途中から一通も来なくなったのが逆に怖い。
……行くのやめよっかな。
「クロ? 行かないのか?」
玄関で立ち止まる俺に、ハクが首をかしげる。
そうですよねー。いまさらですよねー。
……腹くくりましょう!
「行くか!!」
とか気合い入れて出てきたんだけど……。
「うーーー……」
ギルドハウスの前で、ビルを見上げながら二の足を踏んでいます。行きたくなーい。できることなら逃げたーい。
「……」
ハクの視線が困惑気味。はい、ごめんなさい。つきあわせて申し訳ない。でも、でもなー……あれだよ、職員室に説教のために呼び出されてんのに、入りてぇか? 入りたくねぇよな? でも逃げらんねぇんだよな。
うぎゃーーーー!!
「……はぁ……行くかぁ……」
仕方ない。でもやっぱ行きたくねぇ……でも行かなきゃなぁ!!
「あ、ハクぅ、ちょぉぉぉおぉおおおおおっと、大ゲンカするかもしれないから、最後、逃げるかもしれないからぁ、その時はダッシュしてな?」
「?」
いや、うん、わかるよ? 意味わかんねぇよな……でもね、たぶん、相当すんごい喧嘩しそうなんだよなぁ……。
「あー、巻き込んでごめんな? やっぱ外で待ってるか?」
「……いや、一緒に行っていいなら……」
「じゃあ、悪いな。行くか」
「ん」
こうなりゃ勢いだ! とっとと入っちまえ!!
ドアにぶち当たる勢いで俺はギルドホームの中に入って行った。
「たのもぉぉおおおおお!!」
俺は道場破りか! っていうツッコミが頭の中をかすめたけど、もうどうでもいい!
「黒鷺?」
ギルマスが若干目を丸くして、何やってんだ? とでも言いたげな視線を向けてくる。
エントランスのど真ん中、入り口入って真正面にギルマスと副マスが話し合っていた。副マス二人の視線も痛い。
エントランスにはソファーとか一応あるんだけどな? 何でど真ん中で立ち話?
「こんちゃーっすギルマス!!」
無駄にハイテンション。うん、気にしたら負けだと思う。
「……言いたいことはそれだけか?」
あー、ギルマスが額に青筋たてて聞いてくるよー。おこだよー? ギルマス激おこだよー?
「……すいぁせんっしたぁぁぁあああ!!」
殺気を感じて、俺は腰を直角に曲げ謝った。スライディング土下座の方がよかった!?
「言い訳があるなら聞いてやる」
うぐっ、背中に視線が突き刺さる。顔あげらんねぇ!!
「い、いやさぁ、俺にもいろいろ事情が、なぁ?」
「だから、それを、聞いてやっても、いいって、言ってんだ。とっとと顔あげてみろよ、あぁ?」
一言ずつ区切らないでくださいギルマス。最後ヤンキーですかギルマス。怖いですギルマス。ごめんなさいギルマスぅ!!
何とかあげた視界に副マスたちがビビって後ずさってるのが見える。ってか、君ら副マスでいいんだよね!?
シエルファと思われる、坊ちゃん風の服を着ている少年。少し背が高くなって、坊ちゃんって感じのかわいい少年っぽさは消えて、しゅっとした? かっこよくなった? 好少年だね?
リリア嬢と思われる、ロリータ少女。……リアルっぽくはなったけど、可愛い方だな。目は大きいし、顔も小さいし。
ふったりともレベルたけぇな。さぞかしもてるんだろうな……。
あ、ちなみにギルマスは神経質そうなおっさん。太ってないし、むしろ痩せてる方。イケオジサン?
そんなにアバターはいじってないはずだけど、しわが少し増えたかなぁ? 主に眉間←
なぁ……俺のまわり、レベル高くないか? なんでイケメンとかかわいい子とか、美形とか!!
ここは乙女ゲーか!!
「く、クロちゃん……だよね?」
リリア嬢が確かめるように聞いてくる。
「うん、そうそう。リリア嬢、だよな?」
「うん、そう……こっちはシーエ」
「どーも」
「服変わってねぇから、わかりやすくて助かるねぇ」
あー、俺以外こんな不審者っぽいのいねぇや。あははー。
「クロさんはどうしてそんな恰好なの?」
シエルファが不審そうな視線を向けてくる。わかりますよーその気持ち-。声低くなったねー。
「まぁ、まぁ、気にしないのー。気にしたら負けだぜ」
「ふーん?」
「くろちゃぁぁん!!」
「うわっと!?」
リリア嬢が突然抱き着いてきた。
「なんでいつまでも返事しなかったのよぉぉおお!! バカクロ!! 心配したじゃなぁい!!」
な、泣いてる!? うわぁぁぁやべぇぇぇええ!!
「ご、ごめんなリリア嬢!? ちょっと俺もテンパっちゃって……」
「バカクロぉ!! アタシだっていろいろ怖いんだからぁ!!」
「うん、うん、ごめんよぉ」
「バカァぁぁあああ!!」
「わー、よしよし、ほんと悪かったってぇ……」
何とかなだめようとしていたら、シエルファが近づいてきてボソッと一言。
「リリアちゃん泣かすなんてサイテー」
ぐさっ。
「まじでごめん!!」
「うわぁぁああん!!」
「う、うわぁぁあ……」
え、どうしよう!? どうしたらいいかな!?
ギルマスに視線を送ったら、そ ら さ れ た !!
し、しえる……な!? 最初から見ていない……だとっ!? てかキミ、さっきキャラかわってなかったかい!?
「……リリア嬢ぉ~」
「うっ、ぐすっ」
しゃくりあげたままひっついているリリア嬢から少し体を離して、顔を見れるように上げさせる。
「口開けて、あーん」
「うー?」
くしゃくしゃした顔でうなるリリア嬢を、無理やりいうこと聞かせるようにもう一回。
「あーーーん」
「あっ、あーん?」
小さく開いた口に無理やり小さな欠片を押し込む。
「むっ、ん? んー!?」
目をカッと見開いて、のどの奥で悲鳴を上げるから、さすがにヤバいかなーって思った。
「……まずい?」
こくこくこくっ!!
「小さいから飲み込めるでしょ?」
「!?」
やっと気が付いたかのように急いで飲み込む。それから俺に向かって怒鳴り始めた。
「何あれ!? ばっかじゃないの!? まずいなんてもんじゃないわよ!? 何なのよあれ!?」
「んー? 酸っぱさ百倍レモンキャンディー。これで涙も一瞬で引っ込むヨ★」
クッキー作ってる間に作ったんだけど、こういう使い方をするとは……。ジョークアイテムだったのになー。
「逆に泣けるわ、ばっっっっっかじゃないのぉぉぉおおおおおおお!?」
あー、耳がキーンってするー。超大音量&超高音だねー。
叫びたくなる気持ちもわかるけど、
「でも、ほらー、涙止まったデショ?」
「~~~~~~~っ!!」
「わーん、ごめんねー、ほら口直し。ミルクティーキャンディー。舐める?」
「舐める!!」
もう一個取り出した飴を、リリア嬢は奪うように口に放り込んだ。
これで少しはおとなしくなるでしょ。
「本当、ごめんね。でも今日は、ギルマスに大事な話が合ってきたんだ。ちょっと待っててくれる?」
「……ん」
いまだ涙目で睨みあげては来るけれど、しぶしぶといった様子でうなずいてくれた。
「ん、あんがと。埋め合わせは必ず、ね」
リリア嬢はシエルファの隣によって、邪魔をしないと意志表示する。シエルファも首を振って一歩下がった。
「ハク、すんごいおいてけぼりにして悪いんだけど、もう少し待っててな?」
「……」
他の奴らがいるからか、ハク小さく頷くにとどめた。ちょっとポカーンとしてたけど、人見知り発動だろう、昨日ほどアホ面は晒してなかった。美形だからね、そんな顔させちゃだめだよね。
え、俺のせい? うふふ(キモい
「……で、なんだ話って?」
ギルマスが嫌そうに、話しを聞く体勢になった。
あぁ、いろいろ騒いだから人が集まってきた。エントランスの奥の方も、上階からも、視線を感じる。
「……」
言ったらきっと、リリア嬢、また喚いちゃうのかなぁ。めんどくさいなぁ。仕方ないけど。
「……ギルマスぅ、俺ギルド辞めたい。了承して」
言った瞬間、ギルマスの目が見開かれ、次に思い切り顔をしかめた。
「それ、本気で言ってんのか?」




